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心房細動治療後の心機能改善を予測する 新たなバイオマーカー候補を同定 -LTBP4が個別化治療に役立つ可能性を示唆-

発表のポイント
  • 心房細動1は心不全の原因のひとつであり、日本でも患者数は増加しています。
  • 今回、心房細動のカテーテルアブレーション2治療後に心機能が改善した患者では、治療前のLatent Transforming Growth Factor Beta Binding Protein 4(LTBP4)3の値が高いことを明らかにしました。
  • LTBP4が術後の心機能改善を予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆され、今後患者ごとの新たな診断・治療戦略に繋がることが期待されます。
概要

心不全は世界的に主要な死因であり予防が重要です。心房細動は左室収縮能低下を伴う心不全(HFrEF)の原因となることがありますが、不整脈治療により心機能が改善する症例も存在します。近年、心房細動に対するカテーテルアブレーションの成績は向上し、心不全症例に対する早期導入が国際的にも推奨されつつありますが、これまで、術前に心収縮能改善を予測する血清バイオマーカーは明らかになっていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡教授、後岡広太郎特任准教授、長谷部雄飛非常勤講師(兼 東北医科薬科大学内科学第一(循環器内科)講師)らの研究グループは、NECソリューションイノベータ株式会社と共同で、近年注目されている高スループットプロテオミクス技術「SomaScan®」4を用いて4,572種類のタンパク質を網羅的に解析しました。その結果、心房細動に左室収縮能低下を合併した患者では、LTBP4およびCHST15が心房細動治療後の心機能改善と関連することを明らかにしました(図1)。さらに、心房細動に対するカテーテルアブレーション後、遠隔期に心機能が改善した患者では、治療前のLTBP4値が高いことを明らかにしました。本研究により、LTBP4がカテーテルアブレーション後の心機能改善を予測する血液バイオマーカーとなる可能性が示され、心房細動に伴う左室収縮能低下患者に対する新たな診断・治療戦略につながることが期待されます。
本研究成果は2026年8月20日に、Europace誌にオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
心房細動の患者数は世界的に増加しており、HFrEFの原因となることがあります。一方で、心房細動を根治することで心機能が改善する症例も存在し、これらは不整脈誘発性心筋症(Arrhythmia-induced cardiomyopathy: AIC)5と呼ばれます。近年、心房細動に対するカテーテルアブレーションは心不全患者においても有効性が示され、早期介入が推奨されつつあります。しかし、治療前の時点でどの患者が心機能改善を得られるかを予測することは困難であり、血液バイオマーカーの開発が求められていました。

今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡(やすだ さとし)教授、後岡広太郎(のちおか こうたろう)准教授、長谷部雄飛(はせべ ゆうひ)非常勤講師らの研究グループは、NECソリューションイノベータ株式会社(本社:東京都江東区新木場、代表取締役 執行役員社長 岩井孝夫、以下 NECソリューションイノベータ)と共同で、心不全ステージB/C患者を対象とした血液サンプルの網羅的プロテオミクス解析6を実施しました。本研究では、DNAアプタマーを利用した高感度・高スループットプロテオミクス技術であるSomaScan®アッセイを用いて、4,572種類のタンパク質を同時に解析しました。その結果、心房細動に左室収縮能低下を合併した患者では、LTBP4およびCHST15が高値であることを見出しました。さらに、心房細動に対してカテーテルアブレーションを施行した左室収縮能低下患者16名を対象に検証したところ、治療後に心機能改善を認めた患者(AIC:10名)では、改善を認めなかった患者(6名)と比較して、術前のLTBP4値が有意に高いことが明らかとなりました。

今後の展開
本研究により、LTBP4が心房細動に伴う左室収縮能低下患者において、治療後の心機能改善を予測するバイオマーカーとなる可能性が示されました。今後はより大規模な検証研究や定量測定法による検証を進めることで、患者ごとの治療戦略の最適化や、新たな診断・治療アプローチの開発につながることが期待されます。

図1.心房細動に左室収縮能低下を合併した患者でのLTBP4とCSHT15の上昇
SomaScan®を用いて4,572種類の血中タンパク質を網羅的に解析しました。検証コホートでは、カテーテルアブレーション後に心機能改善を認めたAIC群(10名)は、改善を認めなかったnon-AIC群(6名)と比較して、術前のLTBP4値が有意に高値でした(P=0.047)。LTBP4によるAIC識別能をROC解析で評価したところ、AUCは0.767でした。
謝辞

本研究は、NECソリューションイノベータと共同で行い、NECグループのデータ解析技術を活用しています。また、本研究に参加頂いた患者の方々に深く御礼申し上げます。
本論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語説明
  1. 心房細動:心房が小刻みに震えることで脈が不規則になる不整脈です。加齢とともに患者数は増加しており、日本では100万人以上が罹患していると推定されています。動悸や息切れなどの症状を引き起こすだけでなく、脳梗塞や心不全の原因となることがあります。 ↩︎
  2. カテーテルアブレーション:足の付け根などの血管から細い管(カテーテル)を心臓内に挿入し、不整脈の原因となる部位を高周波などのエネルギーで焼灼する治療法です。心房細動に対する根治治療として、不整脈の起源となる肺静脈内からの電気信号を隔離する方法が広く行われており、近年では心不全患者においても有効性が示されています。 ↩︎
  3. Latent Transforming Growth Factor Beta Binding Protein 4(LTBP4):細胞外基質の形成や、細胞の増殖・組織の修復などに関わるTGF-β(Transforming Growth Factor-β)の働きを調節するタンパク質です。心臓では、心筋の線維化やリモデリングとの関連が示唆されています。本研究では、心房細動に伴う心機能低下が治療後に改善する患者で、血中LTBP4濃度が高いことが明らかになりました。 ↩︎
  4. SomaScan®:血液中に含まれる多数のタンパク質を一度に測定できる、高スループットプロテオミクス解析技術です。タンパク質に特異的に結合する人工核酸分子(アプタマー)を利用することで、少量の血液から数千種類のタンパク質を網羅的に解析できます。本研究では、SomaScan®を用いて4,572種類の血中タンパク質を解析し、心機能の改善に関連するタンパク質を探索しました。 ↩︎
  5. 不整脈誘発性心筋症(Arrhythmia-induced cardiomyopathy: AIC):心房細動などの不整脈が原因で左室収縮能が低下した状態を指します。不整脈を治療することで心機能の改善が期待できる点が、他の心筋症との大きな違いです。本研究では、心房細動に対するカテーテルアブレーション後に左室駆出率が20%以上改善、または50%以上に回復した症例を不整脈誘発性心筋症と定義しました。 ↩︎
  6. プロテオミクス解析:血液中などに存在する多数のタンパク質を網羅的に測定・解析する手法です。従来の仮説に基づく解析とは異なり、一度に数千種類のタンパク質を評価することで、新たな疾患関連分子やバイオマーカー候補の探索が可能です。本研究で用いたSomaScan®アッセイは、DNAアプタマーを利用して数千種類のタンパク質を高感度かつ同時に測定できる次世代プロテオミクス技術であり、近年、心血管疾患領域を含むバイオマーカー探索研究で広く利用されています。 ↩︎
論文情報

Title: Latent Transforming Growth Factor Beta Binding Protein 4 as a Biomarker of Arrhythmia-Induced Cardiomyopathy in Atrial Fibrillation: Insights from a High-Throughput Proteomic Analysis
プロテオミクス解析による心房細動に伴う不整脈誘発性心筋症のバイオマーカーとしてのLTBP4の同定
著者: Yuhi Hasebe, Kotaro Nochioka, Makoto Nakano, Takahiko Chiba, Hiroyuki Sato, Nobuhiko Yamamoto, Tomohiro Ito, Takashi Noda, Koji Kumagai, Aika Udagawa, Shintaro Kato, Katsunori Horii, Iwao Waga, Satoshi Yasuda*
長谷部 雄飛、後岡 広太郎、中野 誠、千葉 貴彦、佐藤 宏行、山本 惟彦、伊藤 知宏、野田 崇、熊谷 浩司、宇田川 愛花、加藤 信太郎、堀井 克紀、和賀 巌、安田 聡*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野
教授 安田 聡(やすだ さとし)
掲載誌:Europace
DOI:10.1093/europace/euag224
URL:https://doi.org/10.1093/europace/euag224

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野
教授 安田 聡(やすだ さとし)
TEL: 022-717-7152
Email: satoshi.yasuda.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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