TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

東北大学医療系メディア「ライフ」ニュースルーム

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

大腸がんのエピゲノム診断薬 DNAメチル化検出キット「OncoGuide™ EpiLight™メチル化検出キット」の保険適用のお知らせ

発表のポイント
  • 東北大学病院の研究グループは、切除不能な進行・再発大腸がんの治療薬「抗EGFR抗体薬」のバイオマーカーとして、大腸がんのゲノム全体のDNAメチル化(注1)状態が重要であることを発見し、株式会社理研ジェネシスと共同で、体外診断用医薬品「OncoGuide™ EpiLight™メチル化検出キット(以下、本製品)」を開発。同社は2024年6月に製造販売承認を取得していました。
  • 2025年6月1日付で、本製品は保険収載され、同社より日本国内で発売が開始されます。
  • 本製品の臨床導入により、大腸がんにおける個別化治療の一層の推進が期待されます。
概要

東北大学病院腫瘍内科の石岡千加史客員教授(学術研究員)と大内康太助教らは、2014年に切除不能進行・再発大腸がんの治療薬、抗EGFR抗体薬のバイオマーカーとして大腸がんのゲノム全体のDNAメチル化状態が、従来の大腸がんの原発巣占居部位に代わり重要であることを発見しました。
本研究成果をもとに、株式会社理研ジェネシス(本社:東京都品川区、代表取締役社長:大井優子、以下「理研ジェネシス」)と共同開発した体外診断用医薬品「OncoGuide™ EpiLight™メチル化検出キット」が、2025年6月1日付で保険適用され、同社より日本国内で発売が開始されます。
本製品は大腸がん(結腸・直腸がん)における治療薬選択の補助に用いることができる日本発・世界初の体外診断用医薬品であり、固形がんの精密医療に初めて導入されたエピゲノム診断薬(注2)です。本製品の臨床導入により、大腸がんにおける個別化治療の一層の推進が期待されます。

詳細な説明

現在、切除不能な進行再発結腸・直腸がんの1次治療選択に際し、RAS遺伝子、BRAF遺伝子及びマイクロサテライト不安定性(MSI/MMR)検査の実施が大腸がん治療ガイドラインで推奨されています。RAS遺伝子変異は抗EGFR抗体薬に抵抗性を示すため、抗EGFR抗体薬はRAS遺伝子に変異を認めない(野生型)患者に対して使用が推奨されています。また近年では、原発巣占居部位を併せて考慮した薬物療法の選択が推奨されています。例えば、RAS遺伝子野生型で原発巣占居部位が右側の場合、抗EGFR抗体薬以外の治療法の適用が推奨されています[参考文献1]。
東北大学病院腫瘍内科の石岡千加史客員教授(学術研究員)と大内康太助教らが株式会社理研ジェネシスと共同開発した体外診断用医薬品「OncoGuide™ EpiLight™メチル化検出キット」は、2025年6月1日付で保険適用され、日本国内で理研ジェネシスから発売が開始されます。
本製品は、がん組織のDNAメチル化状態を検出することで、結腸・直腸がんにおける治療薬の選択の補助に用いることができる、リアルタイムPCR法を原理とした世界で最初の体外診断用医薬品です。検体から抽出したDNAをバイサルファイト変換処理(注3)し、ゲノムワイドなDNAメチル化状態を反映する16領域のDNAメチル化状態を検出することで、高メチル(High methylated colorectal cancer;HMCC)または低メチル(Low methylated colorectal cancer;LMCC)を判定します。
これまでの本製品に関連する臨床研究により、DNAメチル化状態によって抗EGFR抗体薬の治療効果予測バイオマーカーとしての臨床的有用性[参考文献2-8]が評価され、日本臨床腫瘍学会の「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス改訂第5版(2023年3月発行)」[参考文献9]に、(1)DNAメチル化アッセイは、進行再発大腸がん治療の一次治療および既治療例における抗EGFR抗体薬の選択補助に有用と考えられる、(2)一次治療における治療選択及び検体組織節約のため、DNAメチル化アッセイを実施するタイミングは一次治療開始前が合理的である、と記載されていました。このたびの日本での保険適用により、今後はRAS遺伝子野生型の患者に対する治療検討に際し、EpiLightによるDNAメチル化状態を考慮したフローへの変化、すなわち、RAS遺伝子野生型で「原発巣占居部位が左側の大腸がん」から、RAS遺伝子野生型で「低メチル化大腸がん(LMCC)」の患者に対する抗EGFR抗体療法へ換わっていくと予測されます(図1)。
なお、東北大学は、産学連携により患者に有用となる検査法を開発し、これからも人に優しい個別化医療(パーソナライズドメディシン)や精密医療(プレシジョン・メディシン)を推進して参ります。

図1.本製品の臨床導入による薬物療法選択の変化
謝辞

本研究は、東北大学が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療創生研究事業「大腸がんに対する抗EGFR抗体薬の効果を予測する新規バイオマーカー・DNAメチル化状態診断キットの開発(課題管理番号:20cm0106411h0004)」(研究代表者 石岡千加史、分担研究者 大内康太ほか)の助成を得て、東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)支援 のもと進行再発結腸・直腸がんを対象とする臨床性能試験(臨床試験登録番号:UMIN000041205)を実施しました。臨床試験の検査試薬の提供と測定は株式会社理研ジェネシスが担当しました。

用語説明

注1.DNAメチル化:DNAメチル化は、DNMTs(DNA methyltransferase)による、5′-シトシンへのメチル基の付加によって引き起こされる化学的修飾であり、CpG(CGジヌクレオチド配列)領域に作用する。腫瘍組織におけるDNAメチル化は、主に遺伝子のプロモーター領域のCpGアイランドに生じ、転写を負に抑制することで遺伝子の発現を抑制させると考えられている。
注2.エピゲノム診断薬:DNAの塩基配列そのものではなく、DNAに付加された化学的な修飾や、それを制御するタンパク質の状態を指すエピゲノム情報を活用して、疾患の診断や予後予測を行うための薬やツールを指す。
注3.バイサルファイト変換処理:バイサルファイト(亜硫酸水素塩)処理により、DNA中のメチル化されていないシトシンが脱アミノ化されてウラシルに変換されるのに対し、メチル化シトシンは変換されないため、本処理により、メチル化シトシンと非メチル化シトシンの区別が可能。目的のDNA領域をPCR法で増幅する際、ウラシルはチミンに、メチル化シトシンはシトシンとして増幅される。この過程により、1塩基単位の分解能でDNAメチル化状態を解析することが可能となるため、病気の診断や治療法の開発、細胞生物学的研究において非常に重要なツールとなっている。

参考文献

1.大腸がん治療ガイドライン医師用2024年度版 大腸がん研究会編
2.Ouchi K, et al. DNA methylation status as a biomarker of anti-epidermal growth factor receptor treatment for metastatic colorectal cancer. Cancer Sci; 106(12): 1722-9, 2015 PMID: 35612620
3.Okita A, et al. Consensus molecular subtypes classification of colorectal cancer as a predictive factor for chemotherapeutic efficacy against metastatic colorectal cancer. Oncotarget; 9(27)18698-18711, 2018 PMID: 29721154
4.Osumi H, et al. Effect of DNA methylation status on first‑line anti‑epidermal growth factor receptor treatment in patients with metastatic colorectal cancer. Int J Colorectal Dis; 37: 1439-1447 2022 PMID: 35612620
5.Ouchi K, et al. A modified MethyLight assay predicts the clinical outcomes of anti-epidermal growth factor receptor treatment in metastatic colorectal cancer. Cancer Sci. 113: 1057-1068. 2022 PMID: 34962023
6.Takahashi S, et al. Phase II study of biweekly cetuximab plus mFOLFOX6 or mFOLFIRI as second-line treatment for metastatic colorectal cancer and exploratory analysis of associations between DNA methylation status and the efficacy of the anti-EGFR antibody: T-CORE1201. J Gastrointest Oncol;14(2):676-691. 2023 PMID: 37201044
7.Ouchi K, et al. Genome‑wide DNA methylation status is a predictor of the efficacy of anti‑EGFR antibodies in the second‑line treatment of metastatic colorectal cancer: Translational research of the EPIC trial. International Journal of Colorectal Disease 39:89 2024. PMID: 38862615
8.Ouchi K, et al. Genome-wide DNA methylation status as a biomarker for clinical outcomes of first-line treatment in patients with RAS wild-type metastatic colorectal cancer: JACCRO CC-13AR. ESMO Open. May 6;10(5):105076. 2025 PMID: 40334314.
9.大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス改訂第5版 日本臨床腫瘍学会編

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学病院腫瘍内科
客員教授(学術研究員) 石岡 千加史(いしおか ちかし)
助教 大内 康太(おおうち こうた)
TEL:022-717-8543
Email:kota.ouchi.b3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学病院広報室
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

関連資料
プレスリリース資料(PDF)
関連リンク
臨床腫瘍学分野 腫瘍内科