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妊娠中の免疫反応が仔の脳発達に影響する可能性 -未成熟シナプス増加と社会性行動変化をマウスで確認-

発表のポイント
  • 妊娠中の免疫反応で増加する免疫因子「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)1」が、仔の脳発達に影響を及ぼす可能性をマウス研究で明らかにしました。
  • 妊娠中のG-CSF上昇により、仔の脳内(内側前頭前野)で未成熟なシナプス構造2の割合が増加することを明らかにしました。さらに、成長後の社会性行動にも変化が生じることを確認しました。
  • 細胞実験の結果から、G-CSF刺激により脳内の免疫細胞であるミクログリア3の貪食能が亢進することが示され、神経回路形成に関与する可能性が示唆されました。
概要

妊娠期の母体免疫状態が胎児の脳発達に影響を及ぼす可能性が示唆されていましたが、その分子機構は十分に明らかになっていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科 器官解剖学分野の切替日奈子大学院生、大和田祐二教授、前川素子准教授、北海道大学大学院医学研究院 薬理学分野の吉川雄朗教授らの研究グループは、妊娠中の母体免疫反応で増加する免疫因子「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)」が、仔の脳のシナプス発達に影響する可能性があることをマウス研究で明らかにしました(図1)。
本研究では、免疫活性化状態で上昇するG-CSFに着目し、妊娠マウスにG-CSFを投与して仔の脳発達への影響を調べました。その結果、仔の前頭前野においてシナプス成熟に変化が生じ、未成熟シナプス構造の割合が増加することを見出しました。さらに、成長後の社会性行動にも変化が認められました。加えて、細胞実験の結果から、脳内免疫細胞であるミクログリアの機能にも変化が生じる可能性が示され、神経回路形成への関与が示唆されました。
妊娠期の母体免疫反応と仔の神経発達との関連は近年注目されていますが、本研究は、その分子メカニズムの理解を進める手がかりとなる成果です。
本研究の成果は、2026年3月11日付で国際学術誌Brain, Behavior, and Immunityにオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
過去の疫学研究や動物実験から、妊娠期の母体免疫状態が胎児の脳発達に影響を及ぼす可能性が示唆されています。特に、感染や炎症に伴う母体免疫活性化(Maternal Immune Activation: MIA)4は、子の神経発達や行動に長期的な変化をもたらすことが報告されています。しかし、どの免疫分子が胎児の脳発達に関与しているのか、その具体的な分子機構は十分に明らかになっていませんでした。
また、G-CSFは感染や炎症時に上昇する造血因子5として広く知られていますが、妊娠期における脳発達との関連についてはほとんど明らかにされていませんでした。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科 器官解剖学分野の切替日奈子(きりかえ ひなこ)大学院生、大和田祐二(おおわだ ゆうじ)教授、前川素子(まえかわ もとこ)准教授、北海道大学大学院医学研究院薬理学分野の吉川雄朗(よしかわ たけお)教授らの研究グループは、本研究においてG-CSFに着目し、その神経発達への影響を調べました。まず、マウスを用いた母体免疫活性化モデルにおいて顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が上昇することを見出しました。そこで、妊娠マウスにG-CSFを投与し、生まれた仔の脳発達や行動への影響を解析しました。
その結果、仔マウスの前頭前野においてシナプス成熟に変化が認められました。特に未成熟シナプス構造の割合が増加しており、神経回路形成の過程に影響が生じていることが示唆されました(p = 0.027)(図2)。
さらに、仔マウスの行動への影響を解析したところ、社会性行動にも変化が認められました。通常、マウスは物体よりも他のマウスの周囲により長く滞在しますが、G-CSF投与群では他のマウス周囲での滞在時間の割合が対照群と比較して有意に低下していました(p = 0.031)(図3)。また、遺伝子発現解析により、神経発達関連および免疫関連経路に変化が認められました。
加えて、G-CSFの受容体(Csf3r)が脳内免疫細胞であるミクログリアに発現していることが確認されました。さらに、細胞実験の結果から、G-CSF刺激によりミクログリアの貪食能が亢進することが示されました。ミクログリアは、発達期に不要なシナプスを選択的に除去するなど、神経回路形成に重要な役割を担う細胞です。これらの結果は、妊娠期の免疫因子の変動がミクログリア機能を介して神経回路形成に影響を及ぼす可能性を示しています。
これらの結果から、G-CSFが造血作用に加え、神経発達過程にも影響を及ぼす可能性が示唆されました。

今後の展開
本研究はマウスを用いた基礎研究であり、ヒトにおける妊娠中の免疫状態と脳発達の関連を直接示したものではありません。しかし、本研究は、免疫と脳発達をつなぐ新たな分子メカニズムを示唆するものであり、今後の研究に向けた重要な手がかりを提供する成果です。
今後は、胎仔期および生後早期におけるG-CSFの作用機序をさらに詳細に解析するとともに、細胞種特異的なシグナル伝達経路の解明を進めていきます。
本研究は、妊娠期の免疫状態と神経発達の関連を理解するための基盤となる成果であり、将来的な神経発達研究の発展につながることが期待されます。

図1.妊娠期と仔の脳発達への影響(本研究の概念図)
妊娠中の免疫反応により免疫因子G-CSFが上昇すると、仔の前頭前野で未成熟シナプス構造の割合が増加し、成長後の社会性行動にも変化が生じることがマウス研究で示されました。
図2.妊娠期G-CSF上昇による前頭前野シナプス構造の変化
妊娠マウスにG-CSFを投与し、生まれた仔の前頭前野におけるシナプス構造を解析しました。神経細胞の樹状突起上のシナプス構造を定量解析した結果、G-CSF投与群では未成熟シナプス構造の割合が有意に増加していました(p = 0.027)。
これらの結果は、妊娠期のG-CSF上昇が仔の前頭前野におけるシナプス成熟に影響を及ぼす可能性を示しています。
図3.妊娠期G-CSF上昇による社会性行動の変化
妊娠マウスにG-CSFを投与し、生まれた仔マウスの社会性行動を解析しました。通常、マウスは物体よりも他のマウスの周囲により長く滞在しますが、G-CSF投与群では他のマウス周囲での滞在時間の割合が対照群と比較して有意に低下していました(p = 0.031)。
これらの結果は、妊娠期のG-CSF上昇が成長後の社会性行動に影響を及ぼす可能性を示しています。
謝辞

本研究は、日本学術振興会(JP24KJ0388、JP22K19502、JP23K24252、JP23K24783、JP25K02586)および 日本科学技術振興機構(JPMJSF2312、JPMJKP25Y8)、東京科学大学学際領域展開ハブ「多階層ストレス疾患」(JPMXP1323015483)、東北大学ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン推進センターTUMUG支援プログラムの支援を受けて行われました。また、一般財団法人糧食研究会、三島海雲記念財団、公益財団法人食生活研究会、資生堂女性研究者サイエンスグラント、飯島藤十郎記念食品科学振興財団の支援も受けています。
本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとして公開されています。

用語説明
  1. 顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte colony-stimulating factor, G-CSF):白血球の一種である顆粒球の産生を促進するタンパク質で、感染や炎症時に体内で増加する。臨床では白血球減少症の治療にも用いられている。 ↩︎
  2. シナプス:神経細胞同士の接合部のことで、情報伝達が行われる場所。 ↩︎
  3. ミクログリア:脳内に存在する免疫細胞で、発達期には不要なシナプスを除去するなどの役割を担う。 ↩︎
  4. 母体免疫活性化(Maternal Immune Activation, MIA):妊娠中に母体が感染や炎症などにより免疫反応を示す状態を指す。動物モデルでは、仔の神経発達や行動に影響を与えることが報告されている。 ↩︎
  5. 造血因子:造血幹細胞に作用して、血液細胞の増殖・分化・成熟を促進する生理活性物質の総称。 ↩︎
論文情報

タイトル:Maternal granulocyte colony-stimulating factor alters synaptic maturation and social behaviors in offspring
母体の顆粒球コロニー刺激因子が仔のシナプス成熟と社会性行動に影響
著者:Hinako Kirikae, Karina Kimura, Jinghang Fu, Zhengkang Sun, Hongbo Wang, Haruka Shibuya, Yoshiyuki Kasahara, Hirofumi Miyazaki, Yui Yamamoto, Mai Sakai, Zhiqian Yu, Shohei Ochi, Fumito Naganuma, Takeo Yoshikawa, Takashi Namba, Noriko Osumi, Hiroaki Tomita, Yuji Owada* and Motoko Maekawa*
*責任著者:
東北大学大学院医学系研究科 器官解剖学分野 
教授 大和田 祐二(おおわだ ゆうじ)
准教授 前川 素子(まえかわ もとこ)
掲載誌: Brain, Behavior, and Immunity
DOI:10.1016/j.bbi.2026.106534
URL:https://doi.org/10.1016/j.bbi.2026.106534

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科器官解剖学分野
准教授 前川素子
TEL:022-717-8037 
Email: motoko.maekawa.c7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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