手術することになったら…
飯久保正弘(東北大学病院 周術期口腔健康管理部 部長)
2026.6.5 Fri
術前の歯科受診が大事
もしもあなたが医師から、「あなたの病気を治すには、手術を受ける必要があります」と宣告されたら、手術の前にしておくべき事として何を思い浮かべますか? 私はぜひ、歯科医院への受診をお勧めします。
炎症の原因にも
その理由の一つは、手術に対して問題となる歯がないかを確認してほしいからです。口には、歯周病や根尖(こんせん)病巣(根の先の病気)といった慢性の細菌感染巣を有する歯の病気が多く、その細菌が血流に乗って遠くの手術部位に感染することがあります。
特に、人工関節置換術や人工弁置換術などの人工物を体内に埋める手術では、血管内に侵入した細菌が人工物周囲の炎症を引き起こし、手術が失敗する原因となることがあります。
全身麻酔で手術を受ける場合には、口の中から気管に管を挿入(気管内挿管)します。もし、動いている歯やもろくなっている歯があると、気管内挿管時に歯が抜けたり、折れたりすることがあります。安心・安全な手術を受けるには、問題のある歯に対して、適切な処置を受けておくと良いでしょう。
もう一つの理由は、歯科医院で口の中を清潔にしてから手術を受けてほしいからです。歯に付着した細菌は、歯垢(しこう)という強固なバイオフィルムを形成し、歯垢1ミリグラム当たり数億の細菌が存在すると言われています。口、喉、上部消化管領域の手術では、口の中の細菌が直接的に手術部の汚染につながります。
全身麻酔時の気管内挿管は、チューブを口や咽頭を通して気管内に挿入するため、口の中の細菌が術後肺炎のリスクとなることがあります。口の中を清掃し、細菌の量的・質的制御を行うことは、手術後の感染予防の観点から非常に重要です。
入院短縮に効果
そこでわれわれは、東北大学病院で全身麻酔の手術を受けた患者を対象に、手術前の口の管理がどのような効果をもたらすかを調べてみました。管理を行った患者は、術後合併症を発症する割合や術後の発熱日数が明らかに減っており、術後の入院日数の短縮と患者医療費の削減がみられました。手術前の口の管理は、患者にも、医療従事者にも、国の財政にも良い効果をもたらすことが分かりました。
東北大学病院では「愛(いと)し(医と歯)の関係」というキャッチコピーの下、医科歯科連携の強化に努めています。医科と歯科が「愛しの関係」を築くことで、地域全体で安心・安全な手術を受けられるようにしていきたいです。手術が決まったら、ぜひ、医師に紹介状を書いてもらい、歯科を受診してほしいと思います。
河北新報掲載:2023年5月12日
飯久保 正弘
(いいくぼ まさひろ)
福島県出身。1994年東北大学歯学部卒業。その後、東北大学歯学部口腔診断学分野に入局し、2020年より東北大学歯学研究科歯科医用情報学分野教授に就任。2021年より東北大学病院 顎口腔画像診断科科長、周術期口腔健康管理部部長に就任。