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避難意思決定における神経メカニズムの解明へ。成長実感しながら前進

田久保将人(東北大学医学部医学科)

どのような研究をしていますか?研究内容を教えてください。

津波からの避難意思決定における神経メカニズムの解明というテーマで研究を行っています。津波から避難する際に、人はさまざまなことを考えながら、最終的には避難するか、しないかの選択を迫られます。この時、脳はどのように働き、何をどう考えることで、避難する・しないを選択しているのかを解明することを目的として設定しました。加えて、Big51などに代表される性格特性が意思決定に与える影響についても研究を行っています。本研究ではどのような性格の人が避難行動をとりやすい傾向にあるのか、逆に避難行動に消極的な人はどのような性格なのか、そしてそれは脳のどのような働きの結果生じるものなのかを解析しました。Big5に加え、東日本大震災の生存者からデータを集め抽出された、「生きる力(Power to Live)2」という性格特性8項目についても解析しました。

研究のポイントを教えてください。

私は加齢医学研究所の人間脳科学研究分野(杉浦元亮教授)に所属し、認知神経科学の研究しています。この領域では、fMRI3という特殊なMRIを使い、特定の作業をしている時に脳のどの部分の活動量が増えているかを計測し、さまざまな神経メカニズムの解明に取り組みます。私たちの実験では、被験者の方を募集して、生きているヒトの脳の活動を計測します。マウスなどを用いた動物実験ではなく、実際のヒトの脳から直接データを集めることができるのは、大きな特徴かと思います。また、災害関連という非常に東北大学らしいテーマで研究できていることも、オリジナリティーがあるかなと思います。

研究を通してわかったことを教えてください。

先行研究において、感情調節に秀でる人は即時的な避難行動を取りやすいことがわかっていました。しかしながら、この感情調節が避難促進的な感情(恐怖や不安)を増幅させているのか、避難妨害的な感情(面倒くささや慢心)を抑制しているのかが分かっていませんでした。今回の研究では、避難妨害的な感情が抑制されていることを示唆する結果が得られました。今後、どのように防災教育をしていけば良いか、どのような情報が避難をより促進できるのか、社会実装に貢献できることを期待しています。

研究をはじめたきっかけ、大変だったことはありますか?

高校生の頃から神経領域の研究に興味がありました。入学前に、加齢医学研究所の川島隆太教授の下で研究をしている医学部生の方と知り合う機会があり、自分も機会があれば研究活動をしてみたいなと考えていました。入学して半年ぐらいの頃に川島先生にご連絡したところ、現在所属している杉浦元亮教授の研究室を紹介いただき、現在に至ります。正直に言えば、当初は取りあえず研究の世界に触れてみよう、ぐらいの軽い気持ちで研究活動を始めました。

また、研究を通して一番の大きな壁はプログラミングでした。一般的な解析言語であるRやPythonに加えて、MATLABというソフトでSPMという解析を行っていました。初めは本当に手探りでちんぷんかんぷんだったのを覚えています。

研究をしていく上で大切だと思うこと、やりがい、などがあれば教えてください。

継続することだと思います。ディスカッションや解析でうまくいかないこと、できないこと、分からないことは日々本当にたくさんあります。ですが、そこで諦めるのではなく、先生方に相談してみたり、ちょっと時間を置いてみたり、他の人のプレゼンを聞いてみたりすると、少しずつ前進できるのかなと思います。少しでも成長した実感があると、もっと研究にのめり込んでいき、そうするとより成長した実感が得られ、さらにのめり込んでいく、という良いサイクルに入れるまで継続したことが、学会発表や論文発表につながりました。

将来はどうしたいか、目標などはありますか?

将来的にも研究に携わっていきたいですが、一方で臨床と両立していきたい気持ちも強いです。医師としてのキャリアと研究者としてのキャリアを両立するのが理想像です。研究としては、これまでは細胞やマウスを使った実験は行ってこなかったので、いわゆるウェット系の研究にも将来的にはチャレンジしてみたいと考えています。

趣味や続けていることはありますか?

日本酒が好きです。部活の先輩からいろいろおいしいお酒を教えてもらい、すっかりハマってしまいました。友人や部活の先輩・後輩と飲みに行くのも好きです。東北の日本酒は本当においしいものが多く、東京から仙台に進学して良かったなと思うことの一つです(笑)。

  1. 「性格」というものは一般的な用語ですが、心理学の世界では代表的な性格の種類を5つ(開放性、誠実性、外交性、協調性、神経症傾向)抽出しており、定量化(数値化)する方法が確立されています。これがBig5と呼ばれる性格特性です。 ↩︎
  2. 危機や困難な場面を回避したり克服したりする、人間の様々な能力や心理的特性。 ↩︎
  3. 脳血流量変化を計測することで特定課題中の脳機能活動がどこで生じたかを計測できる特殊なMRI。 ↩︎

田久保 将人(たくぼまさと)

東京都出身。2020年に東北大学医学部医学科入学。

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