目の前の物が見つけられない
川上暢子(東北大学病院 高次脳機能障害科 助教)
2026.3.27 Fri
脳が萎縮、認知機能低下
認知症とは脳の障害により認知機能が低下し、日常生活に支障が出てきた状態です。「認知症=物忘れ」と考えられがちですが、認知機能は記憶だけでなく、判断、計画立案・遂行、言語、視知覚・空間認知などさまざまな能力を含みます。従って、物忘れはないか非常に軽度でも、他の認知機能が低下して認知症になることがあります。
情報処理できず
今回は視知覚・空間認知能力が徐々に低下する後部皮質萎縮症を紹介します。「後部」とは大脳の後部(後頭葉や頭頂側頭葉)を指します。この領域には目から入ってきた視覚情報を受容・分析し、対象の認知や行動につなげる働きがあります。これらの機能が低下すると、目そのものには問題がないのに、脳がその情報を処理できなくなります。
このため「よく見えない」「部分は分かるのに全体が見えない、何か分からない」「目の前にあるのに見つけられない」「見たいものに目を向けられない」「凹凸が分からない」「手を伸ばしてもずれてしまう」「体や車をよくぶつける」などの症状が出ます。
こうした変化がいつの間にか始まり、徐々に進行していくので、本人や周りの人が症状として認識するのが難しく、受診までに時間がかかるケースがあります。眼科を何度受診しても異常が見つからない、うつや不安といった心の病気を疑われるなど、脳の病気であることに気付くのが遅れる場合もあります。
神経細胞が変性
後部皮質萎縮症は、脳の神経細胞が変性して脳が萎縮する進行性の病気(神経変性疾患)で、その7割以上はアルツハイマー病が原因と考えられています。症状が見られるのは、アルツハイマー病の患者さんの中でも65歳以下の若年発症の方に多いことが知られています。
脳の機能障害による「見え」に関する症状は、神経変性疾患だけでなく、脳卒中、頭部外傷、低酸素脳症などで大脳の後部の領域がダメージを受けた場合にも現れます。この場合は症状が進行することはありません。
見えにくい原因を知り、早めに治療を受けたり、対応法を検討したりするのが大切です。眼科の診察で大きな異常がなく、前に述べたような変な見えにくさがある場合、脳の病気の可能性も考え、脳神経内科や当科などで専門家の診察を受けることをお勧めします。
日常生活での変化や下手になったことなど具体的な情報が診断のきっかけになることもありますので、遠慮なくお伝えください。
河北新報掲載:2023年2月10日
川上 暢子
(かわかみ のぶこ)
長崎県出身。2009年に札幌医科大学を卒業。脳神経内科医として研鑽を積み、2018年より東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野に所属。専門は神経変性疾患における認知機能障害。