春の不調は「風」と「気」漢方の知恵で快適に
髙山真(東北大学 漢方内科 特命教授 )
2026.5.13 Wed
寒さが和らぎ、やわらかな日差しに春の深まりを感じるようになりました。春は草木が芽吹き、動物が目覚めるように、私たち人間の活動量も増えていく季節です。しかしその一方で、心身のバランスを崩しやすい時期でもあります。
今回は、春に起こりやすい不調の原因と、それを乗り切るための「漢方の知恵」をご紹介します。
①春は「風(かぜ)」が運んでくるトラブルに注意しましょう(外からの風)
春一番に代表されるように、春は「風」が強く吹く季節です。漢方では、この風に乗って体に悪さをする「邪(じゃ)」が運ばれてくると考えます。文字通り、これが「風邪(かぜ)」の語源です。
風のように軽く、移動する性質を持つ「風邪(ふうじゃ)」は、体の上半身(目や鼻、喉など)に悪さをしやすいのが特徴です。風邪(かぜ)による発熱、鼻汁、鼻づまり、喉の痛みの症状や、花粉症による目のかゆみ、鼻づまり、喉のイガイガ感、これらは実は漢方では「風邪(ふうじゃ)」によるトラブルとして考えます。花粉症などのアレルギー症状には、風邪薬としても有名な以下の漢方が使われることがあります。
・小青竜湯(しょうせいりゅうとう):元々は気管支炎などに使われていましたが、現代では花粉症の症状によく使われます。サラサラの鼻汁や鼻づまり、目のかゆみを緩和するとともに、体を温めて寒気をとります。
・葛根湯(かっこんとう):風邪の引き始めだけでなく、アレルギー症状にも応用されます。体を温めて血行をよくし寒気をとるとともに、肩こりや頭痛も和らげます。
これらの漢方に含まれる「麻黄(まおう)」という生薬は、眠くなりにくいのが特徴です。「抗ヒスタミン薬だと眠気が出て困る」という方にお勧めです。
②春は「気(き)」の高ぶりと自律神経が乱れやすくなる時期です(内からの風)
春のもう一つの特徴は、身体活動のエネルギーの源である「気」が活発になることです。エネルギーが動きやすくなる反面、体の中の「気」が頭の方へ上がり過ぎたり、回りすぎて不安定になったりすることで、自律神経が乱れやすくなります。漢方では、この自律神経や感情のコントロールを担う場所を「肝(かん)」と呼びます(※西洋医学の肝臓とは少し意味が異なります)。春はこの「肝」に負担がかかりやすく「イライラして落ち着かない」「なんとなく不安になる」「頭がさえて眠れない」といった心の不調が現れることがあります。このような症状にお勧めの漢方薬は以下になります。
・抑肝散(よくかんさん):高ぶった「気」や神経を静めるお薬です。イライラや不眠の改善に役立ちます。ストレスによる頭痛にも効果があります。
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):頭に上がった「気」を下に下げるとともに、心の安定にも作用します。イライラと抑うつで困るときに使用します。
今回ご紹介した漢方薬は、ドラッグストアなどでOTC薬(一般用医薬品)1として購入可能なので、セルフケアとして手軽に市販薬を試してみることができます。
一方、症状が強い場合や、自分に合った漢方をしっかり選びたいなど、より専門的な治療を受けたい場合は、医療機関を受診しましょう。このように使い分けるのが賢い方法です。
季節の変わり目は誰でも体調を崩しやすいものですが、漢方の知恵を取り入れることで症状を和らげ、春をより快適に過ごすことができます。
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髙山 真
(たかやましん)
山形県出身。1997年宮崎医科大学医学部卒業。2010年に東北大学大学院医学系研究科医学博士課程修了後、ミュンヘン大学麻酔科に留学。2015年東北大学病院総合地域医療教育支援部准教授、2019年東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座特命教授に就任。専門は総合診療、循環器内科、漢方医学、地域医療。
※東北大学病院広報誌「hesso」55号(2026年4月30日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」