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カテーテル治療中の医療従事者を放射線被ばくから守る 「壁付ドレープ」を開発 ―軽量な防護具で患者の負担と医療従事者の被ばくを軽減―

発表のポイント
  • カテーテル治療中の患者の体の上に設置する「防護ドレープ1」に放射線を遮る「壁」を取り付けた防護具「壁付ドレープ」を開発し、さまざまな方向からの放射線防護効果を調べました。
  • 実験の結果、防護ドレープに壁を追加することで、医療従事者(術者)の頭部や手への放射線被ばく量を約70~80%低減しました。
  • この防護具は軽量で、かつ角度調整ができるため、患者の負担を抑えながら医療従事者の被ばく低減に役立つ可能性があります。
概要

心臓カテーテル治療などの放射線を使った手技では、患者の近くで治療を行う医療従事者(術者)、手技中に発生する散乱線2にさらされます。特に頭部や眼への被ばく防護は重要な課題です。一方、患者の体の上に設置する従来の放射線防護具(防護ドレープ)は重量が大きく、患者への負担が課題となっていました。
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の下橋航大大学院生、芳賀善裕非常勤講師、千田浩一教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、患者の体の上に設置して使用する軽量な放射線防護具「壁付ドレープ」を開発しました。ドレープに取り外し可能な壁を組み合わせた構造で、重さは合わせて938グラムです。心臓カテーテル治療で用いられる7方向から防護効果を調べた結果、防護ドレープに壁を追加することで、頭部や手の位置での放射線量を約70~80%低減できることが分かりました。軽量で、取り外しや角度調整が可能な「壁付ドレープ」は、患者の負担を抑えながら医療従事者の被ばく量を減らす新たな防護手段として、今後医療現場での活用が期待されます。
本研究成果は、2026年8月27日にRadiation Physics and Chemistry誌(電子版)に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
心臓カテーテル治療では、X線を使って心臓や血管の状態を確認しながら治療を行います。手技中は、患者に当たったX線の一部が散乱線となって周囲に広がるため、患者の近くで治療を行う医療従事者も散乱線を受けることになります。特に、長時間にわたって治療に携わる医療従事者は、頭部や眼や手などへの被ばく量をできるだけ減らすことが重要です。医療従事者の被ばく量を減らすため、鉛でできた防護衣(プロテクター)や眼鏡、天井から吊り下げる防護板など、さまざまな防護具が使用されていますが、より一層の被ばく低減が求められています。
一方で、患者の体の上に設置して使用する防護ドレープもあります。このような防護ドレープは、医療従事者の動きを妨げにくいという利点がありますが、放射線を十分に遮る機能を持たせるために重くなることがあり、患者への負担や取り扱いやすさが課題となります。そこで研究グループは、患者への負担を抑えながら、医療従事者の被ばくを低減できる軽量な防護ドレープの開発を目指しました。

今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の下橋航大(さげはし こうだい)大学院生、芳賀善裕(はが よしひろ)非常勤講師、千田浩一(ちだ こういち)教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、患者の体の上に設置して使用する防護ドレープに、放射線を遮る「壁」を取り付けた「壁付ドレープ」を開発しました(図1)。ドレープと壁には、放射線を遮る非鉛素材を使用して軽量化を達成しています。壁は、ドレープの端に取り外し可能な形で取り付けられ、使用する側に合わせて左右を変更することができます。また、患者の頭側に向けて壁の角度を調整することもできます。ドレープの重さは589グラム、壁は349グラムで、合わせて938グラムと、従来の患者の体の上に設置する防護具と比べて大幅に軽量な構造とし、患者への身体的な負担を抑えることを目指しました。
開発した防護具の効果を調べるため、心臓カテーテル治療を想定した実験を行いました。人体を模した模型を用い、実際の治療で用いられる代表的な7方向からX線を照射し、医療従事者の体幹、眼、前かがみになった姿勢のときの眼、手に相当する4つの位置で放射線量を測定しました。防護具を使用しない場合、ドレープだけを使用した場合、ドレープに垂直な壁を追加した場合、壁を前方に傾けた場合の4パターンを比較しました。
その結果、壁を追加することで、ドレープだけの場合よりも多くの条件で放射線量を低減できました。特に、医療従事者が前かがみになった姿勢のときの眼の位置と手の位置では、放射線量を約70~80%低減できました(図2)。また、今回開発した壁付ドレープは、従来報告された防護ドレープと比べて重さを約半分以下の938グラムに抑え、軽量化と放射線防護の両立を実現しました。
一方、通常の眼の高さでは、X線を当てる方向によって防護効果が小さい場合がありました。これは、X線を当てる方向によっては、壁とX線撮影装置の間などから散乱線が回り込むためと考えられます。このことから、壁付ドレープは単独ですべての被ばくを防ぐものではなく、既存の防護具では防ぎにくい位置を補う役割が期待されます。

今後の展開
今後は、実際の心臓カテーテル治療において本防護具の使いやすさや放射線量の低減効果を評価するとともに、さまざまな術者の体格や姿勢、X線の照射方向に対応した防護方法の検討が必要です。また、他の手技にも応用することで、患者への負担を抑えながら医療従事者の被ばくを低減できる、より実用的な放射線防護具の実現が期待されます。
本研究で開発した軽量な「壁付ドレープ」は、従来の防護具では遮蔽が難しい位置からの散乱線を低減できる可能性があり、患者への負担を抑えつつ、医療従事者の職業被ばく3の低減に貢献することが期待されます。さらに、本研究で得られた知見を、防護具の選択や配置、防護教育に活用することで、患者と医療従事者の双方にとってより安全で負担の少ない医療環境の実現につながることが期待されます。

図1. 開発した「壁付ドレープ」と壁の設置例
壁は取り外し可能な形で取り付けられ、使用する側に合わせて左右を変更することができる。また壁を前傾させると線量低減効果が増す場合がある。
図2. 術者が前傾した際の眼の位置における「壁付ドレープ」の放射線低減効果
棒グラフは散乱線量(周辺線量当量4)、折れ線グラフは防護なしの場合を基準とした放射線低減率を示す。「壁付ドレープ」はドレープに壁を取り付けた条件を表す。PAは正面方向、RAOは右前斜位、LAOは左前斜位、CRAは頭側斜位、CAUは尾側斜位を表す。
謝辞

本研究の一部は、厚生労働省労災疾病臨床研究事業 (240401-02、研究代表者:千田浩一)、JSPS科研費基盤B(JP 23K28227、研究代表者:千田浩一)、および国際卓越研究者育成支援プログラム (研究代表者:下橋航大)の支援を受けて実施されました。
本論文は『東北大学2026年度APC支援事業』の支援を受けオープンアクセス出版されました。

特許情報

特願2026-60276 「放射線防護具」

用語説明
  1. 防護ドレープ:カテーテルテーブルに寝た患者の体の上部に載せて使用し、患者から発生する散乱線を効果的に遮蔽することで、医療従事者の被ばく量を軽減できるユニークな防護具。 ↩︎
  2. 散乱線:患者に当たったX線の一部が、患者の体などで向きを変えて周囲に広がった放射線。 ↩︎
  3. 職業被ばく:仕事をする中で、医療従事者などが受ける放射線による被ばく。 ↩︎
  4. 周辺線量当量:放射線の強さを表す指標の一つ。本研究では、医療スタッフの位置における放射線量の評価に用いた。 ↩︎
論文情報

タイトル:Lightweight X-ray shielding drape with a detachable shielding wall for enhanced occupational radiation protection in interventional radiology
著者:Kodai Sagehashi, Eishin Sasaki, Minori Ishida, Hina Imai, Kazuma Kanke, Tomoya Sato, Mami Nemoto, Kanae Konta, Toshiki Kato, Masahiro Sota, Yoshihiro Haga, Yuji Kaga and Koichi Chida*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだこういち)
掲載誌:Radiation physics and chemistry
DOI:10.1016/j.radphyschem.2026.114412
URL:https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2026.114412

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだ こういち)
TEL: 022-717-7943
Email: koichi.chida.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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