障がい者の歯科麻酔で安心
水田健太郎(東北大学病院 障がい者歯科治療部 部長)
2026.5.29 Fri
緊張せず健康な口保つ
治療の強い味方
日本人の約9%が何らかの障がいを抱えているといわれる現代、歯科診療においても一人一人の個性に合わせた配慮が求められています。
特に知的障がいがある方は、口の周囲を触られることに敏感だったり、歯科治療の内容をうまく理解できなかったりすることから、強い不安や緊張を感じて治療を拒んでしまうことが少なくありません。
また、虫歯や歯周病の痛みを言葉で伝えるのが難しい場合、気付いた時には症状が重くなり、緊急の処置が必要になるケースも散見されます。
治療を怖がる方には、まずは行動変容法などの心理学的アプローチにより治療に慣れてもらうことから始めます。どうしても受け入れが難しい場合や、緊急を要する時の強い味方が「歯科麻酔」です。
麻酔には主に二つの方法があります。一つは「精神鎮静法」です。これは点滴から鎮静剤を投与することで、リラックスした状態で治療を受けられるようにする方法です。
鎮静剤の効果で治療中の記憶をなくすことも可能で、患者によっては「眠っている間に終わった」ような感覚になりますが、完全に意識をなくすわけではありません。
もう一つは「全身麻酔法」です。完全に意識がない状態で治療を行うため、虫歯の本数が多く数時間に及ぶ処置が必要な方や、鎮静法では対応が難しい方に適しています。一度の麻酔で集中して治療を行い、口の健康状態を「リセット」できるのが大きな利点です。
痛みから解放され、治療後は定期的なクリーニングにも協力的になる患者が多いのも特徴です。
飲食制限が必要
ただし、麻酔を受ける際は注意も必要です。麻酔中の嘔吐による肺炎を防ぐため、事前の飲食制限(絶飲食)を厳守しなければなりません。また、風邪などの体調不良時は安全のために日程を延期することがあります。
障がいがあっても、麻酔を適切に活用することで生涯にわたり健康な口を保ち、生き生きとした人生を送ることが可能です。専門的な設備を持つ施設はまだ限られていますが、不安がある家族や介護者の方は、日本歯科麻酔学会や日本障害者歯科学会のホームページなどを通じて、ぜひ専門医にご相談ください。
河北新報掲載:2026年3月27日
水田 健太郎
(みずた けんたろう)
北海道出身。1999年東北大学歯学部卒業。2003年東北大学大学院歯学研究科修了。コロンビア大学医学部麻酔科学講座に留学後、東北大学大学院歯学研究科歯科口腔麻酔学分野助教、講師、准教授を経て2018年に教授に就任。2020年より現職兼任。専門は歯科麻酔科学。