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関節リウマチの早期診断でよりよい生活を

リウマチ膠原病内科 藤井 博司

「リウマチ」という言葉は、ギリシャ語の「rheuma(流れるもの)」に由来します。これは、関節の痛みが水の流れのように移動することから名付けられたといわれています。現在「リウマチ」といえば関節リウマチを指すことが多いですが、もともと「リウマチ」は関節や筋肉に痛みを伴う病気全般を指す広い概念です。

免疫とは、一度感染症になった人が同じ感染症にかからなくなる現象のことをいいます。本来、抗体と呼ばれるタンパクやリンパ球といわれる細胞が、外から入ってくる細菌やウイルスなどを攻撃し、体を感染症から守るためのものです。膠原病とは全身の結合組織(皮膚、血管、関節などコラーゲン線維を含む組織)に炎症が起こる病気の総称で、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群などが含まれます。現在、膠原病は免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患であることが分かっています。

関節リウマチは膠原病の一つです。関節の内側にある「滑膜」といわれる部分に自己免疫による炎症が起こり、関節が腫れて痛みが生じます。進行すると、手足が変形したり関節が動かせなくなり、日常生活に大きな影響を及ぼします。また、関節以外にも肺や血管などに合併症を引き起こすことがあります。早期に適切な治療を行うことで、これらの合併症のリスクも軽減できます。

かつて、関節リウマチは症状を取ることが精一杯で、関節破壊を完全に防ぐことは難しいとされていました。しかし、近年は治療が進歩し、寛解(症状がほぼなくなり、関節破壊の進行も止まる状態)を達成することを目標としています。寛解を目指す治療の基本となるのが「抗リウマチ薬(DMARDs)」です。中でも「メトトレキサート(MTX)」はリウマチ治療の基本となる薬で、関節の炎症を抑え、病気の進行を防ぎます。さらに、近年登場した「生物学的製剤」や「JAK阻害薬」などの新しい治療薬は、従来の薬で十分な効果が得られない患者さんに対して大きな効果を発揮しています。また、「寛解を目指した治療(Treat to Target : T2T)」という考え方が普及しており、定期的に症状や炎症の程度を確認しながら、治療を最適化していきます。寛解に至った場合でも、治療を急に中断せず、医師と相談しながら慎重に薬剤を調整していくことが重要です。治療の継続によって関節破壊の進行を抑え、患者のQOL(生活の質)を最大限に高めることが可能となります。

膠原病には多くの種類があり、それぞれ異なる臓器に影響を及ぼします。関節リウマチは主に関節の炎症を引き起こしますが、他の膠原病でも関節炎がみられることがあり、診断するときにしっかり区別することが大事です。例えば、関節炎を起こす疾患でも全身性エリテマトーデス(SLE)では皮膚症状や腎炎を伴うことがあり、シェーグレン症候群では、口や目の乾燥が特徴です。また、関節リウマチと似た関節炎を起こす病気として、乾癬性関節炎や強直性脊椎炎などの脊椎関節症と呼ばれる一群もあります。関節の痛みやこわばりがあるからといって必ずしも関節リウマチとは限らず、膠原病全般を考慮した診断が必要です。そのため、「関節が痛い=リウマチ」と自己判断せず、気になる症状があれば早めに専門医を受診することが重要です。

まとめると、関節リウマチは膠原病の一つであり、免疫の異常により関節に炎症を起こす病気ですが、正しく診断し、適切に治療することによって「寛解」を目指すことができる時代になりました。治療を続けることで関節破壊を防ぎ、日常生活に支障なく過ごすことが可能になります。また、関節リウマチの初期症状は他の膠原病や内科疾患と似ていることもあるため、自己判断せず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することが大切です。

藤井 博司
(ふじい ひろし)

1971年生まれ。兵庫県出身。1996年東北大学医学部卒業。2002年東北大学大学院修了、医学博士。エモリー大学博士研究員を経て、2008年東北大学病院血液免疫科助教、2020年よりリウマチ膠原病内科科長、2024年東北大学大学院医学系研究科臨床免疫学分野教授。

※東北大学病院広報誌「hesso」49号(2025年4月30日発行)より転載

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