
口腔健康管理で全身の健康を支え、その重要性と歯科衛生士の役割を伝えたい
小野寺芽美、小池咲、渡部千代(東北大学病院 診療技術部 歯科衛生部門)
2026.5.27 Wed
う蝕(虫歯)や歯周病に限らず、手術や治療を受ける患者さんの口腔内を管理し、全身の健康を支える東北大学病院の歯科衛生士。臨床で経験を積みながら昨年、学位を取得し、将来的に研究発表も目指す小野寺芽美さん、小池咲さんと、学位取得の先輩でもある歯科衛生部門長の渡部千代さんに話を聞きました。
歯科衛生士を目指したきっかけは何ですか。
小野寺
もともと歯科助手として歯科医院で働いていましたが、それまで虫歯もほとんどなく、歯医者さんに通う経験もほぼなかったので、どんな治療が行われているかも全然知らなかったんです。働くうちに、「なぜこういう治療をするんだろう」「どうしてこういう状態になるんだろう」と疑問が増えていき、もっと知識を付けたいと思って歯科衛生士を目指しました。
小池
逆に私は子どもの頃から歯科が身近でした。なぜなら家族みんな歯が弱くて、兄なんてすごく嫌がって歯医者さんを困らせていたんです(笑)。大学卒業後に歯科助手として働き始め、先生が治療をしているのを見ながら、「どうしてこういう治療をするのか知りたい」と思うようになり、もっと知識と技術を身に付けて歯科医療に関わろうと、歯科衛生士学校に入りました。
東北大学病院に入職した理由は。
小野寺
学生時代の臨床実習で、口腔がんの患者さんや入院患者さんへの口腔ケアを見学した時に、「口の中だけじゃなくて全身とつながっているんだ」と実感したことがきっかけです。学校でも知識としては学んでいましたが、とてもやりがいのある仕事だと感じて、地元の宮城で多くの患者さんを診ている東北大学病院で働きたいと思いました。そして歯科衛生士として臨床経験を積みながら、大学院歯学研究科修士課程を修了しました。
小池
私は学生だった時期がコロナ禍で、大学病院実習もほとんどありませんでしたが、周術期の口腔衛生管理について学んだ時に強く興味を持ちました。それまでの一般歯科とは違って、がんの化学療法や放射線治療を受ける患者さんに対して口腔衛生管理を行うという役割に意義を感じて、「病院歯科で働きたい、それならば東北大学病院で」と思うようになりました。そして小野寺さんと同じく、歯科衛生士として働きながら大学院で学びました。
歯科衛生士の仕事について教えてください。
小野寺
歯科衛生室は定期的に異動があるのですが、以前は周術期口腔健康管理部で主に手術や化学療法、放射線治療を受ける患者さんに対して、口腔衛生の指導や処置を行っていました。例えば手術では、呼吸を助ける管を口から入れるのですが、口腔内の細菌が多いと肺炎につながることがあります。また、歯周病などで歯がぐらついていると、手術中に歯が抜けて気道に落ちてしまう危険もあります。そうしたリスクを減らすため、口腔環境を整えたり、マウスピースを作製する手伝いをしたりしています。
小池
化学療法や放射線治療では、副作用として口内炎や粘膜炎が起こることがあります。免疫が下がることで痛みや腫れが強くなる患者さんも多いので、ケアの方法を一緒に考えたり、口腔衛生管理(ケア)を行ったりしています。痛みがあると自分で歯磨きするのも難しくなり、口の中が汚れるとさらに悪化してしまうため、その悪循環を防ぐ役割も大きいと思っています。
渡部
東北大学病院の歯科外来はさまざまな専門分野に分かれているため、歯科衛生士の役割もフロアごとに異なります。周術期口腔管理だけでなく、訪問歯科や障害者歯科、全身麻酔下での手術の介助、先端歯科医療センターでの診療など幅広い業務の他、NST1や摂食嚥下等の医科歯科連携にも携わっております。2人は入職から5年ほどで、さまざまな部署を経験して病院全体の役割を理解しながら学んでいる段階です。大学病院の歯科衛生士として多様な経験を積みながら、今後は研究や情報発信にも活躍の場を広げていってほしいと思っています。

病院歯科ならではのやりがいはどんなことでしょう。
小野寺
まず今の仕事で大切だと感じているのは、教科書通りではなく、患者さん一人一人に寄り添って口腔の重要性を伝えることです。一般の歯科医院ですと、「歯の治療をする」というイメージを持っている患者さんが多いと思うのですが、病院歯科では、全身と口腔の関わりを患者さん自身に実感してもらいやすい面があります。「口の中をきれいにすると、こういうふうに全身にも良い影響がありますよ」と説明した時に、「そうなんだね」と納得してもらえた時はうれしいです。
小池
寄り添うという点では、がん治療を受けている患者さんは「歯のことなんて二の次だ」という気持ちだと思うので、その気持ちは忘れないように心がけています。その上で、「でも口の中をきれいにしておくと改善も回復もしやすくなりますよ」と無理なく伝えて、退院後に少しでも歯への意識が高まってくれたらうれしい。「これからもちゃんと通おう」「歯ブラシやフロスはどうしたらいいかな」といった言葉が患者さんから聞けた時は、関われて良かったなと思います。
これから挑戦したいことはありますか。
小野寺
フロアを異動してこれまでとはまた違う経験ができる環境になったので、大学病院全体の仕事を理解しながら、多くのことを学んでいきたいです。将来的には研究や情報発信にも関われたらと考えています。歯科衛生士がどういう職種で、全身管理にどう関わっているのか、病院歯科だからこそ得られる知見を学会などで発信していけたらと思います。
小池
私は大学院時代から周術期の口腔管理に関する研究を続けているので、歯科と医科の関わりについて研究を進めて、同じように歯科衛生士の役割をもっと多くの人に知ってもらえるようにしたいです。患者さんだけでなく、他職種の方々にも「歯科衛生士ってこういう役割を担っているんだ」と理解してもらえたらうれしいですね。
渡部
私が学位を取得した頃は、養成校の教員や大学の教授となり、教育の充実に力を注いでいた時代でした。ですから、昨年新たに次世代の若手2人が学位を取得し、臨床や研究に取り組んでくれていることを、とてもうれしく思っています。私はもう少しで役職が終わるので後進へバトンタッチになりますが、これから予防業務がますます重要になっていきますし、研究や情報発信できる歯科衛生士が増えることで活躍の場もさらに広がっていくと思います。大学病院には病院に貢献できる多くの可能性を秘めた歯科衛生士がいることを、もっと知ってほしいですね。

休日の過ごし方を聞かせてください。
小野寺
昨年娘が生まれて、今は娘中心の毎日です。日々成長していく姿を見ていると時間が溶けていきます(笑)。出産前はソロキャンプやスノーボード、サウナによく行っていたので、娘が大きくなったら一緒に楽しめたらいいなと思っています。
小池
大好きなキャラクターのグッズを集めるのが趣味で、周りの人もそれを知ってくれているのでプレゼントしてくれることもあります。休日は、そのキャラクターたちに囲まれて、見つめられながらゴロゴロしているのが至福の時間です(笑)。


小野寺 芽美(おのでら めぐみ)
宮城県出身。歯科衛生士。2019年より東北大学病院 診療技術部 歯科衛生部門に勤務。2025年度に学位を取得。
小池 咲(こいけ さき)
宮城県出身。歯科衛生士。2022年より東北大学病院 診療技術部 歯科衛生部門に勤務。2025年度に学位を取得。
渡部 千代(わたなべ ちよ)
宮城県出身。歯科衛生士。2008年度に学位取得。2015年より東北大学病院 診療技術部 歯科衛生部門に勤務。同年より歯科衛生部門長(歯科衛生士長)。
- NST:「Nutrition Support Team (栄養サポートチーム)」の略。患者さんに最適な栄養療法を提供するために、医師、管理栄養士 をはじめ、看護師、薬剤師、臨床検査技師、歯科衛生士などの多職種が、それぞれの専門知識を生かして連携する医療チームのこと。 ↩︎