社会的孤立と孤独は独立してフレイル発症と関連~社会的孤立で約1.4倍、孤独で約1.8倍フレイル発症リスクが高まる~
2025.6.17 Tue
これまでの研究から、孤立の客観的側面である社会的孤立(他人と交流する機会が少なくなった状態)や主観的な側面である孤独(自分が他の人たちから孤立していると感じる状態)は、それぞれ様々な全身疾患や要介護認定と関連することが示されています。本研究は、社会的孤立と孤独が組み合わさることでフレイル発症のリスク上昇につながるかどうかを縦断研究により明らかにしました。
本研究は65歳以上の高齢者約8千人を対象とした3年間の追跡調査です。統計解析により、社会的に孤立している人は社会的に孤立していない人と比較し、フレイル発症リスクが約1.4倍高く、孤独を感じる人は孤独を感じていない人と比較し、フレイル発症リスクが約1.8倍高くなっていました(図1)。さらに、社会的孤立と孤独はそれぞれ独立してフレイル発症と関連していることが示されました。
本研究成果は、2025年5月27日に「Archives of Gerontology and Geriatrics」に掲載されました。

背景
世界的な高齢化に伴い、2050年にはフレイル(身体的に虚弱な状態)を有する人が1.5億人に達することが予測されています。これまでフレイルに対する予防は、栄養摂取や運動介入、社会参加が中心に行われてきました。社会参加がフレイルの改善や発症予防に有用である一方で、他者との関わりが少ない状態である社会的孤立や主観的な孤立の程度を示す孤独とフレイル発症との関連性は明らかになっていませんでした。本研究では、社会的孤立と孤独がそれぞれフレイル発症リスク上昇につながるか、それらが組み合わさることでさらにフレイル発症リスクが上昇するかを3年間の縦断研究により検討しました。
対象と方法
本研究は2019年に実施されたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上のフレイルを有していない高齢者を対象とした3年間の追跡調査でした。2019年時点の社会的孤立と孤独および2022年時点のフレイルの発症を調査しました。統計解析には修正ポアソン回帰分析を用い、さらに交互作用項を用いて社会的に孤立し、孤独を感じるとさらにフレイル発症リスクが上昇するかを検討しました。分析に際しては、性別・年齢・教育歴・プレフレイルの有無・喫煙歴・飲酒歴・等価所得・併存疾患数・雇用状況・居住地の都市度の影響も取り除きました。
結果
対象者8,440人のうち、1,278人(15.1 %)が2019年から2022年の3年間にフレイルを発症していました。社会的孤立かつ孤独群では32.5%がフレイルを発症しており、最も発症割合が高かったです(図2)。分析の結果、社会的孤立群はフレイル発症リスクが約1.4倍、孤独群は約1.8倍高かったです(図3)。また、社会的孤立かつ孤独群ではフレイル発症リスクが約2.1倍で、すべての群の中で最も高かったことがわかりました。しかし、社会的孤立と孤独には明らかな交互作用は認められず、それぞれフレイル発症と独立して関連していることが明らかになりました(表)。
結論
本研究から、社会的孤立と孤独は3年後のフレイル発症にそれぞれ独立して関連しており、社会的に孤立し孤独を感じるとさらにフレイルを発症しやすくなるといった機序は認められませんでした。
本研究の意義
これまでのフレイル予防対策として、たんぱく質摂取や運動介入が中心に行われてきました。本研究は社会的孤立や孤独といった社会的背景を考慮したフレイル予防策の重要性を示唆しています。家族や友人との交流機会が少なく、社会的に孤立することはフレイル発症のリスク上昇と関連するため、他者との交流を促すことが重要であることが改めて確認されました。社会的に孤立していなくとも孤独を抱える人々には認知バイアスの修正など、心理学的アプローチが有効である可能性があります。



発表論文
Sato, M., Hoshi-Harada, M., Takeuchi, K., Kusama, T., Ikeda, T., Kiuchi, S., Saito, M., Nakaya, N., & Osaka, K. (2025). Combined association of social isolation and loneliness with frailty onset among independent older adults: A JAGES cohort study. Archives of gerontology and geriatrics, 136, 105914. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/j.archger.2025.105914
謝辞
本研究はJAGES(日本老年学的評価研究)のデータを使用しました。本研究で使用した調査データは,JSPS科研費(19K02200, 20H00557, 20H03954, 20K02176, 20K10540, 20K13721, 20K19534, 21H00792, 21H03196, 21K02001, 21K10323, 21K11108, 21K17302, 21K17308, 21K17322, 22H00934, 22H03299, 22J00662, 22J01409, 22K01434, 22K04450, 22K10564, 22K11101, 22K13558, 22K17265, 22K17364, 22K17409, 23K16320, 23H00449, 23H03117, 23K19793 , 23K21500, 23K19796), 厚生労働科学研究費補助金(19FA1012, 19FA2001, 21FA1012, 22FA2001, 22FA1010, 22FG2001), 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費(21-20), 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JPMJOP1831, †RISTEX, JPMJRX21K6), 公益財団法人健康・体力づくり事業財団令和4年度健康運動指導研究助成, 新潟大学十日町いきいきエイジング講座寄附金, TMDU重点研究領域 , 国立研究開発法人防災科学技術研究所などの助成を受けてJAGESによって実施・整備されたものである。記して深謝します。本稿は,著者の見解を論じたものであり,資金等提供機関の公式見解を必ずしも反映していない。本研究はJST次世代研究者挑戦的研究支援プログラムのJPMJSP2114の支援を受けたものです。
問い合わせ先
東北大学大学院医学系研究科健康行動疫学分野
大学院生 佐藤 衛
Email:sato.mamoru.r7*dc.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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