発表のポイント
- 年齢や性別を問わず健康づくりのために運動は重要であり、妊娠経過に異常がない妊婦においても、健康の維持増進を目的とした適正な運動は推奨されています。
- エコチル調査1で得られた約3万8,000人のデータを解析し、母体の運動習慣と子どもの発達について調べた結果、母体の運動習慣が高いほど、子どもの神経発達が良いという傾向が見つかりました。
- その中でも特に、母体の運動習慣は生後6か月から1歳の運動機能の発達と強い関連があることが分かりました。
概要
合併症のない妊婦において、妊娠中の適度な運動は体重管理など健康の維持・増進の観点から推奨されています。しかし、母体の運動習慣と生まれてくる子どもの発達との関連についてはこれまで明らかにされてきませんでした。
東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野の大学院生熊坂衣織医師、大田千晴教授らの研究グループは、環境省が実施している「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約10万組のうち、38,219組の母子ペアのデータを用いて、母体の運動習慣と子どもの神経発達について解析しました。その結果、妊娠前および妊娠中期の母体の運動習慣が高いほど、子どもの神経発達が良いことを明らかにしました。その中でも母体の運動習慣は生後6か月から1歳の運動機能の発達と強い関連があることが分かりました。また、子どもの年齢が上がるにつれて、母体運動習慣との関連は低くなり、保育施設利用などの環境因子との関連が強くなることが分かりました。
本研究の成果は、2026年3月3日付でJAMA Network Openに掲載されました。
※本研究結果は、母体の運動習慣とこどもの神経発達の関連を示していますが、因果関係を示すものではありません。本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
詳細な説明
研究の背景と経緯
妊娠経過に異常がない妊婦において、医師の管理下における適正な運動習慣は、母体の体重管理やストレス解消など健康維持や増進のために推奨されています。これまで妊婦の運動習慣と妊娠合併症や早産に関する報告はいくつかありますが、子どもの発達に関連する報告は少なく、また大規模で長期間の追跡を行った研究はありませんでした。そこで本研究では、全国出生コホート調査であるエコチル調査のデータを用いて、母体の妊娠前と妊娠中期(16-27週)の運動習慣と、生まれてきた子どもの3歳までの神経発達を評価することで、母体の運動習慣が子どもの神経発達にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的としました。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野の大学院生熊坂衣織(くまさか いお)医師、大田千晴(おおた ちはる)教授らの研究グループは、エコチル調査に参加した約10万組の親子のうち、妊娠前および妊娠中期の運動習慣の回答項目および生後6か月から3歳までの神経発達に関する回答項目に欠損のない38,219組の母子を対象に解析を行いました。
母体の運動習慣は、妊娠前および妊娠中期の平均的な運動習慣を国際標準化身体活動質問表(IPAQ:International Physical Activity Questionnaire)2に準じて、3つの活動レベル(運動習慣なし、軽度、中等度~強度)に分類しました。子どもの神経発達はASQ-3 (Ages and Stages Questionnaires, Third Edition)3で評価しました。ASQ-3は生後1か月から5歳6か月までの乳幼児の発達の遅れを早期に発見するためのスクリーニングツールで、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会の5つの領域について評価します。本研究では、生後6か月から3歳までの6時点におけるデータを使用しました。妊娠前および妊娠中期の母体活動レベルと、各年齢・ASQ-3各領域におけるカットオフ値を上回るか(正常)、下回るか(発達遅れの可能性)で解析、検討しました。
生後6か月では、妊娠前および妊娠中期の活動レベルが高いと発達のカットオフを上回るオッズ比4が高くなる、すなわち神経発達が良いことを示しています(図1)。特に、運動機能(粗大運動、微細運動)と問題解決で有意に高いオッズ比を示しました。妊娠中期の活動レベルごとの子どもの運動機能発達のオッズ比は、年齢が上がるにつれて低下し有意差がなくなる結果でした(図2)。また本研究では、母体の運動習慣と早産や妊娠合併症との関連はなく、妊娠経過に異常がない場合、適正な運動習慣は母児双方にメリットがあることが示唆されました。
※妊娠中の運動は、母体合併症がなく妊娠経過に異常がない場合に限り、医師の指示に基づいて行うことが必要です。
今後の展開
本研究により、母体の運動習慣が生まれてくる子どもの神経発達、特に幼児期早期までの運動機能と関連することが分かりました。母体の運動習慣と子どもの神経発達の関連は1歳頃までに強く、以降は保育施設利用などの環境因子との関連が強くなることも明らかになりました。妊娠中だけではなく、妊娠する前の母親の運動習慣も子どもの発達に関連することから、昨今の健康志向が周産期および子どもの発達領域において好転することが期待されます。

妊娠前では母体の活動レベルが高いほど神経発達が良く、妊娠中期では特に粗大運動、微細運動、問題解決の領域で有意な関連がみられました。

生後6か月、1歳では有意にオッズ比が高いですが、年齢が上がるほど有意差がなくなる、または有意差があってもオッズ比は低くなっています。このことから、年齢が上がるにつれて母体運動習慣と子どもの神経発達の関連性は低くなると言えます。
謝辞
本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。
用語説明
- エコチル調査:子どもの健康と環境に関する全国調査で環境省が2011年から実施している大規模疫学調査です。環境中の化学物質などが胎児期から子どもが成長する過程でどのような影響を与えるかを解明することを目的としています。 ↩︎
- 国際標準化身体活動質問表(IPAQ: International Physical Activity Questionnaire):世界各国における身体活動量の現状把握や国際比較をすることを目的に世界保健機関のワーキンググループによって作成された質問票です。 ↩︎
- ASQ-3 (Ages and Stages Questionnaires, Third Edition):保護者へのアンケートから1‐66か月(5歳半)の小児の発達遅滞をスクリーニングするために設計されたツール。コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキルの5つの領域に分かれた30項目の質問から構成されています。たとえば「上手に走り、何かにぶつかったり転んだりせずに止まりますか?」などの質問に対して、保護者が回答し、回答に応じて点数が付けられ、それぞれの領域での合計点が算出されます。ASQ-3にはカットオフ値が設定されており、カットオフ値を下回る場合に発達の遅れの可能性が示唆されます(医師の診断ではありません)。 ↩︎
- オッズ比:ある要因(本研究では、母体の運動習慣、集団保育、兄弟の有無)がイベントの発症(本研究では、子どもの神経発達)に関連しているかを示す指標です。本研究では、オッズ比>1は、要因が子どもの神経発達に良い、オッズ比 <1は、要因が子どもの神経発達が遅れるリスクが高いことを示しています。 ↩︎
論文情報
タイトル:Physical Activity Before and During Pregnancy and Neurodevelopment in Early Childhood
妊娠前および妊娠中の身体活動と幼児期の神経発達
著者:Io Kumasaka, Tomohisa Suzuki, Keita Kanamori, Yuichiro Miura, Chiharu Ota*, for the Japan Environment and Children’s Study Group
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野教授 大田千晴
掲載誌:JAMA Network Open
DOI:10.1001/jamanetworkopen.2026.0345
URL: https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2845770
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 発達環境医学分野
教授 大田 千晴(おおた ちはる)
TEL:022-717-8949
Email:chiharu.ota.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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- 発達環境医学分野(環境遺伝医学総合研究センター) 小児科