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心臓カテーテル治療中の医師の眼の被ばく要因を解明 -リアルタイム線量計と映像解析で防護板位置の影響を定量評価-

発表のポイント
  • リアルタイム線量計1とOpenCV2を用いた映像解析を組み合わせ、心臓カテーテル治療中の医師の眼(水晶体)の被ばく増加要因を解明しました。
  •  天井吊り下げ式防護板の「横方向の位置ずれ」が、被ばく増加に強く関与することを明らかにしました。特に、照射角度の変更後や患者の足側方向からの撮影時に、防護板が適切な位置から外れやすいことが分かりました。
  • 本研究成果は、防護教育や装置配置の改善を通じた医療従事者の安全確保への貢献が期待されます。
概要

心臓カテーテル治療では、医師が患者近くでX線透視と撮影を行うため、放射線被ばくが問題となっています。特に眼の水晶体は放射線の影響を受けやすく、近年の法令改正により被ばく線量限度が引き下げられ、防護対策の重要性が高まっています。中でも天井吊り下げ式防護板は重要な防護具ですが、実際の臨床での使用状況や位置ずれの影響は十分に検討されていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の下橋航大大学院生、千田浩一教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、リアルタイム線量計を医師の眼付近に装着し、1秒ごとの線量変化を測定するとともに、OpenCVを用いた映像解析によって、防護板と術者頭部の位置関係を定量化しました。その結果、防護板の「横方向の位置ずれ」が眼の被ばく増加に強く関与すること、また照射角度の変更後や患者の足側方向(受像部が患者の足側)からの撮影時には、防護板が適切な位置から外れやすく、線量率が有意に上昇することを明らかにしました。本研究は、術者の被ばくが「いつ増えたか」だけでなく、「どのような防護状態で増えたか」まで解析した点が大きな特長であり、医療従事者の放射線防護向上への貢献が期待されます。本研究成果は2026年5月7日にRadiation physics and chemistry誌(電子版)に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
インターベンショナルラジオロジー(IVR)は、カテーテルなどを用いて体内を治療する低侵襲治療であり、高齢患者にも実施しやすいことから普及しています。中でも心臓カテーテル治療は重要な治療法として広く行われています。
一方で、IVRでは長時間のX線透視を伴うことも多いため、患者だけでなく医療従事者の職業被ばくも問題となっています。特に術者は患者の近くで操作を行うため、患者から発生する散乱線3による被ばくを受けやすいことが知られています。また、眼の水晶体は放射線の感受性が高く、国際放射線防護委員会(ICRP)は水晶体の線量限度を大幅に引き下げています。
天井吊り下げ式防護板は、心臓カテーテル治療における術者被ばく低減のために不可欠な防護機器として日常的に使用されています。一方で、実際の臨床現場では、術者の動きや装置の角度変更に伴い、防護板を常に適切な位置に維持することが難しいという課題があります。しかし、防護板が実際の治療中にどのように使用されているか、また位置ずれが術者被ばくにどの程度影響するかを詳細に検討した研究はほとんどありませんでした。
さらに、従来の受動型線量計4では累積線量しか分からず、被ばくが増加した具体的なタイミングや術者の行動を特定することが困難でした。そのため、本研究ではリアルタイム線量計と映像解析を組み合わせた新しい解析手法を用いました。

今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の下橋航大(さげはし こうだい)大学院生、千田浩一(ちだ こういち)教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、心臓カテーテル治療を対象に、術者の眼付近にリアルタイム線量計i3 (RaySafeTM, Sweden)を装着し、1秒ごとの線量率を測定しました。同時に、患者の足側から手技全体を動画撮影(図1)し、防護板と術者頭部の位置関係を、OpenCVを用いた画像解析によって1秒ごとに測定し位置を定量化しました。OpenCVを用いることで「防護板が術者頭部に対してどの程度前方・上方に位置しているか」を数値化する独自指標を構築しました。従来は「防護板を使用している/していない」といった定性的評価が中心でしたが、OpenCVを用いた本解析手法では防護状態を連続的・定量的に評価できる点が特長です。
解析の結果、防護板の「横方向」の位置が術者の被ばく量に大きく関与することが明らかになりました。防護板が術者頭部より後方に位置すると、線量率が有意に上昇しました(p < 0.05)。一方で、防護板の上下方向の位置ずれは、影響が比較的小さいことが示されました。さらに、X線の照射角度によっても被ばく量は大きく変化しました(p < 0.05)。特に患者の足側方向(CAU方向)の撮影では、防護板とFPD(平面検出器)が干渉しやすく、防護板が適切な位置から外れることで被ばく量の増加につながることが明らかになりました(図2、3)。
加えて、シネ撮影5では透視よりX線照射時間が短いにもかかわらず、術者被ばくへの影響が大きいことも分かりました。これは、シネ撮影時にX線の出力条件がより高くなることで多量の散乱線が発生するためと考えられます。特にバイプレーン装置6では2方向から同時にX線を照射するため、防護板の位置をよりに前方へ配置する必要があることが明らかになりました。
本研究は、近年の国際放射線防護委員会(ICRP)による水晶体線量限度引き下げを背景に、心臓カテーテル治療における医療従事者の放射線防護という重要かつ社会的関心の高い課題に取り組んだものです。リアルタイム線量計とOpenCV映像解析を組み合わせることで、防護板の位置や照射方向が術者の眼の被ばくに与える影響を定量的に解析しました。記録映像から術者と防護板の位置関係をOpenCVを用いて数値化し、被ばくとの関係を解析した点は、本研究の新しい特長です。特に、防護板の「横方向の位置ずれ」や「特定の照射方向」が術者の被ばく量の増加に大きく関与することを明らかにした点は、実際の臨床現場に直結する実践的な知見であり、IVRにおける放射線防護教育や術者の安全管理の向上に貢献することが期待されます。

今後の展開
今後は、複数の術者や多施設での解析を進め、より一般化可能な防護指針の構築を目指します。また、AIを用いた自動画像解析や術中のリアルタイム警告システムへの応用も期待されます。
本研究成果は、IVRを行う医師への防護教育や防護板の設置位置の最適化に活用できる可能性があり、医療従事者の職業被ばくの低減と安全な医療環境の実現への貢献が期待されます。

図1. 手技の配置図の一例 FPD:Flat Panel Detector(平面検出器, X線受像部)
図2. 線量率は右前斜位35°・頭側30°(RAO35-CRA30)と比較して右前斜位35°・足側30°(RAO35-CAU30)、左前斜位45°・足側30°(LAO45-CAU30)で有意に高い。(Kruskal-Wallis test で p < 0.05, Dunn’s multiple comparison test (adjusted) でp < 0.05)
図3. 照射方向別の防護板の水平方向の位置
防護板の水平方向の位置は頭側方向(CRA)と比較して足側方向(CAU)で有意に小さい(術者頭部から外れており、防護が不十分である)。(Kruskal-Wallis test で p < 0.05, Dunn’s multiple comparison test (adjusted) でp < 0.05)
謝辞

本研究の一部は、厚生労働省労災疾病臨床研究事業 (研究代表者:千田浩一)、JSPS科研費基盤B(23K28227 、研究代表者:千田浩一)、および国際卓越研究者育成支援プログラム (研究代表者:下橋航大)の支援を受けて実施されました。
本論文は『東北大学2026年度APC支援事業』の支援を受けオープンアクセス出版されました。

  1. リアルタイム線量計:放射線量をその場で連続的に測定できる装置。従来の線量計と異なり、被ばく量の時間変化を秒単位で確認できる。 ↩︎
  2. OpenCV:OpenCV(Open Source Computer Vision Library)は、画像解析や映像解析を行うためのオープンソースのライブラリです。画像中の物体の位置や形状を認識・解析することができ、本研究では術者頭部と天井吊り下げ式防護板の位置関係を定量的に評価するために用いました。 ↩︎
  3. 散乱線:患者に当たったX線が周囲に跳ね返ることで発生する放射線。医療従事者の被ばくの主な原因となる。 ↩︎
  4. 受動型線量計:一定期間装着し、後から累積被ばく線量を測定する線量計。一般的な個人被ばく管理に使用される。 ↩︎
  5. シネ撮影:X線画像を連続撮影して動画として記録する方法。通常の透視より高線量となる場合が多い。 ↩︎
  6. バイプレーン装置:2方向からX線透視や撮影を行う血管撮影装置。異なる方向の画像を同時に取得できるため、心臓カテーテル治療などで広く用いられる。 ↩︎
論文情報

タイトル:Real-Time Evaluation of Operator Eye Lens Radiation Dose in Interventional Radiology: Effects of Protective Shield Position and X-ray Beam Angle
著者:Kodai Sagehashi, Masaki Fujisawa, Yoshihiro Haga, Toshiki Kato, Saki Takahira, Masahiro Sota, Yuji Kaga, Takeshi Arai, Norio Tada and Koichi Chida*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野/災害放射線医学分野 教授 千田 浩一(ちだ こういち)
掲載誌:Radiation physics and chemistry
DOI:10.1016/j.radphyschem.2026.114020
URL: https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2026.114020

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだ こういち)
TEL: 022-717-7943
Email: koichi.chida.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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