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高血圧に関わるホルモン産生を抑制する化合物を 培養細胞で確認 ―ホルモンの過剰産生を抑える創薬開発の手がかりとなる可能性―

発表のポイント
  • 6,080種類の化合物から、高血圧の原因となるホルモン「アルドステロン」の産生を抑える化合物「化合物35」を見いだしました。
  • 化合物35は病気に関連する遺伝子変異を持つ培養細胞で、アルドステロンをつくる酵素の遺伝子発現とホルモンの分泌を低下させることを実験で確認しました。
  • 化合物35は、ホルモンの過剰な産生を抑える薬の開発に向けた手がかりとなる可能性があります。動物やヒトでの有効性・安全性は今後のさらなる検証が必要です。
概要

高血圧の原因の一つに、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される「原発性アルドステロン症」1があります。原発性アルドステロン症の新たな治療法の開発に向け、アルドステロンの過剰産生を抑える化合物が求められています。
東北大学大学院医学系研究科尾坪優李学術研究員、菅原明教授、横山敦准教授らの研究グループは、同薬学研究科、東北医科薬科大学と共同で、6,080種類の化合物から、病気に関連する遺伝子変異を持つ培養細胞でアルドステロンの産生を抑える新たな化合物「化合物35」を見いだしました。この化合物は、アルドステロンをつくる酵素CYP11B2の遺伝子発現2を低下させ、培養液中に分泌されるアルドステロン量を減少させる働きがあることが分かりました。本成果は、ホルモンが過剰につくられる仕組みに着目した薬の開発に向けた手がかりとなる可能性があります。
本成果成果は、2026年9月12日に、Biochemical and Biophysical Research Communications誌に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
副腎は腎臓の上にある小さなホルモン産生臓器です。副腎でつくられるホルモンであるアルドステロンは、体内の塩分や水分の量を調節します。過剰になると塩分や水分をため込みやすくなり、高血圧の原因となります。原発性アルドステロン症では、病気の状態に応じて手術やホルモンの働きを抑える薬による治療が行われます。治療の選択肢を広げるため、ホルモンが過剰につくられる仕組みに着目した研究も進められています。
この病気を引き起こす副腎の腫瘍の一部には、KCNJ53という遺伝子の変異が見られます。この変異により、細胞内のカルシウムを介した信号が過剰に伝わり、アルドステロンをつくる酵素CYP11B2の遺伝子発現が増えます。研究グループは、この遺伝子発現を抑える化合物の探索に取り組みました。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科尾坪優李(おつぼ ゆうり)学術研究員、菅原明(すがわら あきら)教授、横山敦(よこやま あつし)准教授らの研究グループは、CYP11B2の遺伝子の働きを発光によって調べられる細胞を用い、東北大学の化合物ライブラリー4に含まれる6,080種類を調べました。効果の再現性や細胞への影響などを段階的に評価し、KCNJ5の変異の一つであるL168Rを導入したヒト副腎由来の培養細胞で効果が認められた化合物35を選び出しました(図1)。
化合物35を加えると、アルドステロン合成酵素CYP11B2の遺伝子発現が低下し、培養液中に分泌されるアルドステロン量も減少しました。この作用の仕組みを調べたところ、CYP11B2の遺伝子発現を促すNURR1とNGFIBという転写因子5の遺伝子発現も低下していました。これらの結果から、化合物35は、アルドステロンの産生を促す遺伝子発現の調節に作用する可能性が示されました(図2)。
さらに、副腎が合成する別なホルモンであるコルチゾール6の合成に関わる酵素CYP11B1の遺伝子発現には、有意な変化が認められませんでした。この結果は、化合物35がアルドステロンをつくる酵素の遺伝子発現を選択的に抑える可能性を示しています。

今後の展開
本研究は、アルドステロンをつくる酵素の遺伝子発現を抑える方法を検討するための出発点となります。今後は、化合物35が直接作用する分子を特定し、化学構造の改良と動物での効果・安全性の評価を進める必要があります。これらの検証を通じて、原発性アルドステロン症の新たな治療法につながるかを見極めることが課題です。
なお、本研究は培養細胞で得られたもので、動物やヒトでの有効性と安全性は今後のさらなる検証が必要です。

図1. 化合物35を見いだした研究の流れと主な結果
多数の化合物から候補を絞り込み、KCNJ5のL168R変異を導入した培養細胞で評価しました。化合物35は、CYP11B2のmRNA量とアルドステロンの分泌量を低下させました。
図2.化合物35のアルドステロン産生抑制効果
KCNJ5変異を導入した培養副腎細胞に化合物35(20 µM)を添加したところ、CYP11B2のmRNA量が濃度依存的に低下し(上)、培養液中のアルドステロン濃度も有意に減少しました(下、*p < 0.05、n = 3〜4)。データは平均±SEで示します。
謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP23K15769、JP23K08785、JP24K02875、JP24K22264、JP21K11439)および日本医療研究開発機構(AMED)のBINDS(JP26ama121038、JP26ama121040)の支援を受けて実施されました。
掲載論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受けOpen Accessとなっています。

用語説明
  1. 原発性アルドステロン症:副腎でアルドステロンが過剰につくられ、高血圧などを引き起こす病気です。 ↩︎
  2. CYP11B2と遺伝子発現:CYP11B2はアルドステロンの合成に必要な酵素です。遺伝子発現は、遺伝子の情報が読み出されることです。本研究では、その際につくられるmRNAの量を測定しました。 ↩︎
  3. KCNJ5:細胞膜でカリウムイオンの通り道をつくるタンパク質の遺伝子です。一部の変異は、アルドステロンの過剰な産生につながります。 ↩︎
  4. 化合物ライブラリー:薬のもととなる物質などを探すために、多様な化合物を集めたものです。 ↩︎
  5. 転写因子:遺伝子の情報を読み出す過程を調節するタンパク質です。NURR1とNGFIBは、CYP11B2の遺伝子発現を促します。 ↩︎
  6. コルチゾール:副腎でつくられ、代謝の調節やストレスへの対応などに関わるホルモンです。 ↩︎
論文情報

タイトル:Identification of a novel small-molecule compound that suppresses depolarization-induced CYP11B2 expression and aldosterone production in KCNJ5 mutant adrenocortical cells.
著者:Yuri Otsubo*, Hiroki Shimada, Keita Hoshi, Ryo Ito, Thanh Phuong Nguyen, Hiroyuki Yamakoshi, Kosuke Ohsawa, Hirofumi Ueda, Hidetoshi Tokuyama, Yoshiro Saito, Yoshiharu Iwabuchi, Takayuki Doi, Yasuhiro Nakamura, Akira Sugawara, Atsushi Yokoyama
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 分子内分泌学分野 学術研究員 尾坪優李
掲載誌:Biochemical and Biophysical Research Communications
DOI:10.1016/j.bbrc.2026.154584
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X26013501

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 分子内分泌学分野
学術研究員 尾坪 優李(おつぼ ゆうり)
TEL:022-717-8081
Email: yuri.otsubo.q2*alumni.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

准教授 横山 敦(よこやま あつし)
TEL:022-717-8081
Email: atsushi.yokoyama.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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