TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

東北大学医療系メディア「ライフ」ニュースルーム

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

暑さ・寒さを防げない住宅で暮らす人は、抑うつ傾向の割合が1.57倍高い

日本の住宅の9割以上は世界保健機関(WHO)の推奨する冬の最低室温18℃以上を満たしておらず、断熱性能の低い住宅が多いことがわかっています。住宅の暑さや寒さは、循環器疾患、呼吸器疾患、睡眠障害の増加など、様々な健康被害につながることが報告されている一方で、これまで精神保健との関連は十分に検討されていませんでした。そこで本研究は、住宅の温熱環境と抑うつ傾向との関連を明らかにすることを目的としました。
東北大学医学部医学科の大学生 岩田真歩、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の小坂健教授、歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の竹内研時特命教授らの研究グループは、65歳以上の高齢者約1万7千人を対象とした一時点の調査データを分析しました。統計解析により、暑さ・寒さを防げる住宅で暮らす人と比べ、暑さ・寒さを防げない住宅で暮らす人では、抑うつ傾向の割合が1.57倍高いことが明らかになりました。本研究結果から、断熱材の設置など、住宅の温熱環境の改善が、うつ病の予防につながる可能性が示唆されました。
本研究成果は、2025年8月22日に「Scientific Reports」に掲載されました。

図:暑さ・寒さを防げない住宅で暮らす人の、抑うつ傾向の存在率比
(基準(1.0):暑さ・寒さを防げる住宅で暮らす人)
背景

日本の住宅の9割以上は世界保健機関(WHO)の推奨する冬の最低室温18℃以上を満たしておらず、断熱性能の低い住宅が多いことがわかっています。これまでの先行研究で、住宅の暑さや寒さは循環器疾患や呼吸器疾患、睡眠障害の増加、QOL(生活の質)の低下など、様々な健康被害につながることが報告されています。しかし、住宅の温熱環境、特に住宅の暑さと、うつ病などの精神疾患の関連はこれまでほとんど検討されていませんでした。そこで、本研究は、地域在住高齢者において、住宅の温熱環境と抑うつ傾向との関連を明らかにすることを目的としました。

対象と方法

本研究は、日本老年学的評価研究機構(JAGES)の2022年調査に回答した71自治体における65歳以上の地域在住高齢者を対象としました。解析には、同意が得られなかった者、不適切回答者、普段の生活で介護・介助の必要がある者、住環境と抑うつ傾向に関する質問に未回答の者を除外しました。
住宅については、暑さ・寒さを防げる環境であるかどうかを尋ね、抑うつ傾向については、高齢者うつ尺度を用いて評価し、5点以上を抑うつ傾向と定義しました。分析に際しては、年齢、性別、BMI、教育歴、等価収入、財産、婚姻状況、独居、就労状況、外出頻度、社会参加、住宅種別、主観的認知機能低下、運動時間、飲酒、喫煙、他の疾患の有無、省エネルギー基準の地域区分、居住年数の影響を取り除きました。感度分析として、地域別での解析を行いました。
※「高齢者うつ尺度 (Geriatric Depression Scale 15; GDS-15)」とは15の質問項目に「はい」「いいえ」で答えてもらう自記式検査法(高齢者のうつ症状の有無や重症度の評価としてよく用いられる)

結果

対象者17,491名(平均年齢;74.5±6.1、男性:49.4%)のうち、暑さや寒さが防げない住宅の居住人は5.1%、抑うつ傾向のある人は22.8%でした。統計解析により他の要因の影響を考慮した結果、暑さ・寒さを防げる住宅で暮らす人と比較し、暑さ・寒さを防げない住宅で暮らす人では、抑うつ傾向である可能性が1.57倍(95%信頼区間:1.45-1.71)高いことがわかりました。地域別で解析した結果、北海道以外の全ての地域で住宅の暑さ・寒さと抑うつ傾向の統計学的に意味のある関連が見られました。

結論

住宅の温熱環境は、抑うつ傾向と関連していました。北海道以外の全ての地域で住宅の温熱環境と抑うつ傾向の統計学的に意味のある関連が見られ、寒さだけでなく暑さも抑うつ傾向と関連する可能性が示唆されました。

本研究の意義

本研究結果より、断熱材の設置など、住宅の温熱環境の改善が、高齢者のうつ病の予防に繋がる可能性が示唆されました。

発表論文

Iwata, M., Kinugawa, A., Hanazato, M., Kondo, K., Osaka, K., & Takeuchi, K. (2025). Perceived indoor thermal environment and depressive symptoms among older adults in the Japan Gerontological Evaluation Study. Scientific Reports, 15(1), 30871. https://doi.org/10.1038/s41598-025-15922-9

謝辞

本研究は、JSPS科研費(20H00557, 20K10540, 21H03196, 21K17302, 22H00934, 22H03299, 22K04450, 22K13558, 22K17409, 23H00449, 23H03117, 23K21500), 厚生労働科学研究費補助金(19FA1012, 19FA2001, 21FA1012, 22FA2001, 22FA1010, 22FG2001), 国立研究開発法人科学技術振興機構(JPMJOP1831), 公益財団法人健康・体力づくり事業財団令和4年度健 康運動指導研究助成, TMDU 重点研究領域, 国立研究開発法人防災科学技術研究所などの助成を受けて行われました。
最後に、調査にご協力いただいた参加者の皆様に記してお礼申し上げます。

注:本研究成果の「結果」や「関連」は「統計的に意味のある結果や関連」を示します。これは、分析結果が偶然に得られた可能性が5%未満であることを意味します。

関連資料
詳細(PDF)