三角巾とウォークマン
松木彩
2026.11.5 Thu
入院生活が、私の原体験です。三歳のころ、ソファから落ちて右腕を骨折。入院したとたん謎の高熱も発症し、退院まで一ヶ月もかかってしまいました。
骨折した右腕は固定され、左手には点滴。両腕を封じられた一ヶ月。両親からプレゼントされたのが「ウォークマン」と、たくさんの「おはなし」が入ったカセットテープでした。
いろとりどりの物語が入ったカセットテープを繰り返し聞いて過ごした日々。声で紡がれる物語は私にいろいろな世界を想像させました。
正直、どんなお話があったのか、今となっては一つも思い出せないのですが、病室が怖かったとか、入院が退屈だったという記憶もないのです。楽しい時間だったのだと思います。
退院直後の旅行で、はしゃいで転んでまた右腕を骨折するという愚行を犯し、当時の私は常に三角巾で利き腕を封じられていました。本を読んだりして過ごすうちに、すっかり内気で妄想癖のある子供ができあがりました。
あの日々が自分の原点かもなあと、ふと思い出すことがあります。そしてもしあのとき両親がくれたのがキラキラのシールとかだったら、陽気なギャルになっていた世界線もあるのかなと、ときどき妄想してしまうのです。
松木 彩
宮城県仙台市出身。東北大学卒業。ドラマディレクター、映画監督。2011年TBSテレビに入社。主な演出作品は『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』シリーズ、『テセウスの船』、『半沢直樹』、『下町ロケット』、『くるり〜誰が私と恋をした?〜』など。