発表のポイント
- 頭頸部がんにおいて、どの薬が効きやすいかを事前に予測できる新しいバイオマーカー1を発見しました。
- がん細胞内の炎症に関わるJAK-STAT経路2の活性化指標となるp-STAT33の発現状態が、免疫療法と分子標的薬の効果の違いに関連することを明らかにしました。
- 本研究成果は、患者ごとに最適な治療を選ぶ「精密医療」の実現につながる成果です。
概要
頭頸部がんの薬物療法では、免疫チェックポイント阻害薬4と抗EGFR抗体薬5という2つの治療選択肢があります。しかし、どの患者にどちらの薬がより効果的なのかを事前に判断する方法は確立されていません。
東北大学病院腫瘍内科の西條憲講師、川上尚人教授らの研究グループは、がん細胞の中で働く炎症のシグナルJAK-STAT経路に注目しました。頭頸部がん患者30名の臨床データを解析したところ、免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい患者では、抗EGFR抗体薬が高い効果を示すことを確認しました。さらに、JAK-STAT経路に関わる遺伝子の発現、およびこの経路の活性を示す指標であるp-STAT3の発現が、2つの薬の効きやすさの違いに関連していることを明らかにしました。これらの知見は、腫瘍の分子特性に基づいて最適な治療法を選択する「精密医療」の観点から、頭頸部がんの治療戦略の個別化に貢献します。将来的には、患者ごとにより適切な治療薬を選択することで治療成績の向上につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年4月23日に国際学術誌 JCO Precision Oncology に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
頭頸部がんは、口腔、咽頭、喉頭などに発生するがんで、進行・再発例では薬物療法が治療の中心となります。現在、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬である抗EGFR抗体薬などの治療選択肢がありますが、「どの患者にどの治療がより有効であるか」を事前に予測することは難しいという課題があります。そのため、治療選択を支えるバイオマーカーの確立が重要な課題となっています。
研究の内容
東北大学病院腫瘍内科の西條憲(さいじょう けん)講師、川上尚人(かわかみ ひさと)教授らの研究グループは、免疫チェックポイント阻害薬と抗EGFR抗体薬の治療を受けた頭頸部がん患者30名の臨床データを解析しました。免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい患者では、抗EGFR抗体薬が高い効果を示すことを見出しました。抗EGFR抗体薬の無増悪生存期間は 、免疫チェックポイント阻害薬無効例では10.3カ月( 有効例は4.2カ月)と有意に延長していました。そこで、がんの組織を解析し、その違いの原因を調べました(図1)。
上記のうち20名のがんの組織を解析し、細胞内の炎症シグナルに関わるJAK-STAT経路の遺伝子発現に違いがあることに着目しました。そこで、この経路の活性化を示す指標であるp-STAT3の発現を評価しました。その結果、p-STAT3の発現状態が治療効果の違いと関連していることが分かりました。具体的には、p-STAT3が高い腫瘍では、免疫チェックポイント阻害薬の効果が限定的である一方、抗EGFR抗体薬が有効である傾向がみられました。この結果から、JAK-STAT経路の活性化の強さが、最適な治療の選択に関わる可能性が示されました(図2)。
これらの知見は、腫瘍の分子特性に基づいて最適な治療法を選択する「精密医療」の観点から、頭頸部がんの治療戦略の個別化に貢献します。将来的には、患者ごとにより適切な治療法を選択することで治療成績の向上につながることが期待されます。
今後の展開
研究グループは今後、より大規模な臨床データを用いた研究を進めるとともに、腫瘍内炎症シグナルと抗腫瘍免疫の相互作用の解明を通じて、頭頸部がんの新たな治療戦略の確立を目指します。治療薬の治療効果を事前に予測し、適切な治療選択を支援する新しい診断技術として特許出願をしました。


頭頸部がん組織の遺伝子発現解析の結果から、炎症シグナル(JAK-STAT経路)の活性化に着目した。その結果、p-STAT3の発現状態によって、免疫治療と分子標的治療の効きやすさが異なる可能性が明らかとなった。
謝辞
本研究は科研費(研究課題番号:JP24K11530)の研究助成を受けて実施されました。
用語説明
- バイオマーカー:腫瘍の性質や状態から薬剤を選択する指標です。 ↩︎
- JAK-STAT経路:細胞がサイトカインなどのシグナルを受け取った際に活性化されるシグナル伝達経路で、遺伝子発現を調節し、炎症反応、細胞の増殖・分化・免疫応答などに関与しています。 ↩︎
- p-STAT3(リン酸化STAT3):STAT3というタンパク質が活性化された状態を示す指標で、がん細胞内の炎症シグナルの強さを反映します。 ↩︎
- 免疫チェックポイント阻害薬:免疫細胞に備わる抑制機構(チェックポイント)を阻害することで、がん細胞に対するT細胞の攻撃能を回復・増強する薬剤です。がんが免疫から逃れる仕組みを解除する治療として用いられます。 ↩︎
- 抗EGFR抗体薬:上皮成長因子受容体(EGFR)に特異的に結合し、そのシグナル伝達を阻害する抗体医薬です。EGFRを介した細胞増殖や生存シグナルを抑制することで、腫瘍の進行を抑えます。 ↩︎
論文情報
タイトル:Inverse Relation Between Responses to Pembrolizumab Plus Chemotherapy and Subsequent Cetuximab Plus Paclitaxel in Head and Neck Cancer: Role of the Janus Kinase–Signal Transducer and Activator of Transcription Signaling Pathway
著者:西條憲、今井源、岩崎智行、石井亮、東賢二郎、大越明、山﨑有人、白川智章、齋藤椋、若山祥之介、沼倉龍之助、吉田裕也、谷口桜、笠原佑記、大内康太、小峰啓吾、城田英和、高橋雅信、鈴木貴、香取幸夫、石岡千加史、川上尚人*
*責任著者:東北大学病院腫瘍内科 教授 川上 尚人(かわかみ ひさと)
掲載誌:JCO precision oncology
DOI: 10.1200/PO-25-01050
URL:https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/PO-25-01050
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学病院 腫瘍内科
講師 西條 憲(さいじょう けん)
TEL: 022-717-8543
Email: ken.saijo.d6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学病院広報室
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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