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糖尿病の悪化と体重減少が膵がん発見の手がかりに―全国2,291例の調査で明らかになった糖尿病と膵がん早期発見の関係―

発表のポイント
  • 日本糖尿病学会認定教育施設を対象とした全国調査により、糖尿病を合併した膵がん患者2,291例の診断経緯を解析しました。
  • 76%の患者は、膵がん診断の3年以上前から糖尿病を有していました。
  • 血糖コントロールの悪化や糖尿病の新規発症1をきっかけに発見された膵がんでは、症状をきっかけに発見された場合と比べて、早期(ステージ02/IA3)が多く、ステージIV4が少ないことが明らかになりました。
  • 膵がん診断前には、血糖コントロールの悪化に加えて体重減少も高頻度に認められました。このような糖尿病の急な悪化に注意することが、膵がん早期発見の手がかりとなる可能性があります。
概要

膵がんは、進行してから見つかることが多く、予後の悪いがんです。糖尿病と膵がんには密接な関係がありますが、糖尿病診療における膵がんの診断実態は十分に明らかになっていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野の正宗淳教授、糖尿病代謝・内分泌内科学分野の片桐秀樹教授、国立健康危機管理研究機構国立国際医療研究所の植木浩二郎糖尿病研究センター長らは、日本糖尿病学会認定教育施設を対象に全国調査を実施し、糖尿病を合併した膵がん2,291例を解析しました。76%は膵がん診断の3年以上前から糖尿病を有しており、糖尿病の悪化や新規発症を契機に診断された場合は、症状を契機とした場合より早期(ステージ0/IA)が多いことが明らかになりました。また、膵がん診断前には血糖コントロールの悪化に加え、体重減少も高頻度に認められました。このような糖尿病の急な悪化に注意することが、膵がん早期発見の手がかりとなる可能性があります。
本研究成果は2026年9月16日に国際学術誌Cancersに掲載されました。

研究の背景
膵がんは、早期には症状が現れにくく、診断された時点ですでに進行していることが多いため、予後の悪いがんの一つです。わが国では2024年に41,235人が膵がんで死亡しており、年間死亡者数が3番目に多いがんです。患者さんの予後を改善するためには、早期発見につながる手がかりを明らかにすることが重要な課題となっています。
糖尿病と膵がんには密接な関係があります。糖尿病は膵がんのリスク因子である一方、インスリンを分泌する膵臓にできた膵がんそのものが血糖値の上昇を引き起こし、新たな糖尿病の発症や、それまで安定していた糖尿病の悪化をもたらすことがあります。これまで、膵がんを早期に発見する手がかりとして、特に「新たに発症した糖尿病」が注目されてきました。しかし、実際の糖尿病診療の現場において、膵がん患者の糖尿病がどのような経過をたどり、どのような変化をきっかけとして膵がんが発見されているのかについては、十分に明らかになっていませんでした。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野、ヘルススパン研究センターの正宗淳(まさむね あつし)教授、消化器病態学分野の菊田和宏(きくた かずひろ)非常勤講師、糖尿病代謝・内分泌内科学分野、SiRIUS 医学イノベーション研究所の片桐秀樹(かたぎり ひでき)教授、糖尿病代謝・内分泌内科学分野の浅井洋一郎(あさい よういちろう)助教、国立健康危機管理研究機構国立国際医療研究所の植木浩二郎(うえき こうじろう)糖尿病研究センター長らは、日本糖尿病学会の協力のもと、日本糖尿病学会認定教育施設を対象に全国調査を実施し、糖尿病診療中に診断された膵がん2,291例の臨床情報を解析しました。
膵がん患者のうち、膵がん診断前3年以内に新たに糖尿病を発症した「新規発症糖尿病」は549例(24.0%)でした。一方、1,742例(76.0%)は膵がん診断の3年以上前から糖尿病を有していました。つまり、糖尿病を合併する膵がん患者の約4人に3人は、新たに糖尿病を発症した患者ではなく、以前から糖尿病を有する患者でした。
膵がんがどのようなきっかけで発見されたかを調べたところ、34.3%の患者は腹痛などの症状をきっかけに、27.1%の患者は糖尿病の新規発症や既存の糖尿病の悪化といった「糖尿病関連の変化」をきっかけに診断されていました。症状をきっかけに診断された患者では、早期のステージ0/IAは3.9%にとどまり、ステージIVが49.5%を占めていました。一方、新規糖尿病の発症または既存糖尿病の悪化といった「糖尿病関連の変化」をきっかけに発見された患者では、ステージ0/IAが11.0%、ステージIVが26.1%でした。すなわち、糖尿病の変化を契機として診断された膵がんは、症状が出てから診断された膵がんと比較して、より早い段階で発見されていました(図1)。年齢、性別、BMI、膵疾患の既往、膵がんの家族歴、喫煙歴、飲酒歴などの影響を統計学的に調整した解析でも、糖尿病関連の変化をきっかけとした診断は、ステージ0/IAでの診断と関連していました(調整オッズ比52.87)。
さらに、膵がん診断時とその1年前のデータを比較した患者では、66.9%に2.5%以上の体重減少がみられました。HbA1c値を比較した患者では、46.4%でHbA1c値が1%ポイント以上上昇していました(図2)。また、既存の糖尿病の悪化が認められた患者では、57.2%が糖尿病悪化から3か月以内、79.4%が6か月以内に膵がんと診断されていました。これらの結果から、糖尿病の患者における血糖コントロールの悪化や体重減少などの変化に注意することが、膵がんをより早い段階で発見する手がかりとなる可能性が示されました。

今後の展開
今回の研究から、膵がん発見の手がかりとして、これまで注目されてきた「新たな糖尿病の発症」だけでなく、「以前からある糖尿病の予期しない悪化」にも注意することの重要性が示されました。
特に、これまで比較的安定していた血糖コントロールが急に悪化した場合や、原因のはっきりしない体重減少を伴う場合には、その背景に膵がんが存在する可能性も念頭に置くことが、より早期の診断につながる可能性があります。
今後、糖尿病の悪化の程度や速度、体重減少、年齢、糖尿病罹病期間などを組み合わせることによって、膵がんのリスクが特に高く、膵臓の精密検査を受けるべき患者を効率よく絞り込む方法を確立し、膵がんの早期診断につなげることが期待されます。

図1. 膵がんの診断契機別にみたステージ分布
糖尿病の新規発症や血糖コントロールの悪化など、糖尿病に関連する変化をきっかけに膵がんが発見された患者と、腹痛や黄疸などの症状をきっかけに発見された患者について、診断時のステージ分布を比較した。糖尿病に関連する変化をきっかけに発見された患者では、症状をきっかけに発見された患者と比べて、早期(ステージ0・IA)の割合が高く(11.0%対3.9%)、進行したステージIVの割合が低かった(26.1%対49.5%)。
図2. 膵がん診断1年前との体重、HbA1c値の比較
膵がん診断1年前と診断時の体重またはHbA1c値のデータが得られた患者について、それぞれの変化を調べた。約3分の2の患者で2.5%以上の体重減少が認められ、約半数の患者でHbA1c値が1.0%ポイント以上上昇していた。これらの結果から、膵がん診断前には、血糖コントロールの悪化だけでなく、体重減少も高頻度に認められることが示された。
 
謝辞

調査にご協力いただきました日本糖尿病学会に深く感謝申し上げます。本研究は、黒川利雄がん研究基金の支援を受けて実施されました。

用語説明
  1. 新規発症の糖尿病:膵がんに関する研究では、一般に、膵がん診断前3年以内に新たに発症した糖尿病を「新規発症糖尿病」とすることが多い。 ↩︎
  2. ステージ0:がん細胞が膵管の上皮の中にとどまり、周囲の組織へ浸潤していない上皮内がん。 ↩︎
  3. ステージIA:腫瘍の大きさが2cm以下で、すい臓内に限局し、リンパ節転移や遠隔転移がない膵がん。 ↩︎
  4. ステージIV :肝臓などへの遠隔転移を認める膵がん。 ↩︎
  5. 調整オッズ比:年齢や性別など、結果に影響する可能性のある他の要因を統計学的に調整したうえで、ある要因と結果との関連の強さを示す指標。1より大きいほど、その結果が生じる可能性が高いことを示す。 ↩︎
論文情報

タイトル:Diabetes Trajectory and Pancreatic Cancer Detection in Patients with Diabetes: A Nationwide Survey Through Japan Diabetes Society-Certified Facilities
糖尿病患者における糖尿病の経時的変化と膵がん発見との関連:日本糖尿病学会認定教育施設を対象とした全国調査
著者:Atsushi Masamune*, Yuichi Tanaka, Yu Tanaka, Tetsuya Takikawa, Yasumasa Sekino, Ryotaro Matsumoto, Yoichiro Asai, Hideki Katagiri, Kohjiro Ueki, Kazuhiro Kikuta
正宗 淳*、田中 優一、田中 裕、滝川 哲也、関野 泰幹、松本 諒太郎、浅井 洋一郎、片桐 秀樹、植木 浩二郎、菊田 和宏
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野/ヘルススパン研究センター 教授 正宗 淳
掲載誌:Cancers
DOI:10.3390/cancers18182995
URL:https://doi.org/10.3390/cancers18182995

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野
ヘルススパン研究センター
教授 正宗 淳(まさむね あつし)
TEL: 022-717-7171
Email: atsushi.masamune.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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