TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

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「口の健康」は指先の微小血管とつながっている?―口腔機能と指先毛細血管の関連性を初めて示唆―

発表のポイント
  • 口腔機能と全身の健康との関わりは注目されているものの、指先の微小循環(毛細血管)に与える具体的な影響については十分に解明されていませんでした。
  • 本研究により、現在残っている歯の数(残存歯数)や口の潤いが、指先の毛細血管の状態との関連を示す新たな知見が得られました。
  • 本研究成果は、歯科的なアプローチを通じて全身の血管健康や体内水分バランスの異変を早期に察知する、新たなスクリーニング1手法の確立につながることが期待されます。
概要

近年、口の機能が衰える「オーラルフレイル」が、全身の健康悪化や要介護リスクと深く関わっていることが注目されています。しかし、その全身の微小循環(毛細血管)への具体的な影響は十分に解明されていませんでした。
東北大学大学院歯学研究科の三浦響子大学院生(研究当時)、長﨑敦洋助教、江草宏教授らの研究グループは、同大学院医学系研究科の中澤徹教授との共同研究により、「口の機能」と「指先の毛細血管」の間に潜在的な関連性があることを発見しました。これにより、歯周病(歯ぐきの炎症)が指先の血管に影響を及ぼしている可能性や、体内の水分バランスが口の渇きと指先の血管の形状の両方に現れているというメカニズムが推測されます。
本研究成果は、口腔機能が全身の健康状態を反映するシンプルな指標となり得る可能性を示したものです。将来的に、全身の血管健康や体内水分バランスの異変を早期に察知する新たなスクリーニング手法への応用や、次世代のヘルスケア医療への発展が期待されます。
本研究成果は、2026年7月13日に科学誌Scientific Reportsのオンライン版に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
日本は超高齢社会を迎え、健康寿命の延伸が喫緊の課題です。その中で、噛む・飲み込む・話すといった口の機能がわずかに低下する「オーラルフレイル」の予防が進められています。一方、指の爪の根元にある爪床毛細血管2は、専用の顕微鏡(毛細血管スコープ:図1)で採血することなく血流や血管の形を簡単に観察できるため、生活習慣の乱れや全身の血管の健康状態を映し出す鏡として注目されていました。しかし、これまで「口の機能」と「指先の毛細血管」の関係は詳しく分かっていませんでした。

今回の取り組み
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野の三浦響子大学院生(研究当時)、長﨑敦洋助教、江草宏教授らの研究グループは、同大学院医学系研究科 眼科学分野の中澤徹教授との共同研究により、2022年3月から2025年3月にかけ、文部科学省・科学技術振興機構(JST)が推進する共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)3の一つである、東北大学COI-NEXT「みえる」からはじまる、人のつながりと自己実現を支えるエンパワーメント社会共創拠点4(設置責任者:遠山毅産学連携担当理事、プロジェクトリーダー:中澤徹)が運営する、東北大学病院疾患ヘルスケアコホートセンター5の利用者を中心とした311名(平均年齢約55.7歳)を対象に調査を行いました。
歯科医師による舌圧測定器や口腔水分計(図2)を用いた専門的な口腔検査(残存歯数、舌圧6、口腔粘膜の湿潤度)と、指先の毛細血管パラメータ(本数、長さ、太さ、濁り度)の相関関係を統計的に分析したところ、残っている歯の数が多い人ほど、指先の毛細血管の本数が多い傾向がありました[回帰係数0.027, 95%信頼区間 (0.0027, 0.050)]。残っている歯を支える歯ぐきが歯周病に罹患していると、全身の血管に炎症性物質を巡らせて血管にダメージを与えることが知られており、これが指先の毛細血管の本数にも影響している可能性が考えられます。
一方、口の中の湿潤度が高い人ほど、指先の毛細血管の幅が細くなり[回帰係数 −0.32, 95%信頼区間(−0.59,−0.055)]、画像が濁る(不鮮明になる)[回帰係数 −0.0064, 95%信頼区間 (−0.013,−0.000038)]傾向がありました。過去の研究から、口の潤いは体内の水分量(脱水状態など)を反映することが分かっています。また、毛細血管の濁りや毛細血管の太さの減少は、血管のまわりのむくみ(組織液の停滞)を示すとされ、「体内の水分バランスの変動が、口の中の湿潤度と指先の血管の見た目の両方に現れている」という共通のメカニズムが推測されます。

今後の展開
研究は横断研究であり、因果関係を完全に証明したものではありません。また、効果の大きさ(影響度)はわずかなものであり、健康な人における繊細な身体の変化を捉えたものです。今後は、血液検査やさらに詳細な体内水分量の測定を組み合わせることで、口の健康維持がどのように全身の微小循環(血管の健康)を守るのか、その具体的な仕組みを解明していく予定です。将来的には、歯科医院での簡単な口の検査が、全身の血管や体液バランスの異変を早期に察知するシステムにつながることが期待されます。

図1. 毛細血管スコープ(あっと株式会社)を用いた毛細血管の血流や血管の形観察
図2. (左)舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いた舌圧測定と、(右)口腔水分計(株式会社ライフ)を用いた湿潤状態の計測
謝辞

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2201)の支援により行われました。

用語説明
  1. スクリーニング:集団の中から特定の病気の疑いがある人や健康リスクの高い人を、簡易的な検査で選別(ふるい分け)すること。精密検査に進む前段階の、予防的で手軽な評価手法を指す。 ↩︎
  2. 爪床(そうしょう)毛細血管:爪の根元(甘皮の下)にある毛細血管。体表から最も観察しやすく、血管のループ(形状)が水平に走っているため、顕微鏡を用いて非侵襲(体を傷つけない方法)で微小循環の状態を評価できる場所として知られている。 ↩︎
  3. 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT):文部科学省・科学技術振興機構(JST)が推進する、大学等が中心となって未来のあるべき社会像(ビジョン)を策定し、その実現に向けた研究開発を推進するバックキャスト型産学官共創プログラム。 ↩︎
  4. 東北大学COI-NEXT「みえる」からはじまる、人のつながりと自己実現を支えるエンパワーメント社会共創拠点:「誰もが人生のどのステージでも、共に暮らし、働き、遊べることで、主体的に生き生きと暮らせる社会」の実現のため、世界でも類のない「みえる」からはじまるエンパワーメントを特徴とした学際的なアプローチで、グローバルな社会課題を世界に先駆けて解決し、社会変革を推進するための産学連携拠点。JSTの推進するCOI-NEXTの一つ。 ↩︎
  5. 東北大学病院疾患ヘルスケアコホートセンター:診療科横断的に東北大学病院の患者さんの感覚器および認知機能、日常生理検査データを収集するために設置されたセンター。 ↩︎
  6. 舌圧(ぜつあつ):食べ物を押し潰して飲み込む際に、舌と上あご(硬口蓋)の間にかかる圧力のこと。オーラルフレイルや口腔機能低下症の診断において、舌の筋力や運動機能を評価する重要な指標となる。 ↩︎
論文情報

タイトル:Exploratory study on the association between oral functions and nailfold capillary parameters
著者:Kyoko Miura-Sugano, Atsuhiro Nagasaki*, Hiroshi Kunikata, Taro Kusama, Mitsuhide Yoshida, Wakana Iijima, Satoru Tsuda, Noriko Himori, Akiko Hanyuda, Akio Harada, Toru Nakazawa, Hiroshi Egusa*
*責任著者:
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野 助教 長﨑 敦洋
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野 教授 江草 宏
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-61966-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-61966-w

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
分子・再生歯科補綴学分野
助教 長﨑 敦洋(ながさき あつひろ)
TEL: 022-717-8363
Email: atsuhiro.nagasaki.a5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院歯学研究科
分子・再生歯科補綴学分野
教授 江草 宏(えぐさ ひろし)
TEL: 022-717-8363
Email: egu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
広報室
TEL: 022-717-8260
Email: den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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