
わたしの眠りかた・坂本大三郎さんの場合
山伏・アーティスト
2025.4.23 Wed
いい仕事をしている人は、いい眠りをしているのではないか。
そんな仮説をもとにさまざまな領域で注目すべき仕事をされているかたたちに「じぶんの眠り」について語っていただくインタビューシリーズ。それが「わたしの眠りかた」。
今回ご登場いただくのは、坂本大三郎さん。東北・山形に生きる山伏であり、世界中の都市でひらかれる様々な芸術祭に招聘されるアーティストでもあり、自然との関わりのなかで生まれそして受け継がれてきた生活の知恵や技術や信仰や芸能といったものをリサーチし続けるフィールドワーカーでもあり。また、著述業もやりながら「十三時」というカフェと雑貨のお店を運営するという、とても独特な、融通無碍な活動を展開されています。
ときには山の中の修験の道を、ときには異国の都市の雑踏の中を、そしてときには危険なジャングルの中を歩き回って幾日も過ごすこともあるという坂本さんは、一体どんな眠りをされているのでしょうか。ふだん暮らしている山形県西川町の月山の麓をゆっくりと歩きながら、お話を伺いました。
坂本大三郎 Sakamoto Daizaburo
千葉県生まれ。自然と人の関わりの中で生まれた芸術や芸能の発生、民間信仰、生活技術に関心を持ち東北を拠点に活動している。著書に『山伏と僕』(リトルモア・2012)、『山伏ノート』(技術評論社・2013)、『山の神々 』(株式会社 エイアンドエフ・2019)等。芸術家として、山形ビエンナーレ(2014、2016)、瀬戸内国際芸術祭(2016)、札幌モエレ沼公園ガラスのピラミッドギャラリー『ホーリーマウンテンズ展』(2016)、石巻リボーンアート・フェス(2020、2021)、奥大和MINDTRAIL(2021)、documenta15(ドイツ、2022)、AIGU OM(エストニア、2024)、100 tonson Foundation 『Planetary Seed』(タイ、2024)等に参加。
https://www.13ji.jp/daizaburosakamoto
いつもの暮らしのなかで、眠りについてなにかこだわっているところや工夫されていることなどはありますか。
坂本
特にありません。ごく普通に、布団に寝ています。寝る時は部屋を暗くするということくらいは意識していますが、眠りに苦労した、という経験はこれまでほとんどないですね。いつも睡眠は「ちゃんととっている」というか、むしろ「めちゃめちゃとっている」と思います。そのくらいしっかり寝ています。
ただし、夜更かしはよくします。例えば執筆だとか、絵や版画といったアートワークとか、そういった仕事は子どもが寝ついてからでないとなかなか集中してやることができないので、家族が寝静まってから取り組みはじめて、長くなれば朝6時までかかるということもありますし、夜の2時とか3時くらいになってから寝る、というのはしょっちゅうです。
夜の3時に寝たとすると、朝起きるのはだいたい10時くらい。途中で目を覚ますこともほとんどないくらいぐっすりと寝ていることが多いです。山の幸を採集するために険しい崖や山道を散々動き回ったりするとさすがに肉体的な疲労を感じることはありますが、そういうというとき以外は朝起きて疲れを感じるということもほとんどありません。
これまでの人生、きっとかなり様々なシチュエーションで眠っていらっしゃったのではないかと思うのですが、いかがですか。
坂本
確かに、ずいぶんいろんなところで寝てきましたし、野宿もたくさんしました。20年くらい前にはじめて山形を訪れたときは、千葉からママチャリを5日間ほど漕ぎつづけて到着したのですが、その旅路では道路の脇の目立たないようなところに寝袋を敷いて寝たりしていました。経験上、神社の社の軒下は野宿しやすくてお気に入りです。10代、20代はそんな野宿をする旅が好きでしたが、目を覚ましたら頭のちょっと上の方に轢かれたタヌキが死んでいたこともありました。気がつかず寝てしまっていたようです。
また、ずっと昔に使われていたと伝えられているけれど今ではそれがどこにあるかさえわからない古道を探すという調査にチームの一員として参加したことがあるのですが、そのときには奥深い山で里に戻ることもできませんから、山の中にブルーシートで簡易的なテントを作ってそのなかで眠るということがありました。その日は台風が直撃し、強い風が吹くとテントが大きく揺れて雨が吹き込んでくるという最悪のコンディションだったのですが、そんな状況にも関わらず朝まできちんと眠ることができたということに自分でも驚いた、という印象が残っています。
近年には、タイとミャンマーの境目あたりにテントを張って寝るという経験をしましたが、その翌日にその場所のすぐ近くでミャンマーから非合法な薬物を持ち込んだ反政府ゲリラメンバーのグループ全員が軍に射殺されたという事件があった、という出来事もありました。
そのほか、中国の貴州省の多くの山岳民族が住んでいるエリアを一人旅したときには、宿泊しようと思っていた宿が閉まっていて「今夜は野宿かな」と思っていたら、現地の中国人に声をかけてもらって、すぐ仲良くなって、泊めてもらったらものすごいお金持ちの家で、予想外の歓待を受けたなんてこともありました。旅先で知らない人に付いていくというのは結構危険でもあるんですけどね。

決して良いとは言えない環境でもしっかりと眠るチカラがすごい、という印象を受けました。
坂本
そうかもしれません。寝ることが好きなので、どこでも眠れるというのは自分の長所だと思っています。
自分が向かっていく場所というのは、興味があるからそこに行ってみたいし確かめたい場所なんです。本を読んだりWebで調べたりしてわかることもありますが、実際に足を運んで、そこで暮らしている人と話したり、そこにあるものを自分の目で見たりすることによってようやく腹落ちがすることがある。そんなところを自分は大事にしたいと考えています。
ちなみに日本以外の国で野宿をするときには、やっぱり色々と気をつけるようにはしています。例えば、蚊に刺されることは国内にいればそれほど気にかけることもないですが、外国ではマラリアやデング熱などの病気に感染するリスクがありますし、危険な獣が生息するエリアであれば、襲われた場合も考えて対処できるように寝床を作るようにしています。それこそタイのジャングルでバナナの葉で寝床を作ったときは「野生の象に踏まれないように」ということを考えていましたね。

TEXT, PHOTO/ 空豆みきお