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腎臓病により変性した細胞の修復をマウスの実験で確認―腎臓病の治療戦略に新たな道筋―

発表のポイント
  • 腎臓病は、多様で複雑な病態を示しますが、ほとんどの腎臓病で腎臓の「線維化1」が生じることに着目し、線維化を抑制する薬剤を発見しました。
  • この薬剤は、腎臓の線維化を促進する筋線維芽細胞2の遺伝子を制御することにより、筋線維芽細胞を鎮静化し、線維化を抑制します。
  • マウスの実験から、線維化を抑制することによって腎臓の機能が回復することがわかり、腎臓病の新たな治療戦略として、筋線維芽細胞への介入が有効であることを示しました。
概要

現在、国内の成人の5人に1人が腎臓病を発症しているといわれていますが、腎臓病は病態が複雑なため、効果的な治療法の開発が遅れています。
東北大学病院 石岡広崇 助教と東北大学未来科学技術共同研究センターの鈴木教郎教授らの研究グループは、腎臓病の進行に伴って、腎臓内の「線維芽細胞3」が変性し、「筋線維芽細胞」となって腎臓を「線維化」させ、病態が悪化することを2013年に発見しました(参考論文1)。この研究成果をもとに今回さらに研究を進めたところ、筋線維芽細胞に線維芽細胞の性質を回復させる薬剤を探し出すことに成功しました。また、この薬剤を腎臓病を患ったマウスに投与すると、線維化が軽減されたうえに、腎臓の他の細胞の性状も改善することを確認しました。本研究成果によって、腎臓病に対する根本的な薬剤治療法の開発に新たな道筋が示されました。
本研究成果は、2026年7月20日に生命科学の国際学術誌Life Sciencesのオンライン版で公開されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
腎臓は血液中の老廃物を尿中に排出する役割を担っているため、腎臓病が進行すると透析による血液の浄化や健康な腎臓の移植が必要になります。腎臓病は、糖尿病や高血圧などの様々な原因によって発症し、多様で複雑な病態を示します。そのため、腎臓病の病態理解が難航しており、腎臓病を根本的に治す医療技術は確立されていません。腎臓病の患者数は世界人口の14%を超えており、血液透析や腎臓移植は高額であることから、腎臓病患者数の増加は国際的な社会問題にもなっています。
腎臓病は、病態が慢性化すると共通して「線維化」が生じ、腎臓病の悪化と同調して線維化も進行します。したがって、線維化を抑制することができれば、腎臓病の治療が可能となると考えられています。線維化は、損傷を受けた部位に「筋線維芽細胞」が出現し、コラーゲンなどの線維成分を蓄積させることにより臓器を硬化させる病態で、腎臓以外の臓器にも認められます。本研究グループは、腎臓の損傷による炎症状態が、腎臓の「線維芽細胞」を筋線維芽細胞へと変性させることにより、腎臓が線維化することを2013年に明らかにしました(参考論文1)。また同時に、炎症状態の改善によって筋線維芽細胞が線維芽細胞の性質を回復することを発見し、腎臓線維化が治療可能であることを提唱しました。
そこで本研究では、腎臓線維化ひいては腎臓病本体に対する効果的な治療法の開発を目指し、腎臓病によって活性化した筋線維芽細胞が元の線維芽細胞の性質を回復するしくみの解明に挑みました。

研究の内容
研究グループでは、腎臓線維化のしくみを解明するために、マウスの腎臓から線維芽細胞を採取し、筋線維芽細胞の研究用細胞株4を樹立しました。この細胞に様々な薬剤を反応させたところ、「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)5」を阻害する一連の薬剤が、筋線維芽細胞に線維芽細胞の性質を回復させる活性を持つことが判明しました(図1)。また、一部の筋線維芽細胞では細胞死が引き起こされました。そこで、筋線維芽細胞内のHDACの量を減らしたところ、筋線維芽細胞のコラーゲンをつくる能力が10分の1低下し、線維芽細胞の性質に近づいたことが確認されました。
また、腎臓病患者の尿から採取した細胞6を用いた実験からも、HDAC阻害剤によって筋線維芽細胞が線維芽細胞の性質を回復することがわかりました。さらに、腎臓病のマウスにHDAC阻害剤を投与したところ、線維化が軽減されただけでなく、腎臓の尿を生成する器官である尿細管へのダメージが半減し、腎臓全体の病変が改善されました(図2)。以上の結果から、腎臓病におけるHDACの阻害は、変性した線維芽細胞の性質を回復させ、腎臓の線維化と機能障害を軽減することが示されました。

今後の展開
腎臓病の患者数は増加し続けており、国民医療費の点から社会問題にも影響を及ぼしているため、治療法開発は喫緊の課題です。今回、HDAC阻害剤が筋線維芽細胞に作用し、線維化を抑制することにより、腎臓病を緩和できる可能性が示されました。HDAC阻害剤は、すでに悪性腫瘍の治療に使われていますが、今後、腎臓病に対する効果の検証が期待されます。一方、HDAC阻害剤の作用機序は不明であり、マウスの実験では薬剤毒性も確認されています。研究グループでは、HDAC阻害が筋線維芽細胞の線維芽細胞の性質を回復するしくみを理解し、より安全で効果的な腎臓線維化治療薬を探索する研究開発を進めています。

図1. 腎臓病によって線維芽細胞が筋線維芽細胞に変性し、線維化が進行する。HDAC阻害剤によって筋線維芽細胞が線維芽細胞の性質を回復し、線維化が収束するとともに、腎臓全体の障害も軽減されることが明らかとなった。


図2. マウスの腎臓病に対するHDAC阻害剤の作用 
腎臓病を患ったマウスにHDAC阻害剤を投与すると、腎臓の線維化が抑制されるとともに、尿細管の障害が緩和し(赤い部分)、腎臓全体の萎縮も軽減した。
謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(23KK0137、25H01437、26K02204)の支援を受けて行われました。また論文掲載料は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」より支払われました。

用語説明
  1. 線維化:臓器の損傷を受けた部位にコラーゲンなどの線維成分が蓄積し、臓器が硬くなる状態を線維化と呼びます。腎臓以外でも、ほとんどの臓器で認められ、線維化が進むと、臓器の構造が破壊され、本来の機能を保ちにくくなります。 ↩︎
  2. 筋線維芽細胞:線維化部位に出現し、線維成分を多量に産生する細胞です。腎臓病では、もともと腎臓にある線維芽細胞が筋線維芽細胞に変化し、線維化を進めます。 ↩︎
  3. 線維芽細胞:ほとんどの臓器に存在し、臓器の構造を支える細胞です。腎臓には、尿を生成する尿細管と血管が複雑に絡み合っていますが、それらの隙間を埋めるように線維芽細胞が存在します。 ↩︎
  4. 細胞株:細胞研究に使うために、ヒトや動物のからだから採取した1個の細胞を実験室で安定して長期間増やせるようにした細胞です。本研究では、マウスの腎臓から採取した細胞株の解析を行いました。 ↩︎
  5. ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC):ひとつ1つの細胞では、1 m 以上の長大なDNAが「ヒストン」というタンパク質によって小さく折りたたまれて、10 µm 以下の球状の核の中に収納されています。ヒストンは様々な化学修飾を受けることにより、遺伝子の使われ方を調節しています。ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)はヒストンに結合したアセチル基(アセチル化修飾)を取り除く酵素です。 ↩︎
  6. 腎臓病患者の尿から採取した細胞:腎臓は病気になると脆くなり、細胞がはがれ落ちることがあります。腎臓は膀胱と尿路でつながっているため、腎臓病患者の尿には、はがれ落ちた腎臓の細胞が含まれており、針を刺したりせずに、病気の腎臓の細胞を採取し、培養したりして実験に使うことができます。 ↩︎
参考論文

1.Souma T, Yamazaki S, Moriguchi T, Suzuki N, Hirano I, Pan X, Minegishi N, Abe M, Kiyomoto H, Ito S, Yamamoto M.  “Plasticity of renal erythropoietin-producing cells governs fibrosis” J Am Soc Nephrol 24(10), 1599–1616, 2013.  
 DOI: 10.1681/ASN.2013010030
(2013年7月8日プレスリリース「腎臓病の悪化を促す細胞を特定」
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2013/07/press20130705-03.html)

論文情報

タイトル:Histone deacetylase inhibition ameliorates kidney injury by restoring fibroblast features to myofibroblasts
ヒストン脱アセチル化酵素の阻害は、筋線維芽細胞の線維芽細胞様特性を回復させることで腎障害を軽減する
著者: Hirotaka Ishioka, Yuma Iwamura, Yusuke Konta, Koji Sato, Koichiro Kato, Tetsuhiro Tanaka, Taku Nakai, Norio Suzuki
石岡広崇、岩村悠真、今田悠介、佐藤浩司、加藤幸一郎、田中哲洋、中井琢、鈴木教郎*
*責任著者:東北大学 未来科学技術共同研究センター 
教授 鈴木 教郎(すずき のりお)
掲載誌:Life Sciences (Elsevier)
DOI:10.1016/j.lfs.2026.124599
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002432052600408X

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 未来科学技術共同研究センター
教授 鈴木 教郎(すずき のりお)
TEL: 022-717-8206
Email: norio.suzuki.c8*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 未来科学技術共同研究センター 広報
TEL: 022-795-4004
Email: niche-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

関連資料
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