発表のポイント
- 1枚の眼底写真からその人の体の年齢を示す「網膜年齢」を推定するAIを開発し、AI学習とは別の集団での検証(以下、内部検証)では平均誤差12.78歳、独立した外部の集団でも平均誤差3.39歳という結果が得られました。
- 推定された網膜年齢と実年齢の差(以下、網膜年齢ギャップ)2は、糖尿病、心疾患、脳卒中のある人で有意に大きく、これらの疾患のある人の網膜は実年齢より高齢に見える傾向が確認されました。
- 網膜年齢の推定時に必要なのは眼底写真1枚だけで、健診や眼科診療ですでに撮影されている画像から全身の健康状態を評価する補助指標になる可能性があります。
概要
加齢に伴う変化は、年齢を重ねるごとに全身のあらゆる部分において緩やかに現れますが、眼の奥にある網膜にも現れます。
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、二宮高洋非常勤講師らの研究グループは、眼底写真1枚から、その人の体の年齢を反映する「網膜年齢」を高精度に推定するAIを開発しました。健常者由来の50,595枚の眼底写真で学習した結果、内部検証で平均誤差2.78歳、別の集団データでも平均誤差3.39歳という結果が得られました。さらに、AIが推定した網膜年齢と実年齢の差である「網膜年齢ギャップ」は、糖尿病、心疾患、脳卒中のある人で有意に大きく、これらの疾患のある人は網膜が実年齢よりも高齢に見える傾向が確認されました。本研究は、1枚の眼底画像から全身の加齢および健康状態を読み解く新たな手法として期待されます(図1)。
本成果は、2026年4月8日に「Communications Medicine」誌に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
網膜は、体の中で血管や神経の状態を非侵襲的に直接観察できる数少ない部位です。近年は、眼底画像3から全身の状態を読み取る「オキュロミクス4」が注目されており、眼底写真から推定した年齢と実年齢との差は、生物学的な加齢の指標になりうると考えられています。一方で、撮影機器や対象が変わると精度が落ちやすく、健診や臨床研究等で扱いやすい汎用性の高いモデルが求められていました。
今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹(なかざわ とおる)教授、二宮高洋(にのみや たかひろ)非常勤講師らの研究グループは、健康診断で撮影された眼底写真のうち、画質に問題のない50,595枚をAIに学習させ、 1枚の眼底写真から「網膜年齢」を推定するAIを開発し、別の7,288枚で内部検証しました。モデルには、Sharmaらが2022年に報告した軽量モデルLWBNA_Unet(参考文献)を基盤に、さらに精度を高めた独自モデルを用いました。さらに、年齢推定に加えて、過去2〜3か月の平均的な血糖状態を反映するHbA1cを同時に学習させるマルチタスク学習5と、5つのAIモデルの予測を平均するアンサンブル学習6を組み合わせることで、網膜の加齢パターンをより安定して捉える設計としました。HbA1cは学習時の補助情報として用いており、実際の網膜年齢の推定時に必要なのは眼底写真1枚のみです。
その結果、内部検証では平均誤差2.78歳、独立した外部の集団では平均誤差3.39歳を示し、海外の外部集団(4,992眼)においても平均誤差8.63歳と既存手法(9.02歳)を上回る結果が得られました。また、5つのAIモデルの予測値の標準偏差は予測の確からしさの目安となり得る可能性が示され、内部検証ではばらつきが小さい群で平均誤差2.46歳とより高い精度が得られました。独立した外部集団での検証においても、ばらつきが小さい群の平均誤差は2.87歳であり、ばらつきが大きい群の3.91歳より良好でした。さらに、年齢と性別をそろえた解析では、糖尿病(0.61歳 vs -0.70歳)、心疾患(-0.33歳 vs -0.78歳)、脳卒中(0.33歳 vs -0.42歳)のある人で網膜年齢ギャップが有意に大きくなりました(それぞれp < 0.001, p = 0.003, p = 0.019)。海外外部検証は、英国University College LondonのPearse A. Keane 研究室との研究連携の一環として、AlzEye 20187由来のデータを用いて実施されました。
今後の展開
今後は、健診や眼科外来で日常的に撮影される眼底写真から、追加の採血を行うことなく全身の健康状態を評価する補助ツールとして活用されることが期待されます。一方で、今回の研究は横断的な解析手法によって示されたものであり、将来的な疾患の発症をどこまで具体的に予測できるかは今後さらに検証する必要があります。研究グループは、今回得られたデータをもとに、網膜年齢ギャップの変化と全身疾患の発症との関係をさらに調べる予定です。

謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT、JPMJPF2201)の一部支援を受けて実施されました。なお、本論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。
用語説明
- 平均誤差:AIが推定した年齢と実年齢との差の絶対値を平均した値です。論文では mean absolute error(MAE)を用いており、値が小さいほど推定精度が高いことを示します。 ↩︎
- 網膜年齢ギャップ:AIが眼底写真から推定した網膜年齢と実年齢との差です。正の値が大きいほど、網膜が実年齢より高齢に見えることを示します。 ↩︎
- 眼底画像:眼の奥にある網膜、視神経乳頭、血管などを撮影した画像です。 ↩︎
- オキュロミクス:眼の画像などから全身の健康状態や疾患リスクを読み解く研究分野です。 ↩︎
- マルチタスク学習:1つのAIモデルが複数の関連する課題を同時に学習する方法です。本研究では年齢とHbA1cを同時に学習させました。HbA1cは学習時の補助情報であり、実際の推定時には不要です。 ↩︎
- アンサンブル学習:複数のAIモデルの予測結果を組み合わせて最終予測を行う方法です。本研究では5つのfold別モデルの予測平均を用いました。また、各モデルの予測値の標準偏差は、予測の確からしさの目安となる可能性が示されました。 ↩︎
- AlzEye2018:英国のMoorfields Eye Hospitalにおいて収集された大規模な眼科画像データベースです。電子カルテ情報と連結されており、眼底画像やOCT画像と全身疾患との関連を解析する研究に広く用いられています。本研究では外部検証データセットとして使用しました。 ↩︎
参考文献
Sharma, P.et al.A lightweight deep learning model for automatic segmentation and analysis of ophthalmic images. Sci. Rep. 12, 8505 (2022).
論文情報
タイトル:High-accuracy retinal age prediction via fundus-based multitask learning reveals the effect of systemic disease
著者:Takahiro Ninomiya, Akiko Hanyuda, Naoki Kiyota, Parmanand Sharma, Yukun Zhou, Siegfried K. Wagner, Keita Suzuki, Takanari Nozaki, Takehiro Miya, Naoki Takahashi, Kazuko Omodaka, Noriko Himori, Yoichi Ichikawa, Pearse A. Keane, Toru Nakazawa*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野 教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
掲載誌:Communications Medicine
DOI:https://doi.org/10.1038/s43856-026-01573-y
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
眼科学分野 教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
TEL: 022-717-7294
Email:toru.nakazawa.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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