肺がん、縦隔腫瘍のロボット手術
呼吸器外科 准教授 | 大石久
2025.6.20 Fri
精密な動き、体の負担減
回復時間も短縮
近年、各診療科でロボット手術の導入が進み、呼吸器外科では主に、肺がんと縦隔(じゅうかく)腫瘍の二つの病気に対しロボット手術が行われています。従来は胸腔鏡(きょうくうきょう)というカメラを用い、低侵襲な胸腔鏡下手術として実施されてきました。しかし近年、ロボット手術が新たな選択肢となり急速に普及しています。
日本胸部外科学会の2022年のデータによると、肺がんに対する手術は国内で年間5万5000件以上行われています。
肺は肋骨(ろっこつ)に囲まれた胸腔内に位置し、ロボット手術では肋骨の間から専用の器具を挿入してがんを切除します。これまで以上に繊細で正確な操作が可能になり、患者の体への負担も軽減されています。
縦隔腫瘍は胸の中央にある縦隔と呼ばれるスペースにできる腫瘍で、22年のデータによると、縦隔腫瘍手術は国内で年間約5600件行われています。
多くは胸骨の裏側という限られたスペースにあり、周囲には心臓や大血管など重要な臓器が密集しています。切除する際は、ロボット手術の精密な動きが利点となります。一部の医療機関では、小さな手術創一つで縦隔腫瘍を摘出することに成功し、患者の術後の痛みの軽減や回復時間の短縮にもつながっています。
手技習得は必要
メリットは外科医側にもあります。医師は高解像度の3D画像を見ながら、コンソールと呼ばれる操縦席でロボットアームを操作します。ロボットアームは多関節構造を備え、人の手では不可能な角度や微細な動きを実現できます。より正確な手術が可能となりました。
一方、限界もあります。例えば大出血などの緊急事態には、従来の肋骨や胸骨を切って行う開胸手術への迅速な移行が必要です。ロボット手術を担当する外科医は、開胸手術の技術の習得も欠かせません。
ロボット手術は、外科医療の未来を切り開く技術の一つです。外科医は従来の手技を磨きながら、新しいテクノロジーにも適応していく必要があります。
自動車業界で自動運転の実用化に向けた動きがあるように、人工知能(AI)とロボットを組み合わせた自動手術の時代が訪れるかもしれません。患者にとって安全で負担の少ない治療を目指し、外科医療は進化を遂げていくでしょう。
河北新報掲載:2025年3月28日

大石 久
(おおいし ひさし)
東北大学大学院医学系研究科修了。トロント大学留学(リサーチフェロー・クリニカルフェロー)、東北大学病院呼吸器外科助教・講師を経て、2025年准教授に就任。