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環境中の二酸化炭素は確かに眠気を誘発する

発表のポイント
  • 換気の悪い屋内環境では、二酸化炭素濃度の上昇が日中の眠気の原因となると言われていましたが、因果関係は不明でした。
  • 睡眠障害の臨床的診断に使用される睡眠潜時反復検査(注1)を用い、二酸化炭素濃度を厳密に制御した環境下で調べた結果、実際に二酸化炭素が日中の眠気を引き起こしていることがわかりました。
  • 本研究結果は、各法令における二酸化炭素濃度基準について、新たな科学的根拠を提供するものです。
概要

換気が悪く混み合った屋内や車内では、しばしば眠気に襲われます。この日中の眠気は、二酸化炭素濃度が高くなったことが原因とされていますが、これまで科学的に妥当な証拠は報告されていませんでした。この要因としては、従来の報告では、主観的な評価方法によって日中の眠気が測定されていたこと、客観的な指標と考えられていた脳波の変化が、眠気に関係なく二酸化炭素の影響を受けてしまっていたことなどが考えられました。
東北大学大学院医工学研究科の稲田 仁特任准教授(現:国立精神・神経医療研究センター研究員)と永富 良一教授(現:産学連携機構)らの研究チームは、二酸化炭素が眠気を引き起こしている確かな証拠が得られたことを報告しました。同研究チームは、睡眠障害の検査に臨床的に使用されている睡眠潜時反復検査を客観的な眠気測定方法として、日中の眠気の測定に使用しました。その結果、日中に2時間毎に4回行われる、各30分の検査中に5,000ppm(注2)という比較的高い二酸化炭素濃度にさらされると、日中の眠気が顕著に強くなることが示されました。また同様に、主観的な眠気も強くなることが示されました。本研究の結果は、日中の眠気に対する二酸化炭素の効果について最終的な結論となるものであり、各法令における二酸化炭素濃度基準についての科学的に妥当な根拠を提供するものです。
本研究成果は、2024年8月19日に国際科学誌Environmental Researchに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
換気が悪く混み合った屋内や車内では、しばしば強い眠気に襲われます。この日中の眠気は、高くなった二酸化炭素濃度が原因となって引き起こされているとされています(図1)。換気の悪い空間では、環境中の二酸化炭素濃度は容易に5,000ppmにまで達するため、健康面での安全のため、建築物環境衛生管理基準では1,000ppm以下、事務所衛生基準規則では5,000ppm以下に抑えるよう基準値が定められています。しかしながら、実は高い環境二酸化炭素が眠気を引き起こすかについては未だ結論が出ておらず、環境中の二酸化炭素濃度と日中の眠気との間の関係を厳密に測定した研究は、これまで行われてきませんでした。

今回の取り組み
東北大学大学院医工学研究科の稲田 仁(いなだ ひとし)特任准教授、永富 良一(ながとみ りょういち)教授、金 瑞年(きん ずいねん)研究員の研究チームは、厳密に二酸化炭素濃度を制御した環境下で、睡眠障害の臨床的診断に使用される睡眠潜時反復検査を用い、客観的な指標によって日中の眠気の測定を行いました。参加者11人には睡眠不足にならないように、検査前の1週間は7時間以上の十分な睡眠時間を取ってもらうことを徹底してもらいました。その結果、日中に2時間毎に4回行われる、各30分の検査中に5,000ppmの比較的高濃度の二酸化炭素にさらされると、日中の眠気が有意に強くなることが示されました(p=0.024)。また同様に、主観的な眠気も有意に強くなることが示されました(p<0.001)(図2)。
二酸化炭素濃度を厳密に制御した環境下で、臨床的にも妥当な測定方法によって、二酸化炭素濃度が日中の眠気に与える影響を客観的に測定した結果、二酸化炭素が日中の眠気を引き起こしている確かな証拠が得られました。本研究の結果は、日中の眠気に対する二酸化炭素の効果について最終的な結論となるものであり、各法令における二酸化炭素濃度基準についての科学的に妥当な根拠を提供するものです。

今後の展開
二酸化炭素濃度の調節により、職場や自動車運転時に集中しやすい眠気が起こらない環境をつくったり、逆に自宅や宿泊先あるいは仮眠室などにおいて眠りやすくなる環境をつくるための客観的な根拠となることが期待されます。

図1.室内の二酸化炭素濃度上昇は日中の眠気を引き起こすと言われているが、これまで因果関係は不明だった。厳密な測定の結果、二酸化炭素は日中の眠気を引き起こすことがわかった。
図2.二酸化炭素に暴露されると、客観的な眠気(A)と主観的な眠気(B)ともに、有意に強くなった。
謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST)センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム(課題番号 JPMJCE1303)の支援を受けて行われました。

用語説明

注1.睡眠潜時反復検査:日中の眠気を客観的に測定するための、脳波や呼吸数などの生理反応を測定する検査。 通常は日中2時間毎に4〜5回の短時間の昼寝を行い、消灯から睡眠開始までの時間(睡眠潜時)を測定する。 潜時が短いほど眠気が強いことを示す。日中の眠気を客観的に測定する標準検査となっている。
注2.ppm:百万分率のこと。百万分のうちどのくらいの割合かを示す単位。1ppm = 0.0001%である。5,000 ppm の二酸化炭素濃度は0.5%に相当する。

論文情報

タイトル:健康なボランティアの睡眠潜時に対する二酸化炭素曝露の影響: ランダム化対応クロスオーバー研究、睡眠潜時反復検査による証拠
著者名:金瑞年, 稲田仁*, 門間陽樹, 馬冬梅, 袁可青, 永富良一*
*責任著者:
東北大学大学院医工学研究科 特任准教授 稲田仁
東北大学大学院医工学研究科 教授 永富良一
掲載誌名:Environmental Research
DOI:https://doi.org/10.1016/j.envres.2024.119785
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935124016906

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学産学連携機構
イノベーション戦略推進センター
特任教授 永富 良一
TEL:022-717-8586
Email:ryoichi.nagatomi.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学産学連携機構
イノベーション戦略推進センター事務支援室
TEL:022-752-2188
Email:promo-innov*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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