TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

東北大学医療系メディア「ライフ」ニュースルーム

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

小児期の性的虐待経験、成人後の医療受診の見送り・延期と関連 ―全国2.8万人調査、受診見送りとの関連は都市部でより強い―

発表のポイント
  • 全国の18〜79歳27,699人を分析し、小児期に性的虐待を経験したと回答した人は、経験がないと回答した人に比べ予定していた医療機関への受診を見送った人や、入院・手術などを延期した人が多くみられました。
  • 年齢、性別、所得、学歴、小児期のその他の逆境体験などの違いを統計的に調整した後も、小児期の性的虐待経験は、手術の延期や予定していた受診の見送りと関連していました。
  • 小児期の性的虐待経験と予定していた受診を見送ることとの関連は、地方より都市部で強く、医療機関が多い地域でも、必要な受診を続けられない人がいる可能性があります。
概要

小児期(18歳になる前)の性的虐待経験は、成人後の心身の健康に加え、必要な医療を受け続けられないこととも関連する可能性があります。しかし、予定した受診の中断や治療の延期、普段受診する決まった医療機関の有無を全国規模で調べた研究は限られていました。
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の香田将英講師、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の今西洋介氏らの研究グループは、全国インターネット調査JACSIS20231に参加した18〜79歳27,699人を分析しました。このうち、小児期に性的虐待を経験したと回答した人は2,567人(9.3%)でした。この群では、経験がないと回答した群に比べ、予定していた受診を見送る、急な受診ができない、入院、手術、手術以外の治療を延期する、普段受診する決まった医療機関がないなどの医療アクセス上の困難が多くみられました。また、予定していた受診を見送ることとの関連は、都市部でより強くみられました。本研究の結果から、医療アクセスを考える際には、医療機関の数や距離だけでなく、患者が継続して相談できる環境の整備を検討する必要性が示唆されました。こうした環境の整備は、トラウマインフォームドケア2として知られる考え方の実践にあたります。本研究成果は2026年7月24日、学術誌International Journal for Equity in Healthにオンライン公開されました。

詳細な説明

研究の背景
小児期の性的虐待は、成人後の心身の健康や社会生活とも長期的に関連することが報告されています。診察や身体への接触によって過去の経験を思い出す不安、羞恥心、医療者への不信、費用や仕事・育児の制約などが重なり、受診を避けたり治療を続けにくくなったりする可能性があります。
また、地方では医師不足や移動距離、選べる医療機関の少なさが受診の障壁となり得ます。一方、都市部では医療機関が多くても、患者数が多く診療時間が短い環境では、安心感や信頼関係を築くための時間を確保しにくい可能性があります。小児期に性的虐待を経験した人の医療アクセスが都市部と地方でどのように異なるかは、これまで十分に分かっていませんでした。

今回の取り組み
研究グループは、2023年9月25日から11月17日に全国47都道府県で行われたJACSIS2023のデータを用いました。回答の質に関する基準や対象年齢に基づき、18〜79歳の27,699人を解析しました。小児期の性的虐待経験や、18歳になる前の望まない性的接触や性行為の強要などについて、行動を具体的に尋ねる項目と直接質問を組み合わせて調査しました。
医療アクセスについては、直近2か月に、予定していた外来受診を見送った、急な受診ができなかった、入院、手術、手術以外の治療が延期または中止になった、という5項目を調べました。これに、普段受診する決まった医療機関がないことと、対象となる健診、歯科受診、がん検診のいずれかを受けていないことを加えました。年齢、性別、婚姻、所得、学歴、就労、同居、小児期のその他8種類の逆境体験の違いを、逆確率重み付け3で調整しました。
その結果、小児期に性的虐待を経験したと回答した群では、経験がないと回答した群に比べ、予定していた受診を見送った人が16.7%対10.2%、急な受診ができなかった人が14.3%対6.6%、入院の延期が5.6%対1.8%、手術の延期が6.8%対1.8%、手術以外の治療の延期が6.4%対2.1%でした。普段受診する決まった医療機関がない人も61.3%対49.2%でした。統計的に調整した後、各項目のオッズ4は1.67〜4.01倍でした(図1)。一方、対象となる予防的な健診・検診等を受けていない割合は、両群でほぼ同程度でした(78.5%対79.8%)。統計的に調整した後も明確な差はみられませんでした(調整オッズ比0.92、95%信頼区間0.83〜1.02)。
都市・地方別にみると5、予定していた受診を見送ることとの関連は、都市部で調整オッズ比1.97(95%信頼区間1.64〜2.37)、地方で1.44(同1.12〜1.85)で、関連の強さに統計学的な差がみられました(交互作用p=0.04、図2)。

今後の展開
今回、予定していた受診を見送ることとの関連が都市部でより強かったことから、医療アクセスを考える際には、医療機関の数や距離に加え、患者が安心して相談できるか、同じ医療者との関係を続けられるかを確認する必要性が示唆されました。診療では、内容を事前に説明して患者の同意を確かめ、患者が希望すれば中断できることを伝えるとともに、継続して相談できる担当者を明確にすることが重要と考えられます。特に患者数の多い都市部の外来では、受診前後の案内やケアナビゲーションを整え、患者が不安や希望を伝えるための時間をどう確保するかが検討課題です。
なお、本研究は一時点の情報を用いた横断研究であり、因果関係や出来事の時間的な順序を確定できません。小児期の経験と医療アクセスはいずれも本人の振り返りによる回答であり、過少報告や記憶の影響を受ける可能性があります。また、インターネット調査の参加者が日本全体を完全に代表するとは限らず、調整していない要因の影響も残り得ます。加えて、受診できなかった具体的な理由は区別できず、都市・地方の分類も都道府県単位です。
今後は、時間を追って受診行動を調べ、市区町村単位の地域情報を用いて都市・地方差を再検証するとともに、トラウマインフォームドケアやケアナビゲーションを導入した場合に受診の中断や治療延期が減るかを評価することが次の課題です。

図1. 小児期の性的虐待経験と医療アクセス上の困難
年齢、性別、所得、小児期のその他の逆境体験などの違いを統計的にそろえた調整オッズ比です。点が1より右にあるほど、経験がない群に比べて各項目のオッズが高いことを示します。横線は95%信頼区間です。予防的な健診・検診等の未受診だけは明確な差がありませんでした。
図2. 予定していた受診を見送ることとの関連:都市部と地方の比較
小児期の性的虐待経験がない群と比べた調整オッズ比です。都市部と地方のどちらでも関連がみられ、都市部でより強くみられました(交互作用p=0.04)。横線は95%信頼区間です。
謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP21H04856、JP22K18566)、JST(JPMJSC21U6)、国立環境研究所所内研究費、自殺対策推進研究プログラム(R3-2-2)、厚生労働科学研究費補助金(23GC1019)、Ready for COVID-19 Relief Fund(第5期第2ターム001)の支援を受けて実施されました。
本論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています(DOI:10.1186/s12939-026-02957-1)。

用語説明
  1. JACSIS2023:「日本における新型コロナウイルス問題と社会全般に関する全国調査(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)」の2023年調査。全国47都道府県のインターネット調査パネルを対象に実施された。 ↩︎
  2. トラウマインフォームドケア:過去のトラウマ体験が心身や受診行動に影響し得ることを前提に、安全、信頼、本人の選択と同意を重視して支援や診療を行う考え方。 ↩︎
  3. 逆確率重み付け(IPTW):比較する2群の年齢、性別、社会経済状況、小児期のその他の経験などが近くなるよう、回答者ごとに統計的な重みを付けて関連を推定する方法。 ↩︎
  4. 調整オッズ比と95%信頼区間:調整オッズ比は、他の要因の違いを統計的に考慮した後、ある出来事が起こるオッズを2群で比べた値。1より大きいと経験群でオッズが高い。95%信頼区間は推定の不確実性を示し、区間が1をまたぐ場合は明確な差があるとはいえない。 ↩︎
  5. 都市・地方の分類:総務省統計局の大都市圏の考え方を参考に、調査で利用できる都道府県情報から、北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県を都市部、その他を地方とした便宜的な分類。 ↩︎
論文情報

タイトル:Urban and rural differences in healthcare access among survivors of child sexual abuse: a nationwide survey
著者:Yousuke Imanishi*, Masahide Koda*, Maria Iorini, Ichiro Wada, Sinchul Jwa, Takahiro Tabuchi, Mai Uchida(*共同責任著者)
掲載誌:International Journal for Equity in Health
DOI:10.1186/s12939-026-02957-1
URL:https://doi.org/10.1186/s12939-026-02957-1

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生学分野
講師 香田 将英(こうだ まさひで)
TEL:  022-717-8123
Email: masahide.koda.b1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

関連資料
プレスリリース資料(PDF)
関連リンク
公衆衛生学分野