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肥満症が胃噴門部腺がんを進展させる仕組みを発見 -PPAR-δが新たな胃がん予防・治療標的となる可能性-

発表のポイント
  • 肥満症が胃噴門部腺がん1を進展させる機序として、腸内環境異常によるプログラム細胞死2(フェロトーシス3) の抑制が重要な役割を果たすことが、マウスを用いた研究で明らかになりました。
  • 脂質代謝関連因子であるPPAR-δ4を抑制すると、肥満症の増悪と腸内細菌叢異常が悪化しました。さらに酸化ストレス応答を担うタンパク質NRF25の活性化を介して胃がん細胞のフェロトーシス抑制タンパク質GPx46発現が増加し、フェロトーシスが抑制されました。
  • 肥満症に伴う腸内細菌叢7やその代謝産物の変化が胃噴門部腺がんの進展に関与することが明らかとなり、生活習慣病予防戦略による腸内環境改善が胃噴門部腺がんの新たな予防法につながる可能性があります。
概要

食生活の欧米化に伴い、胃噴門部腺がんは増加しています。近年、肥満症と胃噴門部腺がんとの関連性が注目されていますが、両者をつなぐ機序は明らかではありません。
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野・ヘルススパン研究センターの正宗 淳教授、消化器病態学分野の宇野 要講師、田邊 瑞樹大学院生(研究当時)、東北メディカル・メガバンク機構分子血液学分野の清水 律子教授、生体分子解析分野の小柴 生造教授、地域口腔健康科学分野の玉原 亨講師らの研究グループは、マウスを用いた研究により、脂質代謝関連因子PPAR-δ 抑制による肥満症の増悪が腸内細菌叢やその代謝産物を変化させ、NRF2が活性化することで胃噴門部腺がん細胞においてフェロトーシスを抑制し、胃がん進展を促進することを発見しました。本研究成果は、生活習慣病の予防戦略による腸内環境の改善が、胃噴門部腺がんの新たな予防・治療法につながる可能性を示すものです。
本研究成果は2026年9月28日に米国の学術誌Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology(CMGH誌)に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
ピロリ菌除菌療法の普及にもかかわらず、胃噴門部腺がんは従来の胃がん(非噴門部腺がん)と比べて増加しています。胃噴門部腺がんは食道と胃の境界(食道胃接合部)付近にできるがんですが、解剖学的特徴から内視鏡観察による早期発見・診断が難しく、予後不良な悪性腫瘍とされています。そのため、発がんの仕組みを明らかにし、それに基づく新たな予防法や早期診断・治療法を確立する必要があります。生活習慣病と深く関わる肥満症では、腸内細菌叢の構成や機能が変化し、さまざまな病気の発症と関連することが知られています。近年、肥満症と胃噴門部腺がんとの関連性が注目されておりますが、肥満症に伴う腸内環境の異常がどのように胃噴門部腺がんの進展に寄与するかは明らかになっていません。本研究では、肥満症に伴う腸内細菌叢やその代謝産物の変化を解析し、胃噴門部腺がんの進展に及ぼす影響とその分子メカニズムの解明を目指しました。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野・ヘルススパン研究センターの正宗 淳(まさむね あつし)教授、消化器病態学分野の宇野 要(うの かなめ)講師、田邊 瑞樹(たなべ みずき)大学院生(研究当時)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構分子血液学分野の清水 律子(しみず りつこ)教授、生体分子解析分野の小柴 生造(こしば せいぞう)教授、地域口腔健康科学分野の玉原亨(たまはら とおる)講師らの研究グループは、金沢大学がん進展制御研究所の大島 正伸教授から供与された K19-Wnt1/C2mE マウス8、および東北大学東北メディカル・メガバンク機構分子医化学分野の山本 雅之教授から供与された Nrf2 遺伝子ノックアウトマウス9との交配による Nrf2 欠失 K19-Wnt1/C2mE マウスを用いて、高脂肪食による「肥満症-腸内環境異常」と胃噴門部発がん進展との関連性を検討しました。その結果、高脂肪食に脂質代謝関連因子PPAR-δ拮抗薬GSK3787 を併用すると、肥満の増悪とともに腸内細菌叢異常がおこりました。また、内臓脂肪の増加に伴い、脂肪から分泌されるレプチン10が増加することで胃がん細胞の増殖を促進することが明らかになりました。さらに、腸内細菌叢の変化に伴う代謝産物の変化やPPAR-δ拮抗薬の投与により、酸化ストレス応答11を担うタンパク質 NRF2 が活性化され、胃がん細胞にフェロトーシス抑制タンパク質GPx4・SLC7A11の発現が増加し、鉄依存性プログラム細胞死フェロトーシスが抑制され、胃がんが増大しました。血漿メタボローム解析では、γ-グルタミルアミノ酸12などのグルタチオン関連代謝物が変動し、腸内細菌叢変化に伴う代謝リモデリングが胃がんのフェロトーシス制御に関与する可能性が示唆されました。一方Nrf2 遺伝子を欠失させたマウスにおいて、肥満や高レプチン状態は変化しませんでしたが、胃がん細胞にフェロトーシスが促進され胃腫瘍が縮小しました。以上の結果より、肥満症にともなう胃噴門部腺がんの進展にはNRF2を介したフェロトーシス抑制が重要な役割を果たしている可能性が示されました。

今後の展開
今後は、マウスで得られた「肥満症に伴う腸内環境異常が胃噴門部腺がんを進展させる可能性」に関する知見が、ヒトでもあてはまるかを検証します。さらに、生活習慣の改善や腸内環境の改善が腸内細菌叢や血漿メタボローム成分を変化させ、胃噴門部腺がんの予防につながるかを明らかにします。本研究は、「肥満症-腸内環境-胃がん代謝」をつなぐ臓器連関に基づき、PPAR-δシグナル制御による胃噴門部腺がんの新たな予防・治療戦略の創出に繋がります。

図1. 肥満症にともなう腸内環境異常が胃噴門部腺がんを進展させる
高脂肪食摂取と脂質代謝関連因子PPAR-δ拮抗薬GSK3787併用は腸内細菌叢異常や腸管粘膜傷害を惹起し、異常な腸内細菌叢およびその代謝産物を循環血液中に漏洩させます。胃がん細胞に GPx4発現を誘導することで鉄依存性細胞死(フェロトーシス)を抑制し、胃噴門部腺がんを進展させる可能性があります。

図2. K19-Wnt1/C2mE マウス(Nrf2 +/+)と Nrf2 欠失 K19-Wnt1/C2mE マウス(Nrf2 -/-)の腫瘍面積/全胃面積比と腫瘍組織における GPx4 発現の違い
K19-Wnt1/C2mE マウスへの高脂肪食(HFD)およびPPAR-δ拮抗薬(GSK)投与により、何も刺激をしない状態(control)に比べ、腫瘍が増大し、腫瘍組織で の GPx4タンパク 発 現 が 増 加 し ま し た が 、Nrf2 欠失 K19-Wnt1/C2mE マウスではそれらが減少しました(*P<0.05, Tukey-Kramer test)

謝辞

本研究は、科研費(JSPS KAKENHI Grant Number JP19K08434、JP23K07368、JP26K10870)、消化器医療イノベーション推進寄附講座研究費(十和田市)で実施されました。本論文は『東北大学 2026 年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語説明
  1. 胃噴門部腺がん:食道と胃との接合部に発生する腺がんで、近年増加しています。食道の重層扁平上皮組織から胃の単層円柱上皮組織へとつながる食道と胃の接合部は、胃食道逆流を防ぐ括約筋で内腔が調整されているため、内視鏡による詳細観察が困難なことがあります。 ↩︎
  2. プログラム細胞死:細胞内の特定の遺伝子の働きにより制御される細胞死の総称です。生体にとって不要または有害な細胞を計画的に死滅させることで生体の恒常性を維持しています。代表的なものにアポトーシスがあります。 ↩︎
  3. フェロトーシス:近年新しく提唱されたプログラム細胞死の一種であり、鉄依存的な脂質過酸化物の蓄積により引き起こされ、「がん」をはじめとするさまざまな疾患の発症や進展との関連が注目されています。 ↩︎
  4. PPAR-δ:ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体-dは、脂質代謝・エネルギー代謝などを調節する転写因子です。肥満症や代謝異常の治療標的として注目されています。 ↩︎
  5. NRF2:酸化ストレスに応答して活性化することで抗酸化作用を高める転写因子です。 ↩︎
  6. GPx4:グルタチオンペルオキシダーゼ4は、細胞膜に生じる脂質の過酸化を抑える抗酸化酵素です。脂質過酸化物の除去によりフェロトーシスを抑制する役割を担っています。 ↩︎
  7. 腸内細菌叢:腸内に生息している多種多様な細菌の集まりのことで 1,000 種類以上存在しており、腸内環境を整える“善玉菌”、毒性のある代謝産物により腸内環境を悪化させる“悪玉菌”などがあります。最近、腸内細菌叢の構成や機能変化が肥満をはじめとする生活習慣病やさまざまな病気と関連することが明らかになっています。 ↩︎
  8. K19-Wnt1/C2mE マウス:遺伝子改変マウスで、食道胃接合部付近に腫瘍を自然発生する胃がんモデルマウスです。 ↩︎
  9. 遺伝子ノックアウトマウス:遺伝子組み換え技術により特定の遺伝子を欠失させたマウスです。特定の遺伝子の働きを失わせ、その遺伝子が生体内で果たす役割を調べることができます。本研究で用いたNrf2 欠失マウスは生体の酸化ストレス防御にかかわる制御因子である Nrf2 遺伝子を欠失させたマウスです。 ↩︎
  10. レプチン:脂肪組織から分泌されるアディポカイン(生理活性物質)の一種で、主に食欲やエネルギー代謝を調節するホルモンです。肥満ではレプチンが効きにくくなる「レプチン抵抗性」が生じ、血液中のレプチン濃度が高くなることが知られています。また、レプチンはがん細胞の増殖などに関与することも報告されています。 ↩︎
  11. 酸化ストレス応答:生体内で過酸化物質やフリーラジカルが過剰に産生されるとタンパク質、脂質、DNA などが障害されます。生体内にはこのような酸化ストレスから細胞を守るための防御機構が備わっており、酸化ストレス応答と呼びます。Nrf2 はこの酸化ストレス応答を制御する中心的な遺伝子です。 ↩︎
  12. -グルタミルアミノ酸:アミノ酸にγ-グルタミル基が結合した代謝産物であり、グルタチオン代謝との関連が知られています。グルタチオンはGPx4の働きを介して脂質の酸化を抑え、フェロトーシスを抑制します。 ↩︎
論文情報

タイトル:Ferroptosis regulates metabolic inflammation-driven tumorigenesis in obesity-related gastric cancer 
著者:田邊瑞樹、宇野要*、玉原亨、浅野直喜、小柴生造、草野啓介、小笠原光矢、皆瀨ゆみ子、齊藤真弘、小池智幸、清水律子、正宗淳
*責任著者:東北大学医学系研究科・消化器病態学分野、消化器医療イノベーション推進寄附講座、講師 宇野要
掲載誌: Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology(CMGH)
DOI:10.1016/j.jcmgh.2026.101900
URL:https://doi.org/10.1016/j.jcmgh.2026.101900

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・消化器病態学分野
消化器医療イノベーション推進寄附講座
講師 宇野 要(うの かなめ)
TEL: 022-717-7171
Email: kaname.uno.c3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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