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難病と犬のコロッケ

犬山紙子

 東北での思い出の半分は、難病の母の介護にまつわるものだ。私が20歳の時に母が難病だとわかり、私の未熟で柔らかい心の形はぐにゃぐにゃになった。お母さんが辛いのも嫌だし、治療法がないのも嫌だし、介護以前にまだまだ母にくっついて甘えたいと思っていた。
 そして、難病発覚と同じタイミングで柴の子犬がやってきた。名前は「上から見たらコロッケに見える」という安直な理由でコロッケ。闘病当初、まだ歩けた母と一緒にコロッケの散歩をよくした。動作が緩慢になる病気だから、ゆっくりゆっくり。元気一杯の子犬にこのスピード感は物足りないかなと思ったらちょっと先に行っては嬉しそうに戻ってくる、を繰り返していた。
 家でコロッケは母のベッドの脇で丸くなる。足と足の間を掘って整えて、そこでコロッケがドーナツにトランスフォーメーションするのだ。それを見て、あ、そうか、介護をしているからといって甘えちゃだめって事はないんだと思い立ち、私もお母さんの横にくっついて本を読むようになったのだ。その間、私の心は黄金のコロッケ色でほくほくしていたのだ。

犬山 紙子

イラストエッセイスト。仙台の出版社で編集者として勤め、家庭の事情で退職。難病の母の介護を14年間行う。2011年ブログ本を出版しデビュー。著書多数。現在はTVコメンテーターとしても活動中。2018年に児童虐待防止ボランティアチーム「こどものいのちはこどものもの」を発足し、子どもを支援する活動も行なっている。

※東北大学病院広報誌「hesso」51号(2025年8月29日発行)より転載

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