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日本人CYP2E1遺伝子多型の網羅的機能解析に成功 ~薬物代謝の個人差解明と個別化医療への応用に期待~

発表のポイント
  • 日本人集団に存在するCYP2E11遺伝子多型2に由来する25種のバリアント酵素3の包括的機能解析に成功しました。
  • CYP2E1バリアントの中でも、Leu133HisやAsp193Valなど6種のアミノ酸置換型バリアントで酵素活性が著しく低下し、さらにLeu447fsは完全に酵素機能が喪失することを明らかにしました。
  • 本成果は、日本人集団特有の遺伝的背景を反映した薬物代謝活性の個人差を予測するデータであり、臨床での薬物治療の個別最適化に直結します。
概要

医薬品の体内動態は患者ごとに大きく異なります。とりわけ、薬物を酸化・分解するチトクロムP450(CYP)酵素群は、多くの薬の代謝に関与しており、その遺伝的多型は治療効果や副作用に直結します。CYP2E1はアルコールや麻酔薬、発がん物質前駆体などを代謝する酵素であり、肝毒性や薬物の副作用の発症に密接に関与しています。しかし、報告された多くの遺伝子多型について、実際の酵素機能に与える影響は不明のままでした。
東北大学大学院薬学研究科ゲノム医療薬学分野 平塚真弘教授、大森悠生大学院生の研究グループは、日本人8,380人の全ゲノム解析データから見出された新規CYP2E1遺伝子多型22種を含む計25種のバリアント酵素について、詳細な機能解析を行いました。その結果、一部のバリアントが酵素活性を大きく低下させる一方、逆に活性を増強するバリアントも存在することを明らかにしました。
本研究成果は2025年10月3日に国際学術誌 Biochemical Pharmacology にオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
CYP2E1はアルコールや麻酔薬、発がん物質前駆体などを代謝する肝臓に多く発現している重要な酵素です(図1)。CYP2E1の遺伝子配列は個々で微妙に異なることがあり、この違いにより翻訳される酵素タンパク質の機能が変化します。このような遺伝的活性変化は、医薬品の体内動態だけでなく、薬効や副作用にも影響を与える可能性があります。しかし、報告された多くの遺伝子多型について、実際の酵素機能に与える影響は不明のままでした。したがって、CYP2E1遺伝子多型に由来するバリアント酵素の機能変化の程度が明らかになれば、CYP2E1で代謝される医薬品の安全で効果的な薬物療法の展開が期待されます。

今回の取り組み
東北大学大学院薬学研究科ゲノム医療薬学分野 平塚真弘教授、大森悠生大学院生の研究グループは、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、東北大学未来型医療創成センター(INGEM)、東北大学病院薬剤部及び名城大学薬学部のグループと共同研究を行い、ToMMoが構築した日本人全ゲノムリファレンスパネル4に基づき同定されたCYP2E1遺伝子多型22種に加え、国際的に定義されている既知アレル(CYP2E1*2、*3、*4)を含む計25種を解析対象としました。in vitro解析では、ヒト胎児腎由来細胞株293FT細胞にアミノ酸置換を伴う各CYP2E1バリアントを発現させ、クロルゾキサゾン代謝活性を測定し、酵素反応速度論的パラメータ(Km・Vmax・CLint)を算出しました。また、in silico解析では、立体構造モデリングと分子ドッキングによりバリアントの構造的影響を解析しました。
その結果、日本人集団に存在するCYP2E1遺伝子多型に由来する25種のバリアント酵素の包括的機能解析に成功しました。そして、CYP2E1バリアントの中でも、Leu133HisやAsp193Valなど6種のアミノ酸置換型バリアントで酵素活性が著しく低下し、Leu447fsは完全に酵素機能が喪失することを明らかにしました(図2)。また、Lys87GluやMet200Valでは活性が増強し、代謝速度が野生型の2倍に達する例も確認しました。一方で、既知アレル(CYP2E1*2、*3、 *4)は野生型と同等活性を保持し臨床影響は限定的であると示唆されました。

今後の展開
本研究では、ToMMoが構築した一般住民バイオバンクの全ゲノム解析情報を活用して、CYP2E1だけでなく、様々な薬物代謝酵素における約2,000種の組換えバリアントの作製・機能評価を目的としています。これにより、これまで見落とされてきた薬物代謝酵素活性に影響を及ぼす重要な低頻度遺伝子多型を同定し、遺伝子型から表現型を高精度で予測できる薬剤感受性予測パネルを構築できると考えます。さらに今後、薬物代謝酵素の発現量に影響を及ぼすプロモーター・イントロン多型、miRNA、エピゲノム、臨床研究情報等を加えることにより、患者個々の薬剤感受性を高精度に予測できるファーマコゲノミクス5解析やコンパニオン診断薬6の開発による個別化医療が期待できます。

謝辞

本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)(ゲノム創薬基盤推進事業(JP19kk0305009)、東北メディカル・メガバンク計画(東北大学)東日本大震災復興特別会計分(JP17km0105001)、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS, JP23ama121019))、文部科学省(MEXT)、公益財団法人 内藤記念科学振興財団、及び東北大学未来型医療創成センター(INGEM)の助成を受けたものです。
本論文は『東北大学 2025 年度オープンアクセス推進のための APC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。

図1.CYP2E1で代謝される医薬品や化合物とヒト肝臓におけるCYP分子種の発現量の割合
図2.25種のCYP2E1遺伝子多型バリアント酵素における包括的機能解析
用語説明
  1. CYP2E1:肝臓に多く存在する薬物代謝酵素であるシトクロムP450酵素の一種で、医薬品の他にアルコールや揮発性麻酔薬、工業溶剤などの低分子化合物を酸化分解します。また、発がん物質の前駆体を活性化し毒性物質を生じることもあり、薬物代謝のみならず肝障害や発がんリスクにも関与します。CYP2E1は遺伝的多型や飲酒・絶食などの環境要因で活性が大きく変動するため、個人差が顕著な酵素として臨床薬理学や毒性学で重要視されています。 ↩︎
  2. 遺伝子多型:ヒトのDNA配列にみられる自然な個人差を指します。例えば、1塩基が他の人と異なる「一塩基多型(SNP)」などが代表的です。多型は病気のなりやすさや薬の効き方・副作用の出やすさに影響することがあります。薬物代謝酵素の遺伝子に多型があると、薬の体内での分解速度が人によって異なり、治療効果や副作用のリスクが変化します。そのため、個別化医療の実現において重要な研究対象です。 ↩︎
  3. バリアント酵素:遺伝子の塩基配列変化によってアミノ酸置換などの変異が生じた酵素を指します。これにより、酵素の立体構造や基質結合部位、触媒活性、安定性が変化し、本来の酵素活性が低下または消失する場合があります。薬物代謝酵素の場合、薬の効果や副作用の個人差の原因となることがあり、ファーマコゲノミクス研究の重要な対象となっています。 ↩︎
  4. 日本人全ゲノムリファレンスパネル:数万人規模の全ゲノム解析を行い構築した日本人のリファレンスパネル。多型の挿入・欠失の位置情報、アレル頻度情報などをまとめたデータベースです。日本人多層オミックス参照パネル(jMorp: Japanese Multi Omics Reference Panel)にて公開しています。 ↩︎
  5. ファーマコゲノミクス:ゲノム情報(遺伝子情報)に基づいた創薬研究と、医薬品の作用と患者個人の遺伝子特性との関係性を研究する学問(ゲノム薬理学)を指します。ファーマコゲノミクスの目的は、個々の患者に最適化された医薬品や投薬法の開発です。患者個人の遺伝子に最適な医薬品を開発・投与することで、医薬品の効果の向上や副作用の抑制が期待でき、医療費の削減につながることが期待されます。 ↩︎
  6. コンパニオン診断薬:特定の医薬品の有効性や安全性を一層高めるために、その使用対象患者に該当するかどうかなどをあらかじめ検査する目的で使用される診断薬です。 ↩︎
論文情報

タイトル:Comprehensive functional characterization of rare and known CYP2E1 allelic variants identified in a Japanese population
著者:Yuki Ohmori, Eiji Hishinuma, Yuma Suzuki, Akiko Ueda, Caroline M. Kijogi, Tomoki Nakayoshi, Akifumi Oda, Sakae Saito, Shu Tadaka, Kengo Kinoshita, Yu Sato, Masahiro Hiratsuka*
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科ゲノム医療薬学分野 教授 平塚真弘
掲載誌:Biochemical Pharmacology (Elsevier, 2025年)
DOI:10.1016/j.bcp.2025.117396
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006295225006616?via%3Dihub

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 ゲノム医療薬学分野
教授 平塚真弘
TEL:022-717-7049
Email:masahiro.hiratsuka.a8@*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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