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検査でタンパク尿が出た

腎臓・高血圧内科 准教授|宮崎真理子

腎臓病と尿検査

 病気を早期発見して重症化を防ぐため、わが国の健診制度では乳幼児から高齢者まで検尿の機会があり、これを総称して「生涯検尿」とも言います。また、医療機関で尿検査を受けた経験のある方も多いと思います。

 尿検査でタンパク尿が陽性と判定された場合、慢性腎臓病が疑われます。慢性腎臓病は尿蛋白や腎機能の血液検査の異常が持続する病気で初期には症状がありませんので、つい見過ごされがちですが、わが国には2000万人の慢性腎臓病に該当する国民がいて、透析を始める方が2023年には約39000人いました。尿検査を契機にかかりつけの医療機関と腎臓専門医が連携して原因、重症度を明らかにし、原因の治療、腎臓の働きを維持するための治療、食生活や運動習慣を見直すなどして、腎臓病の重症化を予防する対策を推進しています。

 今回は腎臓病の診断に欠かすことができない尿検査の意義をご紹介します。尿の検査項目のうち主なものは、潜血、タンパク、糖です。潜血は尿中に血液中の成分(赤血球)が混じっていることを示します。若年から中年の血尿は慢性腎臓病の初期症状、中高年の血尿では泌尿器科系のがんの症状の場合がありますので、放置してはいけません。

糖尿病関連腎臓病の早期診断と重症化防止には尿検査、特にタンパク尿が重要

 尿検査でタンパク尿が陽性と判定された場合、慢性腎臓病が疑われます。タンパク尿が見られるいろいろな慢性腎臓病のうち、透析を開始する末期腎不全まで進行した前述の39000人の38.3%が糖尿病によるものです。糖尿病で血糖が高い状態では、血液が流れている血管の壁が高濃度のブドウ糖と反応を起こし、腎臓の血管の壁が傷みます。腎臓の毛細血管が壊れると、タンパク尿が尿に漏れてくるようになります。

 タンパク尿が見られても量が少ない、あるいは尿を作る力が保たれているうちは症状が出ません。この段階で、(1)血糖をちょうど良くする(2)タンパク尿は陽性でも75歳未満なら血圧を130/80mmHg未満を目標に食事療法や降圧薬を使用する、(3) 慢性腎臓病、糖尿病性腎症の悪化を予防する効果が示されている治療薬を使用する-などの方法があり、末期腎不全に至る患者さんの数は少しずつですが減少しはじめました。今後も治療効果に期待がもたれるため、腎臓病は治らないという時代は過去のことになりつつありますが、タンパク尿が多い人ほど進行するのが速く、進行した腎臓病では、腎臓の働きは元に戻りません。

心臓病にも関連

 タンパク尿は、心臓病や脳卒中などの危険性とも深く関連しています。早期の糖尿病関連腎臓病の診断にはより鋭敏な微量アルブミン尿の検査が行われます。これが陽性の方は心筋梗塞や心不全の発症率、心臓病による死亡率とも関係があることが分かってきました。腎臓の血管の壁が傷んだ結果としてタンパク尿が出てくるという病状は、全身の血管にも障害を及ぼしていることの現れとも言えるわけです。

 「尿タンパク 大事にしよう 診る感覚」
これは2024年度の研修医が作った川柳です。彼は尿タンパクの結果をきちんと評価できる立派な医師になってくれるに違いありません。

 皆さまも生涯検尿の機会を逃すことなく健康管理、病気の早期発見早期治療に役立てていただきたいと思います。

河北新報掲載:2021年7月23日
一部改訂:2025年5月2日

宮崎 真理子
(みやざき まりこ)

山形県出身。1987年東北大学医学部卒業。 同大医学部第二内科、竹田綜合病院内科、仙台社会保険病院腎疾患臨床研究センターを経て、2012年東北大学大学院医学系研究科腎・高血圧・内分泌学分野准教授。2016年より東北大学病院血液浄化療法部長に就任。

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