心房細動治療が眼底血流の改善に寄与 眼底微小循環の改善と臓器保護効果に期待
2024.8.30 Fri
研究発表のポイント
- 心房細動(注1)は加齢に伴い増加する不整脈で、心不全(注2)・脳梗塞(注3)・認知症の発症リスクを増加させます。現在約100万人の患者数が推定されており、今後も増加が予想されています。
- 心房細動に対する根治治療であるカテーテルアブレーション(注4)の施行により、脈拍の正常化のみならず、眼底の血流などの微小循環障害が改善する可能性を示唆する結果を得ました。
- 本研究成果により、微小循環障害の改善を介した臓器保護や機能改善効果が期待されます。
概要
心房細動は加齢に伴い増加する不整脈です。現在約100万人の患者数が推定されており、今後も増加が予想されています。心房細動は、心不全・脳梗塞・認知症の発症リスクを増加させます。その要因には血流障害や血栓形成が考えられています。近年、心房細動に対する根治治療としてカテーテルアブレーションが普及し、心不全の改善効果などが報告されていますが、組織や臓器における微小循環のカテーテルアブレーションの効果については明らかにされていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡教授、中野誠講師、山本惟彦助教、同眼科学分野中澤徹教授らの研究グループは、東北大学病院にて心房細動に対してカテーテルアブレーションを施行した患者において、治療前後で眼底の微小循環血流を評価しました。その結果、持続性の心房細動からカテーテルアブレーションにより洞調律(注5)に回復することで、眼底の微小循環血流が有意に改善することが示されました。
本研究成果により、心房細動に対するカテーテルアブレーションにより、脈拍の正常化のみならず、微小循環障害の改善を介した臓器保護、機能改善効果が期待されます。
本研究成果は2024年8月8日に、学術誌European Heart Journal Imaging Methods and Practiceにオンライン掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
心房細動は加齢に伴い増加する不整脈であり、現在約100万人の患者数が推定されており、今後も増加が見込まれています。心房細動は心不全、脳梗塞の原因疾患となることが知られていますが、近年、認知機能障害の一因になることも明らかになっています。これまでに心房細動治療による心不全の改善効果などが報告されていますが、眼血流などの微小循環の改善効果については明らかにされていませんでした。
今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡(やすだ さとし)教授、中野誠講師(なかの まこと)、山本惟彦(やまもと のぶひこ)助教、同眼科学分野中澤徹(なかざわ とおる)教授らの研究グループは、東北大学病院にて心房細動に対する根治治療であるカテーテルアブレーション施行患者において、治療前後の眼底の微小循環血流を評価しました。その結果、持続性心房細動患者20例において、カテーテルアブレーションにより洞調律に回復することで、眼底の微小循環血流が有意に改善することが示されました。
今後の展開
本研究成果により、心房細動に対するカテーテルアブレーションにより脈拍の正常化のみならず、全身の微小循環障害が改善する可能性が示唆されました。微小循環障害の改善を介した臓器保護や機能改善効果が期待されます。

C:持続性心房細動患者に対するカテーテルアブレーションにより眼血流の増加が示される。
謝辞
本研究の一部はJST 共創の場形成支援プログラムJPMJPF2201の研究費により行われました。また、研究に参加頂いた患者の皆様に深く御礼申し上げます。
用語説明
注1.心房細動:脈が不規則になる不整脈という病気の1つで、心房が細かく動いてけいれんしている状態。短時間に正常な脈(洞調律)に戻る発作性心房細動、何らかの治療介入で洞調律に戻る持続性心房細動がある。
注2.心不全:心臓を養う血管の病気、心筋自体の病気、不整脈などで全身に血液を拍出するという心臓本来の機能が損なわれている状態。肺や全身に血液が貯留し、呼吸困難やむくみが生じる。
注3.脳梗塞:脳を養う血管が閉塞されてしまい、その部分の脳障害が生じる病気。手足の麻痺、言葉を上手く発せない、などの症状が出現する。心房細動により血液の塊が脳血管を閉塞してしまうと重篤な脳梗塞が生じる。
注4.カテーテルアブレーション:不整脈に起源である心臓の異常な筋肉を焼灼や冷却の方法で治療する不整脈の根治治療。
注5.洞調律:正常な心臓の脈の状態。規則正しいリズムで心臓が拍動する。
論文情報
Title:Ocular blood flow dynamics following sinus rhythm restoration through catheter ablation: laser speckle flowgraphy in patients with persistent atrial fibrillation
著者:Nobuhiko Yamamoto, Makoto Nakano, Kotaro Nochioka, Masayuki Yasuda, Hiroshi Kunikata, Toru Nakazawa, Satoshi Yasuda*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 教授 安田 聡
掲載誌:European Heart Journal – Imaging Methods and Practice
DOI:10.1093/ehjimp/qyae071
URL:https://academic.oup.com/ehjimp/article/2/3/qyae071/7729253
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
循環器内科学分野
教授 安田 聡(やすだ さとし)
TEL:022-717-7152
Email:syasuda*cardio.med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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