猛暑を乗り切る漢方の知恵
菊地 章子(東北大学病院 漢方内科 講師)
2026.9.4 Fri
生活習慣で不調を防ぐ
気と潤いに着目
毎年のように厳しい暑さが続き、体調を崩される方が増えています。熱中症や夏バテから身を守るため、まずは一般的な予防策の徹底が大切です。小まめな水分と塩分(電解質)の補給、エアコンや扇風機による適切な室温と湿度の管理、日傘や帽子、風通しの良い衣服などの着用が基本となります。体温の上昇を防ぎ、脱水状態を避けることが命を守る第一歩です。
一方で、東洋医学では夏特有の不調を少し違った角度から捉えます。いわゆる熱中症や夏バテは単なる「体温上昇と水分不足」ではなく、猛烈な暑さによって体の「気(生命エネルギー)」と「津液(体の潤い)」の両方が奪われてしまった状態(気陰両虚(きいんりょうきょ))と考えます。大量の汗とともに気が体の外に流れ出てしまい、さらに暑いからと言って冷たいものを取り過ぎると胃腸が弱り、食事から新しいエネルギーをつくり出せなくなる悪循環に陥ります。
既に夏バテが進行し、だるさや食欲不振などの症状がつらい場合には、失われた潤いとエネルギーを補いながら体にこもった熱を冷ます「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」や、弱った胃腸の働きを立て直して元気を引き出す「補中益気湯」、また冷房で冷え過ぎた場合は夏でも体を温める漢方薬を用いることがあります。
軽く汗をかいて
しかし薬に頼る前に、東洋医学の考え方で日々の生活習慣を見直し、不調を未然に防ぐことも重要です。猛暑を元気に乗り切る知恵として、以下のポイントを意識してみてください。
第一に、胃腸に負担をかけないことです。トマトやキュウリなどの夏野菜は体の熱を優しく冷ます効果がありますが、取り過ぎると胃腸を冷やしてしまいます。飲み物はなるべく常温を選び、冷たいものを食べる時はショウガやネギなど体を温める薬味を添えてバランスを取りましょう。
第二に、「衛気(えき)」を鍛えること。衛気とは体の表面を覆うバリアー機能で、毛穴を開閉して汗をコントロールする役割を持ちます。冷房の効いた部屋に一日中いると、この機能が落ちてしまうため、涼しい時間帯の軽い運動や湯船に漬かって「うっすらと汗をかく」習慣をつけましょう。
エアコンや水分補給といった一般的な対策に東洋医学の知恵も併せることで、厳しい夏を健やかに乗り切りましょう。
河北新報掲載:2026年7月10日
菊地 章子
(きくち あきこ)
宮城県出身。1997年秋田大学卒業。2004年東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。同年、東北大学病院老年・呼吸器内科医員。2009年東北大学病院婦人科医員、2015年東北大学病院総合地域医療教育支援部医員。2016年東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学寄附講座助教。2019年より東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座講師。