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〔いのち)の可能性をみつめる

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耳鳴り、目の充血に潜む硬膜動静脈瘻

新妻邦泰(東北大学大学院医学系研究科 神経病態制御学分野 教授)

脳周囲の血管 異常な穴

 物が見えにくいとか、二重に見える、まぶたが下がるなど、目に関連した症状があるときには、眼科受診を考えると思います。もちろんそれで良いのですが、中には脳の疾患が隠れていることもあり、診断の遅れから症状が治らなくなってしまうこともあります。見つかりにくい疾患に「硬膜動静脈瘻(ろう)」があります。

 人の血液は、心臓から「動脈」を通って勢いよく各組織(臓器)の網目状の「毛細血管」に入ります。毛細血管から酸素や栄養が組織に運び込まれ、ここで老廃物を受け取って、勢いが弱まります。その後、血液は「静脈」を通って心臓に戻るのが正常な流れです。

血液が静脈逆流

 動静脈瘻は、何らかの原因で毛細血管を介さずに動脈と静脈がつながる穴ができてしまう病気で、勢いよく静脈に流れ込んだ血液が静脈を逆流したり、負担に耐え切れなくなった静脈が破れて出血したりすることがあります。全身の血管で起こり得るものですが、脳を包む膜である硬膜の血管にできたものを硬膜動静脈瘻と呼びます。

 できた場所によって症状は異なりますが、耳の近くであれば、血液が動脈から穴を通って勢いよく静脈に流れ込むときに、心臓の拍動に一致して「シューシュー」という耳鳴りがすることがあります(「ジージー」「ゴー」「キーン」といった耳鳴りは、この病気とは関係がありません)。

 目の奥にできた場合には、静脈を逆流した血液によって目が充血して赤くなったり、眼球を動かす神経が障害されて物が二重に見えたり、まぶたが下がってきたりすることもあります。目が赤くなった場合は、眼科の医師から目薬を処方されると思いますが、なかなか治らなかったり、物が二重に見えたりする場合には硬膜動静脈瘻を疑う必要があります。

早期検査が重要

 磁気共鳴画像装置(MRI)で検査をするとおおよそのことが分かり、カテーテル検査を受けていただくと確定診断ができます。運が良ければ自然に治ってしまうこともありますが、逆流がひどくなると、脳出血、けいれん、認知機能障害などを起こす危険性もあります。

 治療法としては、カテーテル検査で切らずに治療できることが多く、放射線治療を組み合わせることもあります。異常な穴がふさがれば症状が改善することが多いですが、発見まで時間がかかって神経が強く傷んでしまうと、症状が戻らないこともあります。やはり早期発見・早期治療が重要になりますので、おかしいと思ったら脳外科受診も考えてみてください。

河北新報掲載:2022年3月25日

新妻 邦泰
(にいづま くにやす)

宮城県出身。2003年東北大学医学部医学科卒業。同年、東北大学脳神経外科入局。2006年-2009年Stanford大学脳神経外科留学などを経て、2018年より東北大学大学院医工学系研究科 神経再建医工学分野教授。

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