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心的外傷後ストレス反応の実態を解明 -被災後1年間の心理的変化が15年後の症状と関連-

発表のポイント
  • 東日本大震災で大規模半壊以上の家屋被災にあった被災者のコミュニティを対象とした15年間にわたる追跡調査により、発災15年後も14.7%が、臨床的に有意な心的外傷後ストレス反応(PTSR)1を抱えていることを世界で初めて明らかにした。
  • 発災1~2年目の症状悪化が、15年後のPTSRの持続リスクを約5.3倍に高めることを明らかにした。
  • 初期のPTSR症状からの変化を継続的に見守ることが、長期的な心のケアに重要であることを明らかにした。
概要

大規模災害後の心的外傷後ストレス反応(Posttraumatic Stress Reactions: PTSR)の長期的な経過は多様であり、将来的に慢性的な症状に苦しむ方を早期に見出して適切なサポートを届けることは、公衆衛生上の大きな課題です。被災初期の症状の変化が人により異なることは知られていましたが、その変化と10年以上の長期的な予後との関連については十分に解明されていません。
東北大学大学院医学系研究科の李雪助教、富田博秋教授らの研究グループは、東日本大震災で大規模半壊以上の家屋被害を受けたコミュニティの住民を対象に、15年間にわたる前例のない大規模な追跡調査を実施しました。その結果、発災後15年を経た時点で1,291名の対象者のうち14.7%の人が臨床的に有意なPTSRを抱えていることが明らかになりました。さらに、発災直後から1〜2年目にPTSRの悪化を経験することは、15年後に一定以上のPTSRを残すリスクを約5.3倍に高める予測因子となり得ることが分かりました。
これらの知見は、大規模災害後の心のケアにおいて、被災直後の横断的なスクリーニングにとどまらず、発災初期の症状の変化を継続的に見守り寄り添うアプローチが、精神的なダメージが長期化するリスクを減らし、適切な支援を届ける上で重要であることを示唆しています。
本成果は2026年8月14日にJAMA Network Open誌に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
2011年の東日本大震災から15年が経過しましたが、この未曾有の複合災害が残した長期的な心理的影響は、現在も重要な公衆衛生上の懸念事項です。現在、被災地では震災後の重点的な支援体制から、恒常的な平時の地域精神保健福祉体制へと推移する大きな転換期を迎えています。
一方、大規模災害後の心的外傷後ストレス反応(Posttraumatic Stress Reactions: PTSR)の回復の軌跡は人によって大きく異なり、災害を含む心的外傷体験の影響は数十年に及ぶことが知られていますが、その詳細な実態については十分に明らかになっていません。
これまで、被災者のメンタルヘルスケアにおいては発災後の単一時点でのメンタルヘルスの状態が支援の主な指標として用いられてきましたが、それでは複雑な経時的変化を捉えきれないという限界がありました。とくに、発災数年という長期的な予後に対して、初期の状態がどのように長期に渡る変化に影響するのかを高い解像度で追跡するデータはこれまでほとんど存在しませんでした。地域社会の支援体制が復興期から平時へと移行していく現在において、被災直後からの経時的な心理的変化を踏まえて長期的なリスクを把握することは、将来にわたる適切な見守りと地域メンタルヘルス支援のプラットフォームを構築するうえで重要と考えられます。

今回の取り組み
東北大学は東日本大震災の発生直後から宮城県七ヶ浜町において急性期の精神保健支援を開始しました。その後も同町と連携し、単にデータを収集するだけでなく、健康教室やハイリスク者への個別訪問といった実際のケア活動と、毎年の健康状態の評価を組み合わせた「七ヶ浜町健康増進プロジェクト」を長期にわたって継続してきました。
東北大学大学院医学系研究科の李雪(り せつ)助教、同大学災害科学国際研究所の臼倉瞳(うすくら ひとみ)助教(現・東北学院大学)、同大学院医学系研究科の富田博秋(とみた ひろあき)教授(東北メディカル・メガバンク機構、災害科学国際研究所 兼務)らの研究グループは、この長期間の支援と見守りの枠組みの中で蓄積されたデータを用い、同町において「大規模半壊」以上の家屋被害認定を受けた住民1,291名を対象とした15年に及ぶ前向き縦断コホート調査2のデータを解析しました。
これにより、調査対象者のうち14.7%が、15年後においても臨床的に有意な水準の深刻なPTSRを抱え続けているという事実が明らかになりました。これは、大規模半壊以上の住居被害を経験した集団においては、10年以上の時を経てもなお、1割以上の人々に一定以上の心的外傷後ストレス反応が残存していることを示し、長期的なケアと見守りの必要性を示すものです。
被災から15年間のPTSRの推移を、改訂出来事インパクト尺度(IES-R)3により評価・分析した結果、対象者の症状経過は大きく5つの軌跡(トラジェクトリ)4に分類されることがわかりました。具体的には、震災後15年の経過を通して常に症状が低く保たれる「レジリエント型(resistant type: 38.8%)」5、一定の症状はあるが閾値下にとどまる「閾値下推移型(subthreshold type: 18.6%)」、初期に高い症状を示すが顕著に改善する「回復型(recovery type: 17.4%)」に加え、中等度の症状が続く「中等度持続型(moderately sustained type: 21.2%)」、そして慢性的に高い症状が続く「重度持続型(severely sustained type: 4.0%)」が存在しました(図1)。
さらに、症状が長期的に持続してしまうリスクを早期に見極めるための分析を行ったところ、発災1年目から2年目にかけての症状の悪化(エスカレーション)が最も頻繁に発生しており、かつこれが15年後の症状持続を予測し得る独立した因子であることが特定されました。また、初期に症状が悪化するパターンを示したグループは、初期に症状が持続しなかったグループと比較して、15年後の深刻なPTSRのオッズ比が5.31倍という結果が示されました。これは、発災直後の単発の症状の有無だけでなく、その後の初期段階で「症状がどのように推移しているか」に注目することが、将来の長期的なリスクを把握し、必要な支援を届ける上で極めて重要であることを示しています。

今後の展開
本研究は、大規模半壊以上の被災コミュニティの15年間にわたる悉皆的6な追跡調査から、震災に対する初期のPTSRの経過が15年後のPTSR予後と強く相関することを世界で初めて立証しました。
震災から15年が経過しても1割以上の人々がPTSRを抱えているという事実は、災害精神医療において長期的な支援体制の維持が不可欠であることを示しています。また、支援の現場においては、被災直後に単一時点での症状の有無を確認するだけでなく、最初の1〜2年間に症状が悪化傾向にないかを継続的に見守り、寄り添うことが、将来の慢性化リスクを抱える方を早期に発見し、必要な支援を切れ目なく届けるためのカギとなることを示唆しています。

図1. 東日本大震災被災者における心的外傷後ストレス反応の15年間の推移(5つの軌跡)
宮城県七ヶ浜町で大規模半壊以上の家屋被害を受けた住民1,291名を対象とした分析。縦軸は各群の心的外傷後ストレス反応を評価する指標(IES-R)の平均スコアを示す。発災初期(1~2年目)に分かれた5つの症状パターンは、その後15年間にわたり概ね交差することなく、安定して推移していることがわかる。
用語説明
  1. 心的外傷後ストレス反応(PTSR:Posttraumatic Stress Reactions):災害や事故などの命に関わるような恐ろしい出来事(心的外傷、トラウマ)を経験した後に生じる、フラッシュバック(辛い記憶が突然まざまざと蘇る)、回避(出来事を思い出す場所や状況を避ける)、過覚醒(不眠やイライラなど神経が高ぶる)といった心身のストレス反応のことです。これが長期化し生活に支障をきたす場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という疾患に至ることがあります。 ↩︎
  2. 前向き縦断コホート調査:特定の条件を満たす集団(コホート)を対象に、ある時点から未来に向かって前向きに長期間にわたり繰り返して、縦断的にデータを収集し、要因と結果の関連を調べる研究手法です。災害後の時間の経過に伴う心身の変化を正確に捉えるのに適しています。 ↩︎
  3. 改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale – Revised: IES-R):心的外傷となる出来事の後に生じるストレス症状の重症度を測るために、国際的に広く用いられている自記式の心理検査です。全22項目の質問があり、それぞれの症状がこの1週間でどの程度あったかを0点(全くない)から4点(非常にある)までの5段階で回答し、その合計点(0〜88点)で重症度を評価し、総得点がカットオフの25点以上の場合を臨床的に有意な一定以上の心的外傷後ストレス反応がある状態として評価されます。 ↩︎
  4. トラジェクトリ(Trajectory):物事が時間とともに変化していく軌跡や推移のパターンを指します。本研究では、個々人の15年間の症状の変化を統計学的に分析(グループベースのトラジェクトリ・モデリング)し、似たような変化の経過をたどる人々を5つのグループに分類しています。 ↩︎
  5. レジリエンス(レジリエント):困難や強いストレスに直面しても、それを跳ね返し、しなやかに適応・回復する心理的な力や状態のことです。本研究のレジリエント型は、大震災という強いストレスを経験しながらも、長期にわたり心的外傷後ストレス反応の程度が低い状態に保たれているグループを指します。 ↩︎
  6. 悉皆的(しっかいてき):調査対象となる条件に当てはまる集団の一部を抜き出して調べるのではなく、対象者全員を漏れなく調査の対象とすることです。本研究では宮城県七ヶ浜町で一定以上の家屋被害を受けた住民全体を対象としており、一部の人に偏らない信頼性の高いデータとなっています。 ↩︎
謝辞

本プロジェクトにご理解とご協力をいただき、長年にわたり調査にご参加くださった七ヶ浜町の住民の皆様、ならびに多大なるご支援を賜りました七ヶ浜町役場の皆様に深く感謝申し上げます。
なお、本研究は、復興庁、文部科学省、日本医療研究開発機構(AMED)、厚生労働省、宮城県、および東北大学災害科学国際研究所などの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル:Posttraumatic Stress Dynamics and 15-Year Persistence in Great East Japan Earthquake Survivors
著者:Xue Li, Hitomi Usukura, Yusuke Utsumi, Moe Seto, Atsushi Sakuma, Kazuho Tomimoto, Terufumi Machida, Yumiko Hamaie, Natsuko Kobayashi, Hiroshi Komatsu, Saya Kikuchi, Shinichi Kuriyama, Naoki Nakaya, Atsushi Hozawa, Yasuto Kunii, Hiroaki Tomita
掲載誌:JAMA Network Open 
*責任著者:Hiroaki Tomita
掲載誌年巻(号) 頁: JAMA Network Open 2026; 9(8): e2629441
DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2026.29441

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野
リエゾン精神医学推進地域連携寄付講座
東北大学病院精神科
東北メディカル・メガバンク機構
災害精神医学分野(兼務)
東北大学災害科学国際研究所
災害精神医学分野(兼務)
教授 富田 博秋(とみた ひろあき)
TEL: 022-717-7262
Email: psy*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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