発表のポイント
- 網膜中心動脈閉塞症1は突然発症し、重篤な視力低下を来たし、有効な治療法がありません。
- 医師主導治験(第Ⅱ相)において、神経保護作用が期待されるカルパイン2阻害薬SJP-00083の安全性と有効性を評価しました。
- SJP-0008の内服によって、視力が改善することが示唆されました。
- 現在、網膜中心動脈閉塞症に対するSJP-0008の有効性と安全性を検証する第Ⅲ相試験が実施されています。
概要
網膜中心動脈閉塞症は、網膜を栄養する主要な血管である網膜中心動脈が血栓によって閉塞することで発症します。網膜は視覚に関わる重要な神経であるため、血流が途絶えると突然見えなくなり、発症後2〜3時間で不可逆的な視力低下に繋がります。まさに、眼の脳梗塞のような疾患です。有効な治療法は確立されておらず、新しい治療法の開発が望まれています。
SJP-0008(内服薬)は、網膜の神経細胞を保護し、視機能低下を抑制する神経保護薬として開発が進められています。東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤 徹教授、津田 聡准教授らの研究グループは、網膜中心動脈閉塞症の新しい治療法を開発するために、SJP-0008の安全性と有効性を評価するための医師主導治験(第Ⅱ相)を行いました。本治験では、SJP-0008を1ヶ月間の内服した際に、安全性上の大きな問題は認められず、5段階4以上の視力改善が認められました。
現在、SJP-0008の有効性と安全性を検証するための第Ⅲ相試験が実施され、新規治療薬として開発が進められています。
本研究成果は、2025年10月9日付でOphthalmology Science誌に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
網膜中心動脈閉塞症(Central Retinal Artery Occlusion;CRAO)は、網膜を栄養する主要な血管である網膜中心動脈が血栓によって閉塞することで発症します。網膜は視覚に関わる重要な神経細胞で構成されています。血流が途絶えると細胞内のカルパインという分子が過剰に活性化し、神経細胞の細胞死を誘導します。血流障害が継続し、多数の神経細胞で細胞死が生じると、回復不能で急激な視力低下・視野障害を生じます。これまでに有効な治療法は確立されておらず、新しい治療法の開発が望まれていますが、年間、10万人に数名程度しか発症しない希少疾患である上に、突然発症し、治療可能な期間が短期間であるため、治療法の開発が進んでいませんでした。
東北大学の中澤 徹教授らの研究グループは、基礎研究によってカルパイン阻害作用を持つSJP-0008が網膜の神経細胞の細胞死を抑制することを明らかにしてきました。既に健常成人での安全性が確認されていることから、CRAOを対象としてSJP-0008の安全性と有効性を評価するために医師主導治験を実施しました。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤 徹(なかざわ とおる)教授、津田 聡(つだ さとる)准教授、橋本 和軌(はしもと かずき)助教らの研究グループは、2019年12月より東北大学病院にて、CRAOを発症して3〜48時間の患者を対象として、SJP-0008を1ヶ月間内服し、3ヶ月までの安全性及び有効性を評価する医師主導治験(第Ⅱ相試験)を実施致しました。治験におけるSJP-0008の有効性を比較するために、CRAOの疾病登録研究のデータを対照にしました。治験では、SJP-0008内服による安全上の大きな問題はなく、視力は5段階以上の改善が認められました。一方、SJP-0008を内服していない対照群のデータでは、視力の改善は2段階に留まりました。そのため、SJP-0008の内服により視力改善が得られることが示唆されました(p<0.05)(図1)。
今後の展開
本治験における有望な結果と、CRAOが有効な治療法がない希少疾患であることから、厚生労働大臣から希少疾病用医薬品5の指定を受けており、既に、CRAOに対するSJP-0008の有効性と安全性を検証する第Ⅲ相試験が実施されています。

治験に参加した時点からの視力(ETDRS文字数)の変化量。SJP-0008 100 mg群とSJP-0008 200mg群は、対照群と比較して視力改善が大きいことが示されている。SJP-0008 200 mgは対照群と比較して、統計学的に有意な視力改善が得られている(*)。
謝辞
本研究開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE):課題番号JP18pc0101026」の支援を受けて行われました。
用語説明
- 網膜中心動脈閉塞症:網膜中心動脈が閉塞によって発症する。突然の視力低下を来たす重篤な眼疾患。 ↩︎
- カルパイン:細胞内に存在するタンパク質分解酵素。様々な生体反応に関与している。細胞に障害が加わると過剰にカルパインが活性化し、細胞内のタンパク質を次々と分解し、組織を障害する。心筋梗塞・脳梗塞などの血流障害、アルツハイマー病・パーキンソン病などの神経変性疾患などとも関連性がある。 ↩︎
- SJP-0008:千寿製薬が開発するカルパイン阻害薬。 ↩︎
- 5段階:視力は治験ではEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)と呼ばれる方法により、可読できる文字数で測定される。0(小数視力0.02相当)〜100文字(小数視力2.0相当)の範囲で測定され、5文字増加する毎に1段階の増加となる。5段階は25文字の増加に相当する。 ↩︎
- 希少疾病用医薬品:対象患者数が5万人未満であり、医療上特に必要性が高いもの(疾患の重篤性、疾患に対する有用性)、開発の可能性などの要件に基づいて指定される。 ↩︎
論文情報
タイトル:Safety and Efficacy of Orally Administered SJP-0008 in Central Retinal Artery Occlusion: A Phase IIa Randomized Clinical Trial
著者:津田聡、國方彦志、橋本和軌、浅野俊文、伊藤梓、吉田光秀、安田正幸、新田文彦、中澤徹*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野 教授 中澤徹
掲載誌:Ophthalmology Science
DOI:https://doi.org/10.1016/j.xops.2025.100965
URL:https://www.ophthalmologyscience.org/article/S2666-9145(25)00263-5/fulltext
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科眼科精密医療開発分野
准教授 津田 聡
TEL:022-717-7294
E-mail:satoru.tsuda.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
Tel:022-717-8032
E-mail:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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