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左心疾患が原因の肺高血圧症に新たな治療の可能性 -「SGLT2阻害薬」による予後改善を多施設共同研究で確認-

発表のポイント
  • 左心疾患が原因の肺高血圧症(Group 2 PH)1は、全体の約半数を占める最も多いタイプの肺高血圧症です。特に肺血管に障害がある場合は症状が重く、これまで明確な治療方針はありませんでした。
  • 心不全治療薬であるSGLT2阻害薬2を投与された患者では、肺血管抵抗が高い場合でも予後が改善することを、多施設共同研究で確認しました。
  • 今回の発見は、有効な治療法が示されていないGroup 2 PHに対して、新たな治療の選択肢となる可能性があります。
概要

心臓の左側の機能が低下することで生じるGroup 2 PHは、息切れや呼吸困難を繰り返す原因となり、進行すると予後が悪くなることが知られています。肺の血管が硬くなるなどの肺血管機能障害を伴う場合は治療が難しく、これまで有効な治療法は確立されていませんでした。一方、SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の治療薬として開発され、近年では心不全の薬として広く使用されている薬剤です。しかし、肺高血圧症の中でも肺血管抵抗が高いケース3への効果については、これまで報告がありませんでした。
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田 聡教授、SiRIUS(医学イノベーション研究所)の佐藤大樹講師は、国際医療福祉大学の杉村 宏一郎 教授らと共同で、JAPAN PHレジストリー(JAPHR)4の主要研究グループであるGroup 2 PHレジストリーの研究責任施設として全国15施設と多施設共同前向き研究を主導しました。
多施設の登録データを解析した結果、肺血管抵抗が高いGroup 2 PHの患者では、SGLT2阻害薬を使用している患者は使用していない患者に比べて予後が良いことを確認しました。この知見は、治療法が確立していないGroup 2 PHに対して、新たな治療戦略につながる可能性があります。
本研究は2026年3月20日に心血管研究の専門誌Journal of American Heart Associationに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
左心疾患による肺高血圧症(Group 2 PH)は、肺の血管と左右の心室の働きが複雑に影響し合う病気で、特に肺血管に障害がある場合は予後が悪く、治療法の確立が急がれています。
診断は、心臓カテーテル検査でPCWP(左心の負荷を示す値)が15mmHgより高いこと、そしてmPAP(肺高血圧症を示す平均肺動脈圧)が20mmHgを超えることが基準です。しかし、この基準を満たす患者に対し、明確な治療法は示されていませんでした。
一方、SGLT2阻害薬は心不全の治療薬としてすでに広く使われており、糖尿病や腎機能悪化の抑制など多面的な効果が知られています。しかし、左心疾患が原因の肺高血圧症に対して効果があるかどうかは、これまで分かっていませんでした。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田 聡(やすだ さとし)教授、SiRIUS(医学イノベーション研究所)の佐藤 大樹(さとう たいじゅ)講師は、国際医療福祉大学の杉村宏一郎 教授らと共同で、全国15施設の心疾患・肺高血圧症の専門施設とともに、前向きレジストリー研究(患者さんの診療情報を継続的に収集して解析する研究)を進めてきました。本研究では、このレジストリーに登録された2018年4月から2024年12月までのデータを解析しました。さらに、治療法が年々進歩してきたことに着目し、2012年から2016年に東北大学が中心となって行った過去のレジストリー(旧レジストリー)と比較して再解析を行い、時代による違いも検証しました。
その結果、新旧いずれのレジストリーでも、肺血管抵抗が3 Wood Unit(WU)以上を伴う症例で予後が悪いことを確認しました (イベントが起きずに経過した割合、肺血管抵抗 > 3WU vs. 肺血管抵抗 ≦ 3WU, 旧レジストリー: 72.9% vs. 61.4%; 新レジストリー: 75.2% vs. 55.4%)(図1)。一方、SGLT2阻害薬は2014年に糖尿病治療薬として登場し、2020年から心不全にも使われるようになった薬で、旧レジストリーには使用例がありません。新レジストリーを詳しく調べたところ、肺血管抵抗を伴う症例では、SGLT2阻害薬を使用した患者の方が使用していない患者と比べて有意に予後の改善がみられました(イベントが起きずに経過した割合、SGLT2投与群 vs. 非投与群, 73.8% vs. 35.5%)(図2)。

今後の展開
本研究により、これまで治療法が限られていたGroup 2 PHに対し、SGLT2阻害薬を用いた新しい治療戦略が予後の改善に寄与する可能性が示されました。

図1.Group 2 PH症例では肺血管抵抗値が予後不良因子となる
2012年から2016年のレジストリー425症例、2018年から2024年のレジストリーの563例のいずれにおいても肺血管抵抗が高い症例では、臨床経過が不良であり、予後不良因子となることがわかりました。
図2.現行レジストリーにおけるSGLT2阻害薬投与群と非投与群の比較
2016年から2024年の現行レジストリーにおいてSGLT2阻害薬投与群(紫色)と日投与群を比較すると、3WUより高い肺血管抵抗を有する症例において有意に予後の改善がみられました。
謝辞

本研究は特定非営利活動法人Japan PH Registryの支援を受けて実施されました。

用語説明
  1. 左心疾患が原因の肺高血圧症(Group 2 PH):肺高血圧症のWHO機能分類は、肺高血圧症の基礎疾患によって1から5群に分類され、左心疾患由来の肺高血圧症は2群に分類されます。 ↩︎
  2. SGLT2阻害薬:尿が作られる際の糖再吸収を阻害することで糖排泄を増やし、血糖値を下げる糖尿病治療薬です。現在では心不全の治療薬として糖尿病ではない方にも使用され、予後を改善させることが報告されています。 ↩︎
  3. 肺血管抵抗が高い肺高血圧症:肺血管抵抗は、肺の血管内で血液が流れるのに対する抵抗を示す指標です。肺動脈の圧力と血流量を基に計算され、通常はWood単位やdynes・sec・cm-5で表されます。 ↩︎
  4. JAPAN PHレジストリー(JAPHR):2019年よりNPO法人として設立され、日本肺高血圧・肺循環学会の公式レジストリとして日本からのエビデンス創出を目指しています。 ↩︎
論文情報

タイトル:Prognostic Impact of Elevated Pulmonary Vascular Resistance in Group 2 Pulmonary Hypertension: Insights from a Japanese Multicenter Registry
著者:佐藤大樹*、杉村宏一郎、福本義弘、阿部弘太郎、土肥由裕、土肥薫、谷口悠、橋本暁佳、加藤重彦、中村和人、高間典明、橋本亨、山田祐資、照井洋輔、三浦裕、石山将希、小山雅之、世良英子、田村雄一、坂田泰史、波多野将、安田聡
*責任著者:SiRIUS(医学イノベーション研究所) 講師 佐藤大樹
掲載誌:Journal of American Heart Association
DOI:10.1161/JAHA.125.045155
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41859897/

問い合わせ先

(研究に関すること)
SiRIUS(医学イノベーション研究所)
講師 佐藤 大樹(さとう たいじゅ)
TEL:022-717-7153
Email:taijyu.satoh.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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