地方と都市の健康格差は疾患によって異なる-全国408万人データから地理的要因と社会経済的要因の関連を解明-
2026.7.21 Tue
研究発表のポイント
- 全国の市区町村ごとに約408万件の死亡データを分析した結果、所得や雇用などの社会経済的な地域格差を考慮しても、地方・都市部と死亡率との関連は死因によって異なることを明らかにしました。
- 心疾患や交通事故、自殺による死亡は地方でより多く、一方で結核や肺炎による死亡は都市部でより多いなど、地域の死亡率の違いは社会経済的な不利だけでは説明できないことが示されました。
- 研究成果より、地域ごとの健康課題を把握し、地域特性に応じた保健医療政策を検討するための基礎資料となることが期待されます。
概要
地方と都市部の健康格差は、交通の不便さなど地理的条件によるものなのか、それとも所得や雇用などの社会経済的格差によるものなのか、これまで十分に明らかにされていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の香田将英講師らの研究グループは、2017〜2019年の全国408万件の死亡データを市区町村ごとに分析しました。地理的条件を示す「へき地度」と地域の社会経済的な不利を示す指標を同時に考慮した結果、所得や雇用などの社会経済的な不利の影響を取り除いてもなお地方と都市部の死亡率の差は残り、どちらで死亡が多いかは死因によって異なることを明らかにしました。心疾患や交通事故、自殺は地方でより多く、結核や肺炎は都市部で死亡率比1が高いなど、死因によって傾向が異なることがわかりました。
本研究結果は、地域の健康格差が死因ごとに異なる傾向を示すことを全国規模で明らかにしたものであり、地域特性に応じた保健医療政策を検討するための基礎資料となることが期待されます。
本研究成果は7月1日、英医学誌BMJ Public Healthに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
地方と都市の健康格差について、その理由が病院までのアクセスなどの地理的な要因によるものなのか、所得や雇用などの社会経済的な要因によるものなのかは、これまで十分に明らかになっていませんでした。両者は重なり合って存在することが多く、どちらか一方だけを見た分析では、格差の実際の要因を正確に捉えられない可能性があります。これまで、日本でも人口密度や医師数を用いた研究はありましたが、山地や離島、豪雪地帯など日本特有の地理的条件を反映した「へき地度」の指標と、地域の社会経済的な不利を示す指標をあわせて、幅広い死因との関連を全国規模で検討した研究はありませんでした。そこで本研究は、この2つの指標を同時に測定し、影響を切り分けたうえで死因ごとの格差を調べました。
今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の香田将英(こうだ まさひで)講師らの研究グループは、厚生労働省の人口動態統計(2017〜2019年)や国勢調査などを用い、全国1,890市区町村の約408万件の死亡データを分析しました。地理的な「へき地度」を示す指標(日本版へき地度指標:RIJ2)と、地域の社会経済的な不利を示す指標(地域剥奪指標:ADI3)を同時に用い、統計モデル(空間ベイズポアソンモデル)で、全死因および34の死因別死亡率、あわせて35種類との関連を推定しました(図1)。2つの指標を同じ統計モデルで同時に扱うことで、社会経済的な不利の影響を取り除いたうえでなお残る、へき地度(地理的条件)に伴う死亡率の差を死因ごとに取り出せます。ここでいう死亡率比とは、全国共通の年齢・性別ごとの死亡率から見込まれる死亡数(期待死亡数)に対し、実際の死亡数が何倍だったかを、へき地度が高い地域と低い地域で比べた値です。なお、本リリースでは、へき地度が高い地域を「地方」、へき地度が低い地域を「都市部」と表現しています。
その結果、社会経済的な不利の影響を取り除いてもなお地方と都市部の死亡率の差は残り、どちらで死亡が多いかは死因によって異なることが明らかになりました。つまり、「地理的条件か、社会経済的格差か」という冒頭の問いに対する本研究の答えは、「社会経済的な格差だけでは説明できない、地理的条件に伴う格差が、死因ごとに異なる形で存在する」というものです。具体的には、交通事故、老衰、急性心筋梗塞をはじめとする14の死因で、地方ほど死亡率比が高いことがわかりました(図2)。一方、結核、喘息をはじめとする11の死因では、都市部の方が死亡率比が高いことがわかりました(図3)。全死因でみると、地方でわずかに死亡率比が高い結果でした。
今後の展開
この結果は、地方と都市部の健康格差を一律に捉えるのではなく、死因ごとの特徴を踏まえて理解する必要があることを示しています。そのうえで論文の考察では、急性心筋梗塞や脳梗塞のように治療までの時間が生死を分ける疾患では救急搬送体制や医療機関の連携強化が、結核や肺炎など都市部で死亡率比が高い死因では感染症対策や生活環境への対応が、それぞれ課題になりうると論じています。今後、死因ごとに異なる地域差が生じる背景要因を明らかにすることで、地域特性に応じた保健医療政策の検討につながることが期待されます。
学術的には、へき地度と地域の社会経済的な不利を同時に考慮したうえで、幅広い死因を全国規模で検討した研究は国内外でも少なく、地域と健康の関連を調べる今後の研究の土台となる成果です。社会的には、自治体が地域の実情に応じた保健医療政策を立てる際の基礎資料となることが期待されます。なお、本研究は市区町村単位のデータを用いた生態学的研究4であり、個人レベルの因果関係を直接示すものではありません。

全国約408万件の死亡データを、「へき地度」と「地域の社会経済的な不利」の2つの視点から分析し、死因ごとに地方と都市部の差を調べました。

所得や雇用など地域の社会経済的な不利を考慮しても、へき地度が高い地域(地方)で死亡率比が高かった死因を示しています。点が右にあるほど、地方で死亡が多いことを意味します(横線は推定の幅・95%信用区間)。

所得や雇用など地域の社会経済的な不利を考慮しても、都市部で死亡率比が高かった死因を示しています。点が1より左にあるほど、都市部で死亡が多いことを意味します(横線は推定の幅・95%信用区間)。
謝辞
本研究は、JSPS科研費(JP23K16359、JP24H00663)およびファイザーヘルスリサーチ振興財団(21-Y-04)の支援を受けて実施されました。
用語説明
- 死亡率比(Rate Ratio: RR):全国共通の年齢・性別ごとの死亡率をもとに市区町村ごとに算出した「期待される死亡数」に対し、実際の死亡数が何倍だったか(標準化死亡比)を表す統計量を、へき地度指標が1標準偏差高い地域と低い地域で比較したもの。 ↩︎
- 日本版へき地度指標(Rurality Index for Japan: RIJ):人口密度、二次・三次医療機関までの距離、離島、豪雪地帯指定を組み込んだ、日本の地理的特性に合わせた市区町村のへき地度の指標(1–100、高いほどへき地度が高い)。厚生労働省の医師確保計画の議論でも参照されている。 ↩︎
- 地域剥奪指標(Area Deprivation Index: ADI):世帯構成・住宅・就労状況に関する国勢調査の8変数から算出される、地域の社会経済的不利の指標。 ↩︎
- 生態学的研究:個人ではなく地域(本研究では市区町村)を単位として、曝露と健康状態との関連を分析する研究デザイン。 ↩︎
論文情報
タイトル:Association of municipal rurality and area deprivation with cause-specific mortality in Japan: a nationwide ecological study
著者:Masahide Koda*, Nahoko Harada, Shuhei Nomura, Yusuke Tsugawa
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生学分野
講師 香田 将英(こうだ まさひで)
掲載誌:BMJ Public Health
DOI:10.1136/bmjph-2026-004913
URL:https://doi.org/10.1136/bmjph-2026-004913
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
公衆衛生学分野
講師 香田 将英(こうだ まさひで)
TEL: 022-717-8123
Email: masahide.koda.b1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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