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乳がん検診における超音波検査の上乗せで進行乳がん罹患率が低下 -世界初 日本発の若年女性向け乳がん検診の科学的検証-

発表のポイント
  • 40歳代は高濃度乳房1が多く、乳がん検診でマンモグラフィに超音波を加えることで早期乳がんの発見が増えることが示されていました2
  • 本研究では、40歳代女性を対象に、マンモグラフィ単独とマンモグラフィ+超音波(併用)を比較した試験(J-START)3を約15年間追跡した結果、超音波を併用した群では、進行乳がん(ステージII以上)の累積罹患率が低いことが示されました。
  • 今回の結果は、超音波併用検診が乳がん発見数の増加にとどまらず、進行乳がんを減らし得ることを示す重要な科学的根拠です。ただし、超音波併用が乳がん死亡率の低下につながるかどうかを最終的に確認するには、今後もより長期の追跡が必要です。
概要

マンモグラフィは、乳がん検診において死亡率減少効果が証明されている唯一の検診方法ですが、40歳代では高濃度乳房の割合が高く、病変が背景乳腺により隠れてしまうことがあります。
J-STARTは、東北大学大学院医学系研究科の大内憲明特任教授らによって実施された、40–49歳の無症状女性を対象に、マンモグラフィ単独とマンモグラフィ+乳房超音波併用を比較したランダム化比較試験(RCT)4です。今回、東北大学大学院医学系研究科の原田成美准教授、石田孝宣客員教授、東北医科薬科大学の鈴木昭彦教授、静岡社会健康医学大学院大学の山本精一郎教授、宮城県立がんセンター研究所の金村政輝部長らのグループは、セカンダリ・エンドポイントとして、約15年間の長期追跡データに基づき、進行乳がん(ステージII以上)の累積罹患を評価しました。その結果、乳房超音波検査併用群で進行乳がんの累積罹患が有意に低下しました(ハザード比0.83、p=0.026)。本成果は2026年2月20日(日本時間)にThe Lancet(電子版)に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
乳がんは女性のがんで最も多く、わが国では乳がんによる死亡率が増加中です (図1)。乳がんのリスク因子には様々なものがありますが、早期に発見して治療を行うことが重要です。乳房をX線で撮影するマンモグラフィは、乳がんの早期発見に用いられており、死亡率減少効果が証明されている唯一の乳がん検診方法です。しかし、アジア人や若年に多い高濃度乳房における有効性は、50歳以上の年齢層と比較して十分とは言えません(日本の40–49歳では約60–70%が高濃度乳房と報告)(図2)。また、超音波検査は高濃度乳房でも病変を描出しやすい可能性がある一方で、検診としての有効性が検証されていません。
東北大学大学院医学系研究科の大内憲明(おおうち のりあき)特任教授らは、マンモグラフィ検診と比べた乳房超音波検査の利益・不利益を検証するため、「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)」として、40歳代の女性を対象とした大規模なランダム化比較試験を計画し実施しました。
本調査は、2007年8月から2011年3月にかけて、全国42の研究参加団体を通じ76,196人の女性に参加同意をいただき、そのうち72,998人を1:1の割合でマンモグラフィに加えて超音波検査を実施するグループ(介入群)と通常のマンモグラフィ検診を実施するグループ(非介入群)にランダムに割り振られました。割り振られた検査方法で初回とその2年後の検診を受診する研究デザインで、72,661人が解析に含まれました(介入群36,723/対照群35,938)。
すでに報告している第一報*2では、デザインされた1回目検診の効果を検証し、超音波検査を上乗せした「介入群」は従来の「非介入群」と比較してがんの発見感度と発見率が有意に向上し、特にステージ0またはIの早期がんの発見に貢献していることを報告しました。一方で、進行乳がん(ステージII以上)の発見数には差がなく、介入群では要精検率が上昇し、針生検などの身体に負担がかかる追加検査が増加するという課題(不利益)も明らかになりました。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学分野の原田成美(はらだ なるみ)准教授、石田孝宣(いしだ たかのり)客員教授、東北医科薬科大学医学部外科学第三(乳腺・内分泌外科)教室の鈴木昭彦(すずき あきひこ)教授、静岡社会健康医学大学院大学社会健康医学研究科の山本精一郎(やまもと せいいちろう)教授、宮城県立がんセンター研究所がん疫学・予防研究部の金村政輝(かねむら せいき)部長らのグループは、事前規定の二次解析として、約15年間の長期追跡データに基づき、進行乳がん(ステージII以上)の累積罹患を評価しました。
今回の第二報では、「介入群」と「非介入群」の2つグループで発見された進行乳がんの発生率の差についての追跡調査の結果を報告します。約7.2万人を15年以上追跡した結果、超音波検査を併用した介入群で検出された乳がん894例のうち、進行乳がんは234例(26%)であったのに対し、非介入群では検出された乳がん843例のうち、進行乳がんは277例(33%)となっていました。進行乳がんの累積罹患率でみると、超音波併用の介入群は、非介入群に比べ有意に低くなっていました(ハザード比0.83、95.6%信頼区間0.70–0.98、p=0.026)。また、時間経過でみると検診開始後4年目(49ヶ月)から8年目(96ヶ月)に差が拡大し、それ以降は両群の差はおおむね一定になるという傾向が認められました。

今後の展開
乳がん検診における超音波併用は「進行乳がんの発生(累積罹患)」を減らす可能性を示しました。これは40代女性およびアジア人などの高濃度乳房が多い集団での検診戦略に、RCTの長期追跡データとして重要な根拠を提供したと言えます。一方で、がん検診では死亡率減少効果の検証が最終アウトカムであり、引き続き追跡調査する必要があります。

図1.乳がんの罹患数と死亡率の推移
2021年の統計では女性のがん罹患の中で最も多く、死亡率は増加傾向にあります。
図2.乳房の構成
乳房は主に乳腺と脂肪で構成されますが、マンモグラフィでは乳腺が白く、脂肪が黒く写るため、乳腺が多い乳房では白く濃く写ります。この乳腺が多いタイプを「高濃度乳房」と呼び、アジア人や若年層に多いとされます。マンモグラフィでは乳がんなどの病気は白く写るため、「高濃度乳房」では病気が乳腺に隠れて見つかりにくいという特性があります。
図3.進行乳がん(ステージII以上)の累積罹患率
長期追跡において、超音波併用の介入群(赤線)は非介入群(青線)に比べ、進行乳がんの累積罹患率が低くなっていました(ハザード比0.83、95.6%信頼区間0.70–0.98、p=0.026)。10年時点の累積罹患率は、介入群0.64%(0.56–0.73%)、非介入群0.79%(0.69–0.89%)となっていました。矢印は初回検診および2回目検診の時点を示します。
※本解析のイベントには、病期不明で乳がん死亡のみ把握された例を含むため、イベント数は介入群246例、非介入群286例となります。
謝辞

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金(JPMHH-18-Senryaku-001,JPMHH-23-Shitei-002,JPMHH-25-Shitei-005, JPMHH-26-Ippan-015)および日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業「乳がん検診における超音波検査の有効性検証に関する研究(2015-2016年度)」「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(2017-2025年度)」の支援により行われました。

用語説明
  1. 高濃度乳房:乳腺組織の密度が高いため、腫瘍と乳腺がともに白く映し出されるマンモグラフィ検査ではしこりが見つけにくい乳房の性質。特に若い女性やアジア人に多くみられる。 ↩︎
  2. 初回報告:「超音波検査による乳がん検診のランダム化比較試験(J−START)‐若い女性への乳がん検診の標準化と普及へ向けて‐↩︎
  3. J-START(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial):「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial:J-START)」。40歳代女性を対象に乳がん検診における乳房超音波検査の有効性を検証する目的で、科学的に最も質の高い研究デザインである「ランダム化比較試験(RCT)」を用い、検診の科学的根拠である乳がん死亡率減少効果の検証を目指している。日本全国から76,196人の女性たちの協力を得て行われ、第1報の成果ではマンモグラフィに超音波を加えることで早期乳がんの発見率が約1.5倍になるなどの結果が得られた。大規模な超音波検査を用いた乳がん検診に関するRCTは世界初であり、長期追跡が必要となるビッグデータの研究である。 ↩︎
  4. ランダム化比較試験(RCT):最も質の高い科学的証拠が期待できる研究試験のデザインの1つ。既知の試験参加者の属性や影響を及ぼし得る未知の因子による偏りを2群間で少なくするために、手順に従い介入群と非介入群を無作為に割り付ける。新しい治療方法や予防を含めた医療の臨床試験で、科学的な証拠を検証するために用いられることが推奨されている。 ↩︎
論文情報

タイトル:Cumulative incidence of advanced breast cancer in women aged 40–49 years in the Japan Strategic Anti-cancer Randomised Trial (J-START) of adjunctive ultrasonography: a prespecified secondary analysis
40~49歳女性を対象とした乳がん検診ランダム化比較試験(J-START)における超音波併用の効果:進行乳がん(ステージII以上)の累積発生率 —事前規定の二次解析—
著者:Narumi Harada-Shoji*, Akihiko Suzuki, Takanori Ishida, Seiichiro Yamamoto, Seiki Kanemura, Takuhiro Yamaguchi, Yoko Shiono-Narikawa, Noriaki Ohuchi, on behalf of the J-START investigators
原田(庄子)成美*、鈴木昭彦、石田孝宣、山本精一郎、金村政輝、山口拓洋、塩野(成川)洋子、大内憲明、J-START研究班
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科 准教授 原田成美
掲載誌:The Lancet
DOI:10.1016/S0140-6736(25)02319-0
URL:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)02319-0/fulltext

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学分野
准教授 原田 成美(はらだ なるみ)
TEL:022-272-3011
Email:narumi.harada.a3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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