若者の健康保護を基軸にしたタバコ政策が急務 海外のタバコ政策を基に考えた日本の現状について
2024.7.23 Tue
研究発表のポイント
- 世界各国のさまざまな背景情報を基に、タバコ政策を比較する分析枠組みを検討しました。
- アメリカやオーストラリア、イギリスなどの諸外国ではタバコ政策策定の最大の原動力が「若者の健康保護」であることが判明しました。
- 加熱式タバコが若年層を中心に急速に普及している現在、日本でも「若者の健康保護」を主体としたタバコ政策を実践することが期待されます。
概要
電子タバコや加熱式タバコなど、新型タバコ製品が若者を中心として全世界で急速に普及しています。各国政府はさまざまなタバコ規制政策を打ち出していますが、その内容や進め方は国によって異なります。
東北大学医学部5年生の出口敦智氏、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田淵貴大准教授は、タバコ政策の分析枠組みを提案した最新の研究を紹介しつつ、その枠組みを活用した分析の結果、諸外国のタバコ政策策定の最大の原動力が「若者の健康保護」であることを明らかにしました。
本成果では日本の政策の現状や加熱式タバコの使用増加などの課題にも触れつつ、客観的な政策分析の重要性と今後の日本のタバコ政策の在り方についても言及しています。海外のタバコ政策のトレンドをもとに、日本においても若者を中心とした法整備に貢献することが期待されます。
本コメンタリー論文は、2024年7月4日に依存症に関する分野の専門誌Addictionに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
電子タバコや加熱式タバコなどの新型タバコ製品が、世界中で若者を中心に急速に普及しています。各国政府はさまざまな規制政策を打ち出していますが、その内容や進め方は国によって大きく異なっています。タバコ政策は各国の歴史的、文化的、政治的背景に深く根ざしているため、効果的な政策策定には国ごとの事情を考慮する必要があります。今回、海外でこれらの背景情報をもとにタバコ政策を解析する分析枠組みが2024年3月に発表され ました。
今回の取り組み
本論文では、前述のタバコ政策の分析枠組みを提案した最新の研究を紹介しました。この枠組みは、国家の性質、政治的背景、規制機関、ニコチン規制の歴史、アクティビズム、ハーム・リダクション(注1)の概念、政策の恩恵を受ける主な対象などの要素に着目しています。
この枠組みを発表した研究グループはイギリス、オーストラリア、アメリカのタバコ規制事情を比較分析し、各国の政策の違いが構造的・歴史的な要因に基づいていることを指摘しました。特に、ニコチンのハーム・リダクション政策に批判的なアメリカとオーストラリアでは、若者を主な保護対象とした厳格な規制政策が取られていることがわかりました。
しかし、タバコ政策は流動的であり、各国の事情は刻一刻と変化しています。そこで、我々はこの枠組みを使用して諸外国における最新のタバコ政策事情を再度調査しました。結果、イギリス、オーストラリア、アメリカのタバコ政策において、タバコ政策策定の最大の原動力が「若者の健康保護」であることを明らかにしました。
今後の展開
この研究成果は、各国の事情を踏まえつつ、効果的なタバコ政策の策定に貢献する可能性があります。客観的な政策分析の枠組みを用いることで、現行の規制を形作っている要因や、改革を妨げている構造的な障壁を明らかにすることができると期待されます。
また、若者の健康保護が現代のタバコ政策の共通目標になっていることが浮き彫りになりました。この知見は、国際比較研究の新たな方法論を提示し、公衆衛生学の分野に貢献する可能性があります。各国の政策立案者に新たな視点を提供し、より効果的なタバコ政策の実現につながることも期待されます。
最後に、この研究は国や社会が守るべき対象は何なのかという問いを立て、タバコ政策の在り方について再考する機会を提供しています。現在日本では、加熱式タバコの普及など、さまざまな新しいタバコ関連課題が発生しています。加熱式タバコは従来の紙巻きタバコの代替品として急速に普及しており、特に若年層での使用増加が懸念されています。研究グループは海外のタバコ政策のトレンドを参考に、日本においても若者を中心としたタバコ政策の策定が今後なされることを期待しています。

※日本の値はOdani, et al. 、世界平均の値はSun, et al. を参照。
用語説明
注1.ハーム・リダクション:たばことニコチンの使用を完全に排除するこ となく、害を最小限に抑え、死亡と疾病を減少させること
論文情報
タイトル:A tobacco control policy analysis framework that extends into the future
筆頭著者:東北大学医学部医学科 学部学生 出口敦智
*責任著者:東北大学医学系研究科公衆衛生学分野 准教授 田淵貴大
掲載誌:Addiction
DOI:https://doi.org/10.1111/add.16597
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/add.16597
問い合わせ先
東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生学分野
准教授 田淵 貴大(たぶち たかひろ)
TEL:022-717-8123
Email:tabuchitak*gmail.com(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
- 関連資料
- 詳細(PDF)
- 関連リンク
- 公衆衛生学分野