慢性不眠が炎症性腸疾患を悪化させる可能性 炎症性腸疾患患者の睡眠状況に関するアンケート調査結果
2024.8.7 Wed
研究発表のポイント
- 慢性不眠と炎症性腸疾患の関連について検討しました。
- 慢性不眠を有する潰瘍性患者群は、不眠を有しない群に比べて、腸炎の治療強化を必要としていた割合が高いことを明らかにしました。
- 慢性不眠を有する潰瘍性大腸炎患者に治療介入を行うことにより、腸炎増悪の危険性を低下させられることが期待されます。
概要
潰瘍性大腸炎(注1)とクローン病(注2)に大別される炎症性腸疾患は、慢性の腸炎を起こす病気です。不眠や精神的ストレスなどが病状悪化の一因になると言われてきましたが、実際の確認はできてはいませんでした。
東北大学病院消化器内科の大山秀晃医師(現八戸市立市民病院)、諸井林太郎病院講師、正宗淳教授らの研究グループは、アンケート調査の結果をもとに炎症性腸疾患患者の慢性不眠の有無を評価し、慢性不眠の有無で2群に分けて経過観察を行い、その後の炎症性腸疾患の治療強化を要した割合を比較しました。その結果、慢性不眠を有する潰瘍性大腸炎患者群は、不眠を有しない群に比べて腸炎の治療強化を必要としている割合が高く、慢性不眠が潰瘍性大腸炎の増悪に関与している可能性が示唆されました。
本研究結果から、慢性不眠を有する潰瘍性大腸炎患者に不眠治療を行うことで腸炎悪化の危険性を低下させられることが期待されます。
本研究結果は2024年7月25日、炎症性腸疾患に関する専門誌Journal of Crohn’s and Colitisの電子版に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎やクローン病など慢性的な腸の炎症を引き起こす病気の総称で、病状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことを特徴とします。症状が増悪する原因はこれまで明らかになっていませんでしたが、精神的ストレス、不眠などがその一因であると考えられていました。
今回の取り組み
東北大学病院消化器内科の大山秀晃(おおやま ひであき)医師(現八戸市立市民病院)、諸井林太郎(もろい りんたろう)病院講師、正宗淳(まさむね あつし)教授らの研究グループは、炎症性腸疾患で通院中の患者を対象に睡眠に関するアンケート調査を行い、慢性的な不眠状態を有する群と有しない群に分け、その後の炎症性腸疾患の病状がどう変化するかを経過観察しました(図1)。
その結果、慢性的な不眠を有する群は、有しない群に比べて炎症性腸疾患の治療法の変更・強化を必要とした割合が高いことを明らかにしました(不眠群23.3%、非不眠群8.9%、P=0.0033)。炎症性腸疾患の中でも特に潰瘍性大腸炎の患者で、慢性的な不眠を有する群は有しない群に比べて、治療変更・強化を要した割合が高いことが分かりました(不眠群34.5%、非不眠群10.3%、P=0.031)(図2)。クローン病の患者では慢性不眠の有無で治療内容の変更・強化を必要とした割合は変わりませんでした。今回の結果から、慢性的な不眠は潰瘍性大腸炎の病状が悪化する要因の一つになり得る可能性が示唆されました。
今後の展開
今後は本アンケート調査をさらに拡大し、より多くの患者を対象に同様の検討を行います。また、不眠に対する治療が腸炎の増悪を抑制する効果があるかどうかも調査する予定です。


謝辞
該当なし
用語説明
注1.潰瘍性大腸炎:血便などを主訴とする大腸炎で、国の指定難病です。若年で発症することが多く、比較的高齢で発症することもある。長く炎症が持続すると大腸がんを合併するリスクが高くなるため、定期的な内視鏡検査などをしながら炎症をコントロールしていく必要がある。
注2.クローン病:主に小腸や大腸に原因不明の潰瘍などの炎症をきたす難治性の慢性腸炎で国の指定難病。若年で発症することが多く、長期にわたって定期的な検査や治療が必要となる。
論文情報
タイトル:Chronic poor sleep is associated with increased disease activity in patients with ulcerative colitis: Prospective observational study in Japan
著者:大山 秀晃、諸井 林太郎*、佐久間 篤、下山 雄丞、永井 博、内藤 健夫、志賀 永嗣、角田 洋一、木内 喜孝、正宗 淳
*責任著者:東北大学病院 消化器内科 病院講師 諸井 林太郎
掲載誌:Journal of Crohn’s and Colitis
DOI:10.1093/ecco-jcc/jjae116
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学病院 消化器内科
病院講師 諸井 林太郎
TEL:022-717-7171
Email:rinta*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
- 関連資料
- プレスリリース資料(PDF)