病原性酵母が宿主免疫システムを回避するために必要な多糖生合成関連酵素を世界で初めて発見!
2025.9.24 Wed
研究崇城大学生物生命学部の門岡 千尋 准教授、岡 拓二 教授らの研究グループは、東北医科薬科大学薬学部、東北大学大学院医学系研究科との共同研究により、病原性担子菌酵母Cryptococcus neoformansが産生するグルクロノキシロマンノガラクタン(GXMGal)の生合成に関与する新規なマンノース転移酵素を発見しました。この遺伝子をノックアウトした酵母はマウス体内での増殖が著しく抑制され、免疫系によって積極的に排除されていることが明らかになり、C. neoformansによる免疫回避メカニズムに新たな知見を提供しました。
この成果は、2025年8月26日付で国際学術誌『Journal of Biological Chemistry』(米国生化学・分子生物学会)にオンライン掲載されました。
発表のポイント
- C. neoformansの機能未知遺伝子の中から、新規なマンノース転移酵素遺伝子CGM1を発見しました
- CGM1遺伝子がコードするマンノース転移酵素(Cgm1)はGXMGalの生合成に関与することを実証しました
- CGM1遺伝子をノックアウトしたC. neoformansはマウス体内での増殖が著しく抑制され、免疫系によって積極的に排除されていることを実証しました
- CGM1遺伝子がコードするマンノース転移酵素がC. neoformansに対する新たな抗真菌薬の創薬ターゲットとして有望であることを提唱しました
研究の背景と意義
病原性担子菌酵母であるCryptococcus neoformansはハトの糞で汚染された土壌に多く生育するクリプトコッカス症の原因菌として知られています。クリプトコッカス症は免疫不全者だけでなく、免疫正常者にも発症することや、髄膜脳炎などを引き起こし、致死率が極めて高いことが特徴です。
C. neoformansの細胞表面には莢膜と呼ばれる分厚い多糖構造が存在しており、強力な免疫抑制作用があることから、莢膜はC. neoformansの主要な病原性因子であると考えられていました。そのため、莢膜の生合成に関連する酵素の阻害剤はクリプトコッカス症に対する特効薬になる可能性があります。莢膜はグルクロノキシロマンナン(GXM)とグルクロノキシロマンノガラクタン(GXMGal)の2種類の多糖で構成されていますが、特にGXMGalの生合成メカニズムはほとんど明らかになっていませんでした。
研究の内容と成果
崇城大学および東北医科薬科大学の共同研究チームは、東北大学と共同で、GXMGalの生合成に関与する新規マンノース転移酵素Cgm1を発見しました。また、C. neoformansにおいてCGM1遺伝子をノックアウトすると、マウス体内での増殖が著しく抑制されることを明らかにしました。興味深いことに、CGM1遺伝子をノックアウトしたC. neoformansを感染させたマウスでは、免疫系の活性化に重要なインターフェロン-γの産生が増強されることが明らかになりました。このことは、GXMGalにおいてCgm1が生合成する糖鎖部分がマウスの免疫系の抑制に重要であることを示しています。
研究成果の社会的意義
C. neoformansによるクリプトコッカス症は世界中で拡大しており、WHOが発表した真菌優先病原体リストでは最優先研究対象の1番目にリストアップされています。本研究の成果は、Cgm1を標的とする新しい抗真菌薬の開発に向けた重要な知見を提供します。また、Cgm1はこれまでに他の生物種において発見されていた全ての糖転移酵素(GT)とは進化的に異なる系統であったため、糖質関連酵素のデータベースCAZy(https://www.cazy.org/)において、Cgm1のために新たなGTファミリーであるGT139が創設されました。
今後の展望と応用
今後、Cgm1の結晶構造を明らかにすることによって、コンピューター・シミュレーションによる予測結果に基づいた阻害剤のスクリーニングが可能になると考えています。Cgm1の阻害剤はクリプトコッカス症に対する新たな抗真菌薬になることが期待されます。
研究者からのコメント
「新しい酵素を発見できたことは研究者にとって大変喜ばしいことです。今回発見したCgm1はクリプトコッカス症の創薬ターゲットとして有望であるため、今後は阻害剤となる化合物のスクリーニングのために、さらなる研究を進めていきたいと考えています。」(崇城大学 生命科学部 門岡 千尋)
発表者
崇城大学 生物生命学部:
門岡 千尋 准教授
平 大輔 教授
矢壁 駿(大学院 工学研究科 応用微生物工学専攻 修士課程)
岡 拓二 教授
東北医科薬科大学 薬学部:
田中 大 助教
東北大学大学院医学系研究科:
佐藤 光 助教
佐藤 隼人(研究当時:学生)
川上 和義 (研究当時:教授、現在:広瀬病院)
論文情報
論文タイトル:Cgm1 is a β-galactoside α-(1→4)-mannosyltransferase involved in the biosynthesis of capsular glucuronoxylomannogalactan in Cryptococcus neoformans
著者:Chihiro Kadooka*, Yutaka Tanaka, Ko Sato, Hayato Sato, Daisuke Hira, Shun Yakabe, Kazuyoshi Kawakami, Takuji Oka*
雑誌名:Journal of Biological Chemistry
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jbc.2025.110632
研究資金
本研究は、門岡千尋 准教授、田中大 助教、佐藤光 助教、岡拓二 教授らに対する科学研究費助成事業(22K14817 (C.K.), 20K15997 (Y.T.), and 21K16314 (S.K.), 22K06600 (Y.T.), 24K14742 (S.K.), 21K05373 (T.O.))と、門岡千尋 准教授と岡拓二教授に対する公益財団法人発酵研究所研究助成(Y-2023-2-030 (C.K.), G-2023-2-068 (T.O.))および、門岡千尋 准教授に対する公益財団法人野田産業科学研究所2022年度「奨励研究助成」の一環として実施されました。
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