生命の「きも」である肝臓の話
海野倫明(東北大学病院 総合外科 肝胆膵・移植グループ 科長)
2026.7.7 Tue
肝臓は上腹部、右のみぞおちにあり、男性であれば約1.5kg、女性であれば約1.2kgの最大の臓器で、「化学工場」ともいわれる重要な機能を持っています。肝は「きも」とも呼ばれるように、日本では古の時代から重要な臓器と考えられており、現在も「きもが据わる」「きもに銘じる」などの慣用句としてその名残が残っています。
肝臓の働きは、次の4つに分類されます。
・合成工場:体の中の必要なタンパク質や、脂質(コレステロールなど)、グリコーゲンなどを合成する化学工場です。
・貯蔵庫:肝臓は多くの栄養素を貯蔵し、飢餓状態など、必要なときに栄素を放出する、いわば貯蔵庫として働いています。
・清掃工場:体に取り込まれたアルコールや、食物中の毒素や薬剤などを無毒化する(解毒)働きがあり、クリーンセンターともいわれます。
・胆汁の分泌:肝臓は胆汁と呼ばれる黄色の消化液を作り、胆汁は脂肪の消化を助ける働きをしています。便の色が黄褐色であるのは、この胆汁中のビリルビン色素によるものです。
このように肝臓は生きていくために欠かせない機能を持ち、生命を維持するために必須の臓器なのです。その一方で、肝臓は再生能力が高いことでも有名で、肝臓の3分の2を切除しても、数カ月でほぼ元の体積に戻ります。
肝臓は、かつては肝炎ウイルスによる肝炎・肝硬変が主な疾患でした。特にB型肝炎、C型肝炎は、日本の国民病ともいわれ、多くの患者さんがいましたが、現在ではほぼ制圧されたことから、医学の歴史において「人類がウイルスに完全勝利しつつある奇跡のストーリー」として知られています。
C型肝炎ウイルスは、血液を介して広がり、肝硬変や肝がんの原因になる恐ろしいウイルスですが、2014年に「DAA(直接作用型抗ウイルス薬)」が登場し、現在では副作用がほぼない飲み薬を2〜3カ月内服するだけで、99%以上が完治するようになり、型肝炎患者は激減しています。
B型肝炎は出産時に母から子に伝染する「母子感染」が主な感染ルートでしたが、ウイルスを持った母親から出産した赤ちゃんに出生後すぐにワクチンを投与することで子どもの感染が激減しました。また、すでに感染している人に対しても、ウイルスの増殖を抑え込む、優れた「核酸アナログ製剤(飲み薬)」が登場し、肝がんへの進行を防ぐことが可能となりました。
このようにウイルスによる肝炎は激減しましたが、その一方でアルコールや肥満に伴う肝臓の病気がクローズアップされるようになりました。アルコールの大量摂取や、カロリーの取り過ぎが原因の脂肪肝になると徐々に肝臓は傷ついていき、肝硬変や肝がんを発症するようになります。採血検査でALT1が30以上になったら医師に相談することをお勧めします。
肝臓の機能が低下した状態を肝不全といいます。肝不全が内科的治療で改善しないときや、肝がん(最大径5cm以下で5個以内)があり、肝切除術ができない場合、条件によりますが肝移植が行われることがあります。
・生体肝移植:親族などから肝臓の一部を提供してもらい移植をする方法を「生体肝移植」といいます。計画的に移植を行うことができる、という長所がありますが、肝臓の一部を取り出すために健康な人(ドナー)にメスを入れなければいけない、という欠点があります。
・脳死肝移植:脳死と判定され、生前に臓器提供の意思を表示していた(または家族の同意がある)ドナーから肝臓を丸ごと摘出し、患者さんに移植をする方法を「脳死肝移植」といいます。日本ではドナーの数が少なく何年も待つような状況でしたが、最近はドナーの数が少しずつ増えてきています。生体肝移植、脳死肝移植、どちらも究極の助け合いの医療です。尊いドナーの気持ちを大切にして、東北大学病院では肝移植に取り組んでいます。
- ALT
(アラニンアミノトランスフェラーゼ)アミノ酸の代謝に必要な酵素のひとつ ↩︎
海野 倫明
(うんの みちあき)
1986年東北大学医学部を卒業。大学院は医科学で医学博士を取得。2005年より東北大学大学院・外科病態学講座・消化器外科学分野教授。東北大学病院総合外科肝胆膵・移植グループ科長。2017年〜2022年日本胆道学会理事長を務める。2026年11月神戸で日本消化器病学会大会を開催予定。
※東北大学病院広報誌「hesso」56号(2026年6月30日発行)より転載
- 関連リンク
- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」