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難治性の皮膚腫瘍「血管肉腫」に新規治療の可能性 -内服薬PAI-1阻害薬併用による抗腫瘍効果に期待-

発表のポイント
  • PAI-11阻害薬TM56142は、研究段階から臨床試験まで一貫して東北大学で開発した新規医薬品です。
  • 血管肉腫の標準治療であるパクリタキセル3が効かない皮膚血管肉腫4に対して、PAI-1 阻害薬TM5614 の安全性・有効性を検討する医師主導治験(第Ⅱ相試験)を実施し、TM5614 は、安全にパクリタキセルの抗腫瘍効果を増強することが示唆されました。
  • 今後、薬事承認のための検証試験(第Ⅲ相試験)が予定されており、日本における血管肉腫をはじめとする肉腫患者の生存期間の向上に繋がることが期待されます。
概要

皮膚血管肉腫は極めて希少な肉腫であり、血管内皮細胞5ががん化した大変予後の悪い皮膚がんです。血管肉腫の治療は、パクリタキセルが第1選択薬となっていますが、再発後の2次治療に対して有効な治療はほとんど無く、新たな治療薬の開発が望まれています。
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の藤村卓准教授らの研究グループは、東北大学発のスタートアップ企業である株式会社レナサイエンスと共同で、内服薬PAI-1 阻害薬TM5614 が、血管肉腫においてパクリタキセルの耐性を解除し、抗腫瘍免疫を増強する可能性を見出しました。2023年9月から2024 年12 月に、パクリタキセルが無効の皮膚血管肉腫16 例に対し、パクリタキセルとPAI-1 阻害薬TM5614 の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験を施行した結果、奏効率6が13.3%(PPS)、全生存期間が21.1ヶ月と既存の治療薬を凌駕する効果が得られました。また、未知の有害事象は認められず、重症の有害事象も31.3%と他の治療法と比較して低い数値でした。本研究により、パクリタキセルとPAI-1 阻害薬TM5614 の併用療法が血管肉腫に対する二次治療として新たな治療選択となりうる可能性が示唆されました(図)。
今後は、薬事承認のための検証試験(第Ⅲ相試験)が予定されており、日本における血管肉腫をはじめとする肉腫患者の生存期間の向上に繋がることが期待されます。

詳細な説明

研究の背景と経緯
皮膚血管肉腫は、5年生存率が10%以下という予後不良かつ極めて希少な皮膚がんで、血管内皮細胞ががん化したものです。日本の患者数は欧米の患者数と比べて多く(100万人あたり約2.5人)、近年の発症頻度は増加しています。血管肉腫の標準治療は、微小管阻害剤のパクリタキセルが第1選択薬となっていますが、全生存率は649日と短く、パクリタキセルによる化学療法と放射線療法の併用においても、大半の症例では長期的ながんの縮小あるいは消失を得ることは困難な状況です。2次治療薬として使用されているパゾパニブ7は血管肉腫に対する奏効率は3%(Cancer 2022:128;3516)であり、また、エリブリン8は一定の奏効率を示すものの、64%で重大な副作用が発症するなど問題があります。血管肉腫の2次治療に対して有効な治療は無く、新たな治療薬の開発が急務となっています。
PAI-1は血管内皮細胞から産生されるため、血管内皮細胞の悪性腫瘍である血管肉腫においてはPAI-1が特に強く発現しています。PAI-1は腫瘍の増殖、転移、腫瘍免疫、免疫治療に対する抵抗性などに深く関与していることが明らかとなっています。実際にPAI-1の発現が強い血管肉腫患者ではパクリタキセルの効果が不充分であることが報告されています。また、パクリタキセルは血管肉腫にアポトーシス9を誘導しますが、PAI-1を強く発現しているがん細胞はアポトーシスを起こしにくいことも明らかになっています。これら一連の知見から、パクリタキセルとPAI-1阻害薬TM5614とを併用することにより、切除不能な血管肉腫に対する治療効果が増強される可能性が強く示唆されます。さらに、TM5614併用による抗腫瘍効果として、上皮間葉転換(EMT)10の抑制、Tリンパ球の活性化、腫瘍浸潤マクロファージ(TAM)11の減少、腫瘍内のTリンパ球数の増加、がん細胞上の免疫チェックポイント12分子発現の低下、がん細胞の免疫チェックポイント分子阻害薬への耐性解除、腫瘍免疫微小環境13の改善、腫瘍免疫の活性化などが関与していることが示唆されます。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の藤村卓(ふじむら たく)准教授らの研究グループは、東北大学発のスタートアップ企業である株式会社レナサイエンスと共同で、内服薬PAI-1 阻害薬TM5614 が血管肉腫においてパクリタキセルの耐性を解除し、抗腫瘍免疫を増強する可能性を見出しました。2023年9月から2024 年12 月に、パクリタキセルが無効の皮膚血管肉腫患者に対し、パクリタキセルとPAI-1 阻害薬TM5614 の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験を施行しました。本治験では16名の患者が登録されましたが、1名の患者において本治験の適格基準外であることが判明しました。そのため、有効性の評価は15名の患者で行いました。安全性については薬剤を投与された全16名で評価しました。

有効性
主要評価項目の解析対象となる15症例において、治療開始28週時点における画像判定(中央判定)による奏効率は完全奏効(CR)1412.5%でした。さらに、無増悪生存期間(PFS)15および全生存期間(OS)16の中央値は、それぞれ4.1ヶ月および21.1ヶ月であり、国内で前向き臨床試験として実施されたパゾパニブ(JCOG1605)17の結果である2.8ヶ月および12.1ヶ月を凌駕する結果が得られました。また、15例中13例(86.7%)で病勢の安定が確認され、高い病勢制御率18が示されました。

安全性
重篤な副作用や未知の副作用の発現はありませんでした。治験薬との因果関係が否定できないGrade 3以上の有害事象は16例中5例(31.3%)で認められましたが(肝機能障害および白血球減少)、いずれも回復しており、重篤な治験薬関連有害事象は認められませんでした。既報のJCOG1605におけるGrade 3以上の有害事象の70%と比較しても、本剤はより良好な忍容性を示していると考えられます。

今後の展開
本試験でのPFSやOSの結果は、臨床上の意義や医療上の必要性を支持できるデータと考えます。本剤は既存治療では十分な治療効果が得られない進行性皮膚血管肉腫に対し、生存期間の延長と良好な安全性プロファイルを示す新たな治療選択肢となる可能性が示されました。本疾患は全生存率が極めて短いこと、さらに患者数が極めて少なく治療薬の開発も進みにくい領域であることを考慮すると、本剤の開発は医療上の必要性が極めて高いと考えられます。今後、本治験試験の成果を総括報告書、論文にまとめるとともに、次相試験並びに実用化に向けて準備を進めます。

図.パクリタキセル抵抗性皮膚血管に対する新たな治療戦略
用語説明
  1. PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1):古くは血管新生に、最近は免疫チェックポイントの発現に関与することが知られています。いずれも癌の進行に深く関わることから、癌の進行に直接関わる因子として30年前から研究されています。 ↩︎
  2. PAI-1阻害薬TM5614:東北大学が株式会社レナサイエンスと共同で開発した医薬品(内服薬)。 ↩︎
  3. パクリタキセル:太平洋イチイの樹皮から抗がん作用が見いだされた化学療法剤(抗がん剤)で、現在は化学合成されています。細胞の分裂に関わる「微小管」に結合して、がん細胞の分裂をとめ、死滅させる(細胞死)と考えられています。 ↩︎
  4. 皮膚血管肉腫:血管肉腫は皮膚がんの一種で、とりわけ頭皮の血管肉腫は100 万人当たり2.5人程度とまれですが、極めて悪性度が高く、急速に進行し5年の無病生存率は20%以下と報告され、標準的な治療法は確立されていません。 ↩︎
  5. 血管内皮細胞:血管の内腔を覆う細胞です。血管内皮細胞は血管の構成要素となるだけでなく、血液と 組織が酸素や栄養素などの物質交換を行う場として働き、さらには様々な生理活性物質を産生して組織や臓器の機能を維持する働きがあります。 ↩︎
  6. 奏効率:固形がんに対する治療効果の判定に用いる一般的な評価基準です。治療開始前に腫瘍の大きさをCTなどの画像診断で計測し、大きな腫瘍を選択して標的病変、それ以外を非標的病変と呼びます。これら病変の治療中の大きさの変化を「完全奏効(CR)」「部分奏効(PR)」「安定(SD)」「進行(PD)」と表します。
    完全奏効(CR)すべての標的病変の消失もしくはリンパ節の場合は短径10㎜未満に縮小
    部分奏効(PR) 治療開始前より30%以上縮小
    進行(PD) 治療中に最も腫瘍が小さい時より20%以上腫瘍が増大もしくは径にして5㎜以上の増大安定(SD) 部分奏効(PR)と進行(PD)の間
    完全奏効(CR)+部分奏効(PR)の割合を奏効率と定義します。 ↩︎
  7. パゾパニブ:がん細胞への血流を抑えることで増殖を防ぐ「分子標的治療薬」の一種です。主に腎細胞がんや軟部肉腫の治療に用いられています。副作用発現率は93.5%と高く、主な副作用は、下痢、高血圧、疲労感、悪心・嘔吐、肝機能障害、味覚異常などです。 ↩︎
  8. エリブリン:海洋天然物をもとに開発された抗がん剤で、細胞が分裂する際に必要な細胞構成成分の一つである微小管に作用し、がん細胞の増殖を阻害し、死滅させます。骨髄抑制による感染症、倦怠感、手足の痺れなどの重篤な副作用があります。 ↩︎
  9. アポトーシス:不要になった細胞を除去するために、細胞が自ら作動させる細胞死の現象です。 ↩︎
  10. 上皮間葉転換(EMT):細胞と細胞が接着することによって組織を形成している上皮細胞が、可動性の高い間葉系の細胞に変化する現象です。組織の線維化、がんの浸潤、転移を促進する一つのきっかけとなります。 ↩︎
  11. 腫瘍浸潤マクロファージ(TAM):腫瘍浸潤マクロファージは、がん組織に集積する免疫細胞の一種で、この細胞の浸潤度が高いことは、患者の予後不良と関連しています。具体的には、細胞増殖因子の産生とがん細胞の増殖、血管新生因子の放出と腫瘍への血液供給を増加、さらにがん細胞の周囲組織への浸潤や転移を促進します。 ↩︎
  12. 免疫チェックポイント:免疫細胞(T細胞)の過剰な活性化により正常細胞を攻撃しないように、ブレーキとして働く分子です。がん細胞もこの分子により免疫細胞からの攻撃を回避しております。 ↩︎
  13. 腫瘍免疫微小環境:がん細胞と周囲の細胞の相互作用により、正常組織とは異なった組織の状態をいいます。抗がん薬により、がん細胞が免疫の攻撃を受けにくい状態になり、抵抗性獲得の一つの要因であると考えられています。 ↩︎
  14. 完全奏効(CR):すべての標的病変の消失が確認され、新規病変の出現が認められない状態をいいます(RECISTガイドラインに基づく)。 ↩︎
  15. 無増悪生存期間(PFS):がん治療の効果を評価する指標の一つで、治療開始からがんの進行や再発が確認されるまでの期間、または患者が亡くなるまでの期間を指します。この期間が長いほど、治療の効果が高くなります。 ↩︎
  16. 生存期間(OS):治療開始から患者が亡くなるまでの期間を指し、がん治療の効果を評価する際に用いられる主要な指標のひとつです。 ↩︎
  17. JCOG1605:パクリタキセルによる一次化学療法後に増悪もしくは再発した原発性皮膚血管肉腫患者に対する二次化学療法として、パゾパニブ療法の有効性および安全性の評価を行った試験です。 ↩︎
  18. 病態制御率:がん治療の臨床試験で用いられる指標で、完全奏効(CR)・部分奏効(PR)・病勢安定(SD)を達成した患者の割合を示し、がんの進行を抑えられている状態を評価します。 ↩︎
問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 皮膚科学分野
准教授 藤村 卓(ふじむら たく)
TEL: 022-717-7271
Email: tfujimura1*derma.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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