医療機器の使用成績調査の利活用を促進する統合型静脈疾患レジストリシステムを構築
~医療現場の省力化・効率化と情報の信頼性を確保~
2024.12.11 Wed
発表のポイント
- 東北大学病院とサスメド株式会社(以下、「サスメド」)は静脈疾患に関する複数の医療機器などの使用成績調査(注1)を一元化し、製造販売後データベース調査に活用できる「統合型静脈疾患レジストリシステム」(以下、「本レジストリ」)を構築しました。
- 使用成績調査の情報収集にはこれまで医療現場で多大なる労力を要していましたが、本レジストリの稼働により労力の削減、効率の向上を図ることが可能となります。
- 本レジストリはブロックチェーン技術(注2)を用いることでデータの信頼性を十分に担保し、収集した使用成績調査の価値の向上と利活用の促進が期待されます。
概要
新規の医薬品、医療機器および再生医療等製品は、市販後にそれらを使用した成績等の調査を一定期間実施することが基本的に義務付けられています。この使用成績調査の情報はそれぞれの製品ごとに個別に収集されるため、医療現場では、複数製品の記録作業に多大な労力と時間を要しています。また、同一患者に使用した製品であっても情報が統合されることはなく、加えて信頼性が担保されていないため、十分な利活用が行われていないのが現状です。
東北大学病院とサスメドは、複数の静脈疾患関連学会および製造販売業者間の垣根を超え、静脈疾患に使用する複数の製品の使用成績調査を一元化できる本邦初の「統合型静脈疾患レジストリシステム」を構築しました。本レジストリにより、医療現場での負荷の軽減や業務効率の向上が期待されるとともに、ブロックチェーン技術を用いてデータの信頼性を担保することで、使用成績調査というリアルワールドデータの利活用を推進することが可能となります。
詳細な説明
研究の背景
新規の医薬品、医療機器および再生医療等製品には、市販後にそれらを使用した成績等の調査を一定期間実施する使用成績調査が基本的に義務付けられています。使用成績調査はそれぞれの製品に対して実施するため、同一の患者に複数の製品が導入される疾患でもその製品ごとにそれぞれ異なるシステムを使用して入力する必要があり、類似の製品であっても別のデータとして記録されて統合されないため、疾患全体に対する効果の把握や分析は困難です。また、製品ごとの個別の記録についてはその手順も煩雑なため、医療現場では多大な労力と時間を要し、業務の逼迫も大きな課題の一つとなっています。さらに、そのように収集されたデータは質が均一ではなく信頼性が担保されていないため、データのさらなる利活用は全くなされていないのが現状です。
また医療機器については、新規の医療機器の承認時に、さらに有効性と安全性を高めるために市販後に使用された患者データを収集し、そのデータを基により良い使用方法や適切な患者選択に対する情報を提供することを目的とした取り組みが求められることがあります。特に、関連学会が主導するレジストリ(注3)に協力して、医療機器の適正な使用を推進することが、製造販売業者への承認条件に定められることは少なくありません。こうした経緯から、使用成績調査における課題を包括的に解決できるレジストリシステムの導入が、関連学会等から待ち望まれていました。
今回の取り組み
今回、東北大学病院とサスメドが構築した本レジストリは、症候性腸骨大腿静脈流出障害に使用される新規の静脈用ステントや急性深部静脈血栓症における新規血栓除去用カテーテルなど、複数の医療機器を用いる患者の情報を同時に収集できる統合的なレジストリです。収集したデータを関連学会および製造販売業者と共有することにより、効率的に医療機器の使用成績の評価や適正使用の推進が可能になります(図1)。
従来、製造販売業者が関連学会主導のレジストリデータの共有を受けて使用することは困難でしたが、今回の取り組みにより製造販売業者も積極的にデータを使用できるという点も大きな特徴です。また、これまで複数機器それぞれ個別のデータ入力・確認作業が必要であったところを、複数システムを統合した本レジストリにより、一度の操作で完了できるようになり、医療現場での作業負荷が大幅に軽減することが期待されます。
さらに、サスメドの特許技術であるブロックチェーン技術(耐障害性・データ改ざん耐性等)を実装したシステム「SUSMED SourceDataSync®︎」(注4)の活用により、データの信頼性が担保されるだけではなく、データの価値が向上します。将来的には、当該医療機器の適応拡大等を見据えた申請の際に本レジストリで収集したデータを二次利用するなど、今まで利用されなかった使用成績調査データを利活用することが可能となります。
今後の展開
本レジストリが収集するデータは、静脈疾患に対する医療機器を提供する各製造販売業者が実施する製造販売後の調査に活用される予定です。また、関連学会が発出する、医療機器のガイドラインとなる適正使用指針が作成される際にも、必要に応じてデータは活用される予定です。
さらに、本レジストリにて収集されたリアルワールドデータは、将来的には当該医療機器の適応拡大を見据えた申請に活用でき、また、静脈疾患を罹患した患者に対して最適な医療機器を選択する際の情報源となります。また、新たな医療機器を開発する際の基礎データとしても有用なため、その利活用により臨床開発の高度化、効率化、さらには医療の最適化、質の向上などが期待できます。
東北大学病院とサスメドが構築した本レジストリは日本初の試みであるのみならず、世界的に見ても前例のない、類を見ない取り組みであるため、今後の医療業界に大きなインパクトを与えるものになります。

東北大学病院について
東北大学病院は、東北地方における医療の要として、高度先端医療の安全な提供、高度医療の開発やそれらを担う人材の育成を使命としています。また、我が国で初めて「臨床研究中核病院」として認定された当院は、総合大学としての強みを活かし、さまざまな企業と連携しながら、国際水準の臨床研究、創薬、医療機器開発を推進しています。
サスメド株式会社について
デジタル医療を推進する研究開発型企業であり、不眠症治療用アプリをはじめとする医療用アプリ開発に取り組んでいます。また、臨床試験の効率化に繋がるブロックチェーン技術や、データ分析の効率化やコスト低減が期待されるAI自動解析技術などの特許技術を保有し、これらの技術を活用した臨床開発支援システムの開発・提供を行う会社です。
用語説明
注1.使用成績調査:医療機関から収集した情報を用いて、診療において、医療機器の副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質、有効性および安全性等に関する情報の検出または確認のために行う調査
注2.ブロックチェーン技術:データ改竄耐性等に必要となるサスメド保有特許である特許第6563615号(不正検知システムおよび不正検知装置)、特許第6245782号(個人情報保護システム)、特許第6340494号(治療用アプリケーションの治験システム、治験管理用サーバ、および治験管理用プログラム)、特許第6530578号(不正検知システムおよび不正検知装置)、特許第6245783号(セキュリティシステムおよびこれに用いるノード装置)、ほかを実装
注3.レジストリ:特定の疾患等について、治療内容、治療経過などの医療情報を収集するデータベース
注4.「SUSMED SourceDataSync®︎」:ブロックチェーン技術を実装したサスメドの臨床試験システム。
参考:2022年1月20日付プレスリリース『東北大学とサスメド、臨床試験におけるブロックチェーン活用に関する共同研究契約を締結』
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学病院臨床研究推進センター開発推進部門
特任教授 池田浩治
TEL:022-717-7136
Email:review*crieto.hosp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
E-mail:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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